9月1日

 8時過ぎに目を覚ます。昨日は25時過ぎまで『アンナチュラル』を観ていたせいで、知人は眠そうだ。「一緒にテレビを観るのに付き合わされると、生活が崩れるから、ちょっと考え直すけど」と知人が苦情を言う。冷凍ごはんを解凍してたまごかけごはんを作り、少し遅めの朝食をとっていると、『ノンストップ!』(フジテレビ)でSNSで話題だという「やすもと醤油」が紹介されている。それをたまごかけごはんにかけて食べている映像を眺めていると、自分はたまごかけごはんに醤油をかけ過ぎているのかもと不安になる。雨の予報だったけれど、夕方くらいまでは持ちそうなので洗濯機をまわす。洗濯物を干しにベランダに出てみると、すっかり秋の空気になっている。これは乾くのに時間がかかりそうだなと、Tシャツはハンガーから外し、物干し竿に引っ掛けておく。

 お昼のニュースを眺めていると、総理大臣が防災訓練として記者会見する様子が流れてくる。沖縄に台風が直撃し、今度は台風10号もやってきそうだというのに、何をやっているのだろう。コロナ禍の真っ只中で、もっとやるべきことがあるのではと思うけれど、小林信彦が、関東大震災以降は徹底して防火演習が繰り返されていたのに、それが太平洋戦争が始まると関東大震災での火事のおそろしさの記憶が受け継がれなくなった、と書いていた気がするけれど、今『日本橋バビロン』や『和菓子屋の息子』をめくっても、その記述を見つけられなかった。いずれにしても、目の前のことにだけ対応するばかりでなく、かつての記憶を留めておくのは大切なことでもあるのだろう。

 近所の八百屋に出かけ、オクラを買ってきて、納豆オクラ豆腐そば(冷)を作って平らげる15時過ぎに洗濯物を取り込んで、傘を持ってアパートを出る。まずは「往来堂書店」を覗く。今日は読書委員会があるので、何か気になる本があれば自分で買って持ち込みたいところ(すでに1冊気になる本は手元にあるのだけれども、それはぼくが書評するより、京都出身の委員の方が評したほうがよいかもという気がしている)。棚を眺めていると、ちいさなほんが目に留まり、これを持ち込もうかとしばらく悩む。その本を持ち込むというのは、「こんなちいさな出版物もあるんですよ」と、自分が目を利かせているように振舞うために本を利用するだけではないのか、その本のことを全身全霊で「面白い本です!」と言えるのかと葛藤し、何も買わずに店をあとにする。

 千代田線で新御茶ノ水に出る。スノーボードやスキー板を扱うお店の前で、店員さんがぼんやり立ち尽くしている。神保町に出て、「三省堂書店」と「東京堂書店」を巡ったものの、これぞという一冊は見つけられなかった。16時35分、YMUR新聞に到着し、会議室へ。今日は2番乗り。机にずらりと並べられた本を眺めながら、自分が書評するべき本がないなあと困ったような気持ちになる。自分が持ち込んだ本を、「これはこの方が書評したほうがよいのでは」という人に一度渡してみたものの、「これはぜひ橋本さんが書評してください」と言われたので、自分で持ち込んだその本だけ読んでいた。20時ぴったりに委員会が終了。特に誰と話すこともなく、地下に降り、ハイヤーで送っていただく。今の状況になるまえは、委員会にはお弁当が出ていたし、終わったあとには懇親会が開かれていた。こんな状況でなければ、委員の誰かと仲良くなっていたかもしれないのにと思うけれど、車窓の風景を眺めているうちに、「そんなことはなかっただろうな」と思い直す。