8月28日

 10時過ぎまで眠ってしまう。テレビでは「十分な量が供給されるようになったとの理由から、明日以降はマスクと消毒液の転売が解禁される」と報じられている。『AMKR手帖』の撮影のために購入した物があり、経費で請求できるものかとおそるおそる尋ねたところ、経費として支払えると連絡をいただいていた。精算は月末締めだと言われていたことを思い出し、いそいそと伝票に記入し、郵便局から発送する。ついでに本駒込マツモトキヨシまで足を延ばし、棚を眺める。ビオレの泡ハンドソープ、6月あたりは「4回ぶん」の大きな詰め替えボトルを店頭で見かけていたのに、最近は「1.9回ぶん」の小さな詰め替えボトルばかり並んでいた。今日は「3.5回ぶん」と書かれた詰め替えボトルが並んでいる。きっと容器の生産が追いつかなくて、別のラインで製造しているのだろう。容器の質感が今までとは違っている。不織布マスクとアルコール消毒液は見当たらなかった。

 12時、納豆オクラ豆腐そば(冷)。『ワイドスクランブル』では「“総理代理”あらかじめ指定へ/総理の“後継”どう決まる?」との見出しで、内閣総理大臣の臨時代理の順位をパネルで示しながら、総理が職務を続けられなくなった場合にどういった事態になるのかと解説している。いやな感じがする。午後はハードディスクレコーダーの中身を整理し、残したい番組をブルーレイに焼きながら過ごす。『ゴゴスマ』が「“健康不安説”体調の説明あるか?」との見出しで、今日の夕方に予定されている官邸会見のことをコメンテーターたちがアレコレ予測しているところに、14時12分、速報の音が鳴る。「安倍首相が辞任の意向固める」と一行だけ、短いテロップが表示される。キャスターがコメンテーターの話を遮り、テロップを読み上げる。女性アナウンサーが情報を整理しているところだと言葉を添える。録画ボタンを押し、チャンネルを回す。他の民放ではまだそのニュースは報じられていなかったが、NHKはすでに「速報 安倍首相 辞任の意向固める」とテロップが表示されている。先週の火曜日にYMUR新聞を訪れたときに、具体的に何がどう違ったのかと言われると説明しづらいのだけれど、どこか雰囲気が違っていた。なにか大きな動きがあるのだろうという空気を感じていたので、知人には「もしかしたら、こんな時期に解散総選挙とかあるんかもしれんで」と伝えていた。ここ数日はずっと総理の健康不安説が情報番組で報じられていて、なんとなく漏れ伝わってくる空気が蔓延したところに、こうして辞任が報じられる。あまりにもふわふわしていて、いやな感じがする。これはほんとうに2020年の出来事なのだろうか。

 すぐさまハードディスクレコーダーの録画予約の画面を開き、ニュースを扱う番組を片っ端から録画予約しておく。誰が何をどんな口ぶりで語ったのか、記録を残しておくことにする。『ゴゴスマ』にチャンネルを戻すと、政治ジャーナリストの角谷浩一がコメントしている。「体調が悪いっていうことは、ずっと伝えられてるけども、最後は気力なんですよ、総理大臣は。やっぱり、やる気が漲っていないと、毎日の神羅万象に対応できないと。こういうこともあって、総理大臣がやめるっていうのは体調だけじゃない、あとはやり続ける覚悟みたいなものが、もうちょっと調子が悪くてそういう気持ちになれないというときには、やっぱり、もう、潮時だなと自分で感じてらっしゃったのかなあと」。最後は気力。そんなものなのだろうか。令和になっても、そんな働き方しかないのだろうか。

 ジャーナリストの鈴木哲夫という人物が電話でコメントしていたところを、キャスターが遮り、「ちょっとね、鈴木さん、またのちほど聞かせてください。東京のスタジオです」と告げると、14時45分、画面が切り替わる。伊藤隆太というアナウンサーが映り、「えー、あらためて、東京のスタジオから、このニュースについてお伝えします」と語る。この事態に気が張っているのか緊張しているのか、どこか硬い感じがする。それに対して、コメンテーターとして出演する星浩はリラックスした様子だ。もうひとりのコメンテーターとして出演する政治家の中谷元は、「突然、テレビでですね、報道が流れて、知りましたけども、ほんとに、予想をしてなくてですね、びっくりしました」と語る。しかし、誰か政治家にも出演をと出演を打診したのだろうけれど、どうして中谷元だったのだろう。

