5月7日

 9時過ぎまでぐずぐず布団の中で過ごす。昨晩は飲み過ぎてしまった。朝の情報番組は、駅前の様子を中継している。風呂を入れて、湯に浸かり、『感情天皇論』を読む。あまり読み進められず。昼、セブンイレブンでタンメンとおにぎりを買ってきて食す。午後は来週の北海道行きに向けてやりとりを。18時過ぎにアパートを出て、ファミリーマートであさりのおにぎりを買って、食べながら歩く。白山駅から神保町に出て、本の雑誌社を目指す。扉が開けっ放しになっていて、中を覗くと、入ってすぐのテーブルで作業をしている方がいる。あの、ライターの橋本ですと挨拶をすると、奥にいた編集者のTさんが、「今、校正をチェックしていただいているところです」と教えてくれる。よろしくお願いしますと挨拶。

 念校を受け取り、都営新宿線で新宿に出る。今日はまだ原稿に目を通すモードになれないので、思い出横丁の「T」ヘ。ホッピーセットと山芋バターを注文。このお店は昨日まで4日間休みだったせいか、今日は大賑わいだ。セットを飲み干したところで、チューハイとつくねを追加。会計を済ませて靖国通りを歩く。今日はあまり歩きづらいと感じなかった。新宿3丁目「F」に入り、新しいボトルを入れる。こちらもかなり賑わっていて、店の一番奥の席――そこを好んで座る常連さんもいる――に座ることになってしまったので、早めに切り上げる。新宿5丁目「N」に流れると、今日はRさんとKさんが店に立っている日だ。はっちゃんのインスタを見てると、将来は絶対に根津に戻ろうって気持ちになる、とKさん。前にここを訪れたのは『ドライブイン探訪』が刷り上がったばかりの頃で、もう3ヶ月経ってしまっているけれど、まだ目立つ場所に置いてくれていて、申し訳ない気持ちになりつつ、ウィスキーのソーダ割を何杯も飲んだ。

5月6日

 7時過ぎに起きる。コーヒーを淹れて、セブンイレブンのふんわりベーコンマヨロールを食べながら朝刊を読んだ。前川喜平・元文部科学事務次官の講演会で司会をした女性市議や、改憲反対デモに参加した障害者施設職員の元に注文したおぼえのない品物が通販で送りつけられたという記事が出ている。品物が「ブラジャー16枚がぎっしり」「美容ドリンク、青汁、まな板など」「保湿クリームや化粧水」とあり、普段ぼんやり過ごしているせいか「なぜ?」「もっと送られて恐ろしいものはあるだろう」と思ってしまったけれど、「女は政治のことに口を出さずに、美容や健康のことでも気にしてろ」ということなのかと少し経って気づく。そんな思考回路の人がいるなんて!と言っていても始まらないけれど、どうすればその溝が埋まるのだろう。

 午前中は再校のゲラにもう一度目を通す。昼、豆腐納豆オクラそばを平らげて、14時半に高田馬場に出る。駅前にある喫茶「ロマン」で待ち合わせ、『市場界隈』の打ち合わせ。諸々確認したのち、再校のゲラを戻す。16時、予約してあった美容院に入ると、いつも切ってくれているDさんが「橋本さん、観ましたよ」と言う。僕は自分の仕事が何であるかも言わず、出演することも言っていなかったのだけれども、『マツコの知らない世界』を偶然観てくれたのだという。切ってもらっているあいだ、手渡されたタブレットをいじる。先月利用したときまでは雑誌が置かれていたのだが、雑誌はやめてタブレットにしたのだという。アプリで読める雑誌の中に『Tokyo Graffiti』があり、なんとなく開いてみると、巻頭特集は「等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録」だ。グラビアと、ドールとおじさんの会話が記されている。数年前ならともかく、今のタイミングでそういうテイの特集を組むのはどうだろう――そう思って読み進めていると、テイではなく、実際にそうやって過ごしているおじさんを2年間追って撮影したのだという。すごい特集だ。前に「余命宣告後の生き方」という特集を組んだと何かで読んで、思い切った編集をしているのだなあと思っていたけれど、驚く。「普通」の幅を広げようとしているのが伝わってくる。

 髪を切ってもらって、早稲田通りを歩く。さっきの『Tokyo Graffiti』を思い返しながら、自分には何が出来るだろうと考える。世界のありようを少し変えるような本を出すには、どんな可能性がありうるだろう。そんなことを考えながら早稲田の青空古本祭をのぞき、今後の企画を練りながら数冊購入する。すごい風で、新書や文庫は飛びそうなほど。缶ビールを買って東西線に乗り、茅場町日比谷線に乗り換え、三ノ輪に出る。待ち合わせ場所のジョイフル三ノ輪を歩いていると、ムトーさんが立っている。場所がわかりやすいようにと、待っていてくれたのだ。そこでセトさん、サキ先輩とも合流して、缶ビールで乾杯。ジョイフル三ノ輪を訪れたのは初めてだが、この商店街で一冊本を作りたくなるほど、気になる風景がいっぱいだ。地図を見ずに歩き、飲んで、店に入り、さらに歩く。セトさんに企画を相談し、オーケーをもらう。「信濃路」にたどり着いたところで皆と別れて帰途につく。

5月5日

 8時に起きる。洗い物をしようとしていると、珍しく知人が起きてきて、こっちは自分がやるのでコーヒーをお願いします、と言う。コーヒーを淹れて、昨日買っておいたあんぱんを食べながら朝刊を読んだ。一般参賀のことが報じられている。午前4時半頃から並んでいた17歳の少年が、「新しい陛下のおことばを最初に直接聞きたい」と語っている。その少年は印西市に暮らしているという。その少年が、午前4時半に皇居前にやってきて、「新しい陛下のおことばを最初に直接聞きたい」と語る。それは一体どういった心境なのだろう。どこから沸き起こってきたものなのだろう。