 15時、画面は再び『ゴゴスマ』のスタジオに切り替わる。医師の森田豊がネット中継で登場し、潰瘍性大腸炎の説明をする(同じ時間帯の他局では、病気のことを改めて解説する様子は目にしなかった)。その後に、もう一度東京のスタジオに切り替わったときも医師が登場し、病気の解説をしていた。突如として「総理辞任」の報道があったときに、製作陣が真っ先に思い浮かべたのがどのテーマで、誰に声をかけようと思ったのか、違いが出るので興味深いところだ。

 日テレの『ミヤネ屋』では、14時15分頃に速報が流れ、すぐに政治評論家の有馬晴海が電話出演する(そのお膳立てを整えてから速報を流したのだろう)。真っ先に口にしたのは、「(辞任の原因は)病気の思いますが、これはお医者さんとご本人しかわからないことですから、我々がいろんな憶測をしながらも、最終的には『これ以降やっていくのは厳しい』とご自分で判断なさったんでしょうから、それはもうやむを得ない」という言葉だ。

 スタジオにいた読売テレビの解説委員長・高岡達之が話を引き継ぐ。「当然、(総理が)誰かにおっしゃったから、こうやって速報で漏れてくるということになりますね。ということは、言っておかないといけない相手に、意向をおっしゃったんだろうということになる。そうすると、朝の麻生副総理との会談が意味をもってくることになるのかもしれませんけど」。その言葉を受け、宮根が「やっぱり、連立政権ですから、公明党の山口代表にも当然ね」と返す。「いや、まあ、それは」と、少し言葉を選ぶように高岡達之が言う。「まあ、どなたからの情報でということは各社まだ明らかにしていませんので。もう一つ言っておくと、『辞任の意向』ということですから、今日すぐなのか、あるいは、どなたか代理を置きながら様子をご覧になるかということまでは、ちょっと予断ができません」と。

 もう少し時間が進んだところでも、高岡達之はこれと近い話を繰り返している。「いろんな国会議員の方に話を聞きますと、『荒れた状況になることを望む人から、総理のご体調について憶測の話が出てくるんだよ』って、ちょっと気色ばんで言う方もいるわけですよね」と。それに対し、宮根が「誰、それ?」とツッコミを入れると、「言えませんよそれは、私はまだ組織人ですから」と高岡が笑うと、他のコメンテーターも一斉に笑う。いやな感じだ。こうして番組を観ているわたしたちとはまったく別の世界で、知らないうちに話が進んでいて、すべてが決められているかのような印象をおぼえる。ただ、高岡達之は、そうして様々な情報を伏せざるを得ないなかで、どうにか視聴者にメッセージを発信しようとしているのだろう。ポスト安倍の話題になったところで、「一つ、ヒントになるかもしれません」と高岡は切り出す。「国民に対して『自分が(総理総裁に)なったらこうするんだ』ということを表明されるひとつの準備としては、本を出すとかね、いうことがあって。さっき後継で名前が上がっておられる方の顔写真が出てましたが、近々出される方とか、最近出した方とか、いう方も入ってるんです。そういうものを出すということは、あの、来年が本当だったら安倍さんの任期(期限)だったわけで、(総裁選と)なった場合にはすぐ手を挙げられる心積りをしてる方は、ひとりとか、ふたりでは実はないということも、あるんです」。

 対照的だったのは、15時13分から電話で出演した外交ジャーナリストの手嶋龍一だ。「ぼくは比較的、官邸のど真ん中で働いている人たちと、ええ、こないだからやりとりを。もちろんその人たちも、ええ、明確な総理の胸の内を知っていたわけではないんですけれど、どうも様子が違うというようなことでありましたので、ええ、こんなに早く、健康問題の、ええ、記者会見を構えること自身がありえないことではあったのですけども、しかし、ええ、何が起きてもという感じは持っておりました」と、自分は内情を知っているのだということがまず切り出される。そして、「G7首脳の中で、安倍さんぐらい長く、いろんな人たちと比較的よい関係を紡いできたという指導者はほとんどおりません」「その点で、内政では様々な問題もあって厳しい批判を浴びてるんですけれども、外交に限って言えば、ポスト安倍人は大変だというふうに思います」と語る。

 『ミヤネ屋』には、速報が流れてからすぐ、政治ジャーナリストの伊藤淳夫も電話で出演していた。「これだけ長期政権をやっていながら、言ってみれば、歴史に名が残るような実績・成果っていうのはまだ上がってないわけですね」とバッサリ斬る。そしてポスト安倍という話になると、「具体的にハッキリ言うとですね、もし党員投票になった場合は、やっぱり、安倍さん麻生さんが『この人だけはなって欲しくない』と思ってる石破さんがなる可能性がある」と淡々と口にする。その話を聞きながら、宮根はなるべく表情を変えないようにしている(だから少し口元が強張って見える)。そして、淡々としたふうに「思いっきり言ってるじゃないですか」とツッコミを入れる。やはりこういうタイミングでは手を動かさずにはいられないのか、手でネクタイに触れながら、「思いっきり言っちゃってるじゃないですか」と繰り返す。自分がこの場で無反応を貫いたのだと示しておきたいのだろうか。

 この番組で――というより、この時間帯に放送されていた番組の中で――最もまっとうに感じたのは、電話出演した読売新聞特別編集委員橋本五郎だ。

「ここで私たち大切なことは、この日本憲政史上最長の内閣の、この、功罪。いいところと悪いところ、ここを冷静に観ておく必要があるんですよね。で、すぐ『レガシーがない』と、『それは憲法改正だったんじゃないか』という議論になるんですけども、私はやっぱり、この歩みをひとつひとつ、どうだったのかっていうことをやっぱりね、きちんと点検することによって、これからどうあるべきかっていうことを考える、一つの材料にしなければいけないと、そう思いますよ」

 橋本五郎の話に、「まあ、なんか、五郎さん、やっぱり、何だろう」と、宮根はめずらしく言葉に詰まった様子でいる。「『功罪』っていう話を五郎さんされましたけど、またご病気でお辞めになるって言ったら――個人的な思いですよ――可哀想だなと思っちゃいますけど」。宮根の言葉に、「いや、それはしかし」と橋本五郎が返す。「逆に言えばですよ、17歳のときでしたっけ、その病気を抱えながら、しかしそれを克服しながら総理大臣までのぼりつめて、さらに憲政史上長いあいだ総理を務めたっていうことは、これは同じ病気をもっている人たちにとっては、それは特別な感慨だと思いますよ」

 この時間帯の中で、一番酷いものを見たと感じたのは『グッディ!』だ。まず、この日スタジオにいた田崎四郎がこう語る。「総理が今日表明されたのは、9月はね、わりあい国会開かれてないし、外交日程も今年はないんで、政治日程余裕があるんですね。だから自民党総裁選がおこなわれるということもあって、わりと早めの退陣表明をされてるんですよ」――念のために書いておくと、これはまだ14時台だ。つまり、公にはまだ辞任の「表明」はなされていないにもかかわらず、すでに「表明」と語る。この人は本当に言葉の世界で生きてきた人なのだろうかと疑ってしまう。あるいは、自分は政権の内側にいるという認識から話しているから、この時点で「表明」と口にしたのだおるか。

 メディアの編集委員の立ち位置にある人でも、様々な人がいるものだ。読書委員会で一緒になる方でもあるから、あんまり言うとヨイショするみたいになってしまうけれど、『ミヤネ屋』に出演していた橋本五郎と比較すると、余計にそう感じられる。

 フジテレビの上席解説委員の平井文夫は、ポスト安倍について、「今、突然がらっと政権が変わってね、全然違うことをすることに、はたして国民は耐えられるのだろうかということを考えると、安倍さんが新しい総裁を誰にするのかということについて、もしかしたら安倍さんの影響力が働く可能性もあるのかなと思います」と語る。この「はたして国民は耐えられるのだろうか」という言葉を語るとき、自分はどの視点に立ち、どの角度で「国民」を眼差しているのだろう。少し経ったところで、この上席解説委員は再びこの問題に言及し、「やはりね、この、コロナがまだ治ってない、経済が大変なことになっている、それからいろいろ天災もいっぱいあるというなかで、突然まったく別物の政権ができるというのは、少し怖いという感じもしますよね」と語る。

 こうした感覚が拡散されることで、政策云々よりも変化を拒絶する流れが生まれ、安倍政権がこれほど長期政権化したのだろうなと感じる。この『グッディ!』で面白かったのは、キャスターの安藤優子が平井文夫に切り込んだところだ。ポスト安倍について意見が交わされるなかで、安藤優子河野太郎の名前を挙げ、「派閥云々にとらわれない新しい政治家のイメージがある」と言う。それを受け、平井文夫は「この人はお父さんと違って、外交・防衛。経済に関しては保守なんです」と返す。「リベラルじゃないんです、お父さんと違って。ただ、さっき言った女系天皇の問題とか原発の問題とか、社会政策についてはリベラルなんですよ。最近そういうのが流行ってるんですね。河野さんもイマドキの人なんで、そういう考えだと思うんですが、たぶんそれは自民党の保守派、あるいは世間の保守はの人には受け入れられないと思います」と。

「ただね、平井さん」と安藤優子が食い下がる。「まさにイマドキなのかもしれないですけれども、是々非々でいいじゃないですか。是々非々。それは右とか左とかっていう、そういうふうな分類ではなく、そのどちらでもない部分で是々非々でいくっていうのももちろんありなスタイルですよね?」と。数日前に、熱中症とおぼしき症状が出ている中継先のアナウンサーに対し、安藤優子が無茶ぶりする様子が批判を集めていた。それを観て、安藤優子に対してかなり評価が下がっていたのだけれど、今日はきっちり仕事をしている。

「ありなんですけども、女系天皇を認めるってことは現実的に無理だと思うし、それから原発もないと、たぶん無理ですよ」と平井文夫が言う。「できないことを――そういうことを言うからウケるからね、言ってるんだとぼくは思うんです。失礼ながら。それは、総理になろうと思ってるんだったらね、そういうことはやめたほうがいいんじゃないかと思いますね」。この言葉を引き出したのは、安藤優子、良い仕事をしているなと感じる。メディアの「上席解説委員」がこんな物言いをすることが公共の電波に晒されるというのは、とてもみっともないことだ。

 金曜日。

 書斎のようになっている部屋を整理しているうちに、献本として送られてきた本たちを片づけなければという気持ちになる。これまで献本なんて送られてきたことはほとんどなかったわけだから、ぼくが読書委員だからと送られてくるものが増えたのだろう。でも、自分が読みたい本は基本的にすぐ買うので、送られてくるころにはすでに買っているし、「献本されたから」という理由で読むことは滅多になく、まだ手にしていなかった本はまだ手にしていなかった本でやり場に困る。放っておけば狭い部屋がさらに狭くなってしまうので、本棚を整理し、5年以内に読まなそうな本はトートバッグに詰めていく。

 17時過ぎにアパートを出て、千代田線で西日暮里に出る。山手線に乗り換えようとしたところで、事故かなにかの影響で、電車の到着が遅れているとアナウンスが流れる。念のためにホームの一番端っこに移動し、電車を待つ。10分弱で電車はやってきたものの、そこそこ混んでいる。嫌だなと思いながらも乗り込んだら、駅に停まるたびに密度が増してゆく。こんなに密な電車に乗っているのは嫌だなと思っても、田端、駒込巣鴨、大塚で降りる人はほとんどおらず、乗り込んでくる乗客が増えるばかりで、降りようとすれば誰かに接触してしまいそうで、我慢して電車に乗り続ける。隣に立っていた乗客の袖が、鞄がぼくに触れるたび、いやいやいや、接触しないようにお互い踏ん張るべきやろとムッとしてしまう。そのたび、周囲から気が狂った人のように視線を向けられる。