 1つ下の記事では、15歳未満の子供の数が報じられている。平成元年には2320万人だったのが、今年4月1日には1533万人だったとある。急速に少子高齢化が進んでいる――それはもちろん知っていたけれど、ここまで子供の数が減っているのかと驚く。3分の2以下だ。「もう駄目やろ」と知人が言う。子供を育てるということをまったく考えていないので、ぼんやり。新聞を読み終えると、気持ちを整えて、再校のゲラに目を通す。昼に豆腐納豆オクラそばを食べて、ゲラに赤を入れ続ける。16時、セブンイレブンで買ってきた柏餅。

 18時にようやく終わり、部屋着のままアパートを出る。前野健太の「こどもの日」を聴きながら団子坂を下っていると、少年野球帰りの子供とその父親とすれ違う。父親は同い年ぐらいで、聴いている歌のような状況だ。「遊んでばかりいられないってのもわかるけど、それじゃ歌はやってこないでしょう」。谷中ぎんざは今日も大賑わいで、「越後屋本店」は満杯だ。しばらく立ったままアサヒスーパードライを飲んだ。とっくに飲み終わっている人を見やりながら、あっという間に1杯目は飲み干してしまう。ようやく席が空き、琥珀エビスを飲んだ。帰りにスーパーマーケットに寄り、ツマミとレモンチューハイを買い求める。ここ二日間、カネコアヤノばかり聴いている。「恋しい日々」という曲に、「冷たいレモンと炭酸のやつ/買った」という歌詞が出てくるので、あまり得意ではないレモンチューハイを買ってしまった。

 アパートに戻り、少しだけゲラを見返す。「恋しい日々」の歌詞をプリントアウトしてキッチンに貼り、一曲リピートしながら晩酌の支度に取りかかる。ほどなくして知人が帰ってくる。ここ二日間で急速にカネコアヤノにハマりつつあるけれど、一緒に過ごしていない知人は、そのスピードにギョッとしている。「冷たいレモンと炭酸のやつって、絶対これじゃないやろ。え、まさか、それで苦手なレモンサワー買ったん」と知人が言う。これじゃなかったか。もやしの醤油炒めと棒棒鶏と焼き鳥をツマミに、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(第3話)を観る。続けて、録画だけが溜まり続けていた『いだてん』、4話と5話をようやく観た。いろんな仕掛けが詰まっていて、観ると体力を使うので再生するのに覚悟がいるけれど、やはり面白い。

5月4日

 6時過ぎに目を覚ます。7時には布団から這い出して、昨日買ってきた大塚英志『感情天皇論』(ちくま新書)読み始める。昨日は眠る前に喧嘩になったせいか、知人が早めに起きてきて、動物のように頭を肩にすり寄せてくる。コーヒーを淹れて、焼きそばパンを食す。朝刊に目を通したのち、ムトーさんとのトークイベントの告知をする。シャワーを浴びて、3月21日のトークイベントの構成に取りかかる。昼、何日か前に知人が買ってきたまま冷蔵庫に保存されていた麻婆豆腐丼をチンして食べる。弁当が何日も持つのかと思うと、と、考えるのをやめて平らげる。

 15時過ぎ、構成をまとめ終えて、メールで送信。外では雷鳴が響き、急に暗くなっている。まだ洗濯物が乾いてないので、2分に1度のペースでベランダの様子を伺う。16時半に洗濯物を取り込んで、雨が降り始める前にと、小走りでスーパーマーケットに出る。カップヌードルナイスで小腹を満たし、『感情天皇論』をちびちび読む。19時、チューハイを飲み始める。もやしの醤油炒めをツマミに飲んでいると、知人が帰ってくる。仕事が一段落するのに合わせて、鯖の塩焼きを焼き、市販のタレで棒棒鶏を作り、乾杯。『腐女子、うっかりゲイに告る』(第2話)観る。三浦すげえなと知人が言う。脚本を書いているのはロロの三浦直之さんだ。僕も頷く。

 ツマミを追加しようと、長芋をカットしてグリルで焼いているあいだ、知人に洗濯物の匂いを嗅がせてみる。昨日、新しい洗剤を買ってきて、それで初めて洗濯してみたのである。昨日はテイスティングをするように、買ってきたばかりのアタックZEROの匂いをずっと嗅いでいて、知人に白い目で見られたけれど、洗濯の仕上がりはまた少し違っている。たしかに匂いは落ちるのだろうけれど、「加齢臭も落とします!」という感じがする。それで知人に嗅がせてみたのだけれども、知人は「こっちの方が好きだけど」とだけ言う。

5月3日

 7時過ぎに起きる。洗濯機をまわして、布巾と雑巾を手洗いして除菌・漂白し、干す。シャワーを浴びて、コーヒーを淹れて、少しだけタンブラーに入れてアパートを出る。二重橋前駅で千代田線を降り、不安な気持ちになりながら歩き続け、京葉線のりばにたどり着く。手を繋ぐカップルや小さな子供を連れた家族連れが多くいて、ああそうだ、この路線はディズニーランドの最寄駅があるのだと思い出す。ただ、ディズニーだけでなく、僕の目的地である海浜幕張で降りる人も大勢いる。一体何があるのかと不思議に思っていると、幕張メッセフリーマーケットが開催されているらしかった。こんなふうにゴールデンウィークらしい日々を過ごしている人たちに出くわすと、びっくりしてしまう。

 10時半にbayfmにたどり着く。サトミツさんを見かけ、リトルトゥースとして声をかけたい衝動に駆られるが、そんなふうに声をかけられても困るだろうと我