 池袋で電車を降りて、はあ、やっと降りられた。メトロポリタン口を出て、思いトートバッグを抱えるように歩き、「古書往来座」へ。買取をお願いして、そのあいだに庄野潤三の本を2冊選び、買取金額と相殺してもらう。セトさんとYouTubeの話。「ちょっと、じっくり聞きたいから、セトさんのぶんも缶ビール買ってきます!」と100円ローソンに走りたいところだけれども、突然そんなことをされても困るだろうから、ぐっとこらえる。「古書往来座」をあとにして、自分のぶんの缶ビールを買って、飲みながら明治通りを下ってゆく。引っ越してもうすぐ3年経つというのに、まだ見慣れた風景だ。学習院下から路地に入り、昔暮らしていたアパートを眺める。あかりは灯っていなかったけれど、風呂場の窓は少し開けたままになっていて、誰かが住んでいるのだなあと不思議な気持ち。ここに住んでいたときは、今よりずっと生活が荒れていた。でろでろになるまで酔っ払って、パソコンの入ったリュックを神田川に投げ捨てたこともある。鍵がひとつしかなく、共同玄関はオートロックなのにぼくが酔っ払って先に眠ってしまって、結果的に知人を締め出してしまったことも一度や二度ではない。よくそんな環境で10年近く暮らしていたものだ。とんかつの「とん太」には今日も行列ができていた。

 高田馬場に住んでいた頃に通っていた近所の酒場も、ほとんど満席だ。カウンターに座るのは皆グループ客で、さすがにそこに入る気になれず、素通りしてしまう。山手線で新宿に出て、動線に戸惑いながら思い出横丁。駅の構造にも変化があったのだけれども、そこから先、地下街と繋がっているユニクロも、入店する客と退店する客の動線がぶつからないようにと調整しているので、これまでと同じようには歩けなくなっている。思い出横丁「T」をのぞくと、通りに面したカウンターだけ空きがあり、そこに座らせてもらって瓶ビールを飲んだ。ここで座っていると、行き交う人たちの姿が眺められて楽しいけれど、マスクもせずに大声で話しながら通り過ぎていく人も多く、ぴりぴりする。若い女性たちが何組も通り過ぎてゆく。「うわ、すごい人気!」と言いながら歩いていく姿を見ていると、不安はないのだろうかと思ってしまう。

 昨日、F.Yさんと話したことを思い出す。橋本さんは沖縄に住みたいと思わないんですかとYさんに尋ねられて、「まったく思わないです」と答えた。「意外です、橋本さんは思い入れがあるんだと――沖縄に限らず、いろんな場所に思い入れがあるんだと――思ってました」とYさんは言っていた。ぼくはむしろ、思い入れがないから、あちこち出かけることができるし、なにかに思い入れを持っている人の話を聞きたいと思うのだろう(でも、だとすれば、取材をするわけでもないのに、こうして頻繁に思い出横丁に足を運んでいるのは、どういうことだろう)。ビールとホッピーセットを飲んだのち、新宿3丁目「F」ヘ。今日も写真家のK.Kさんの姿があった。そして、カウンターのもう一端には物書きのO.Sさんの姿もある。

 Kさんと話していると、やはり安倍晋三の話になる。ぼくがテレビを録画しまくった話をすると、どうしてラジオでも新聞でもなくテレビなのかと尋ねられ、思い浮かんだことをぽつぽつ話す。今の時代にはまだ、一定の年齢層までにはテレビが主要なメディアとして存在感を持ち続けているなかで、そのテレビが総理大臣の辞任をどのように語り、それがどういう感慨を引き出そうとしているのかを観ておかなければと思った――と、そこまではっきり言葉で考えていたわけではないのだけれど、Kさんに話す。面白いじゃん、ベンヤミンだねとKさんが笑う。ひとしきり飲んだところで店をあとにし、階段を上がって地上に出たところで、QのM.Hさんに電話をかけ、今日の各番組を録画していることと、それをもとに記事を書けないかと相談する。ラーメン「N」まで歩いたものの、時刻はすでに22時半で、シャッターが降りている。入り口には「マスクの着用/お願いします」と貼り紙があった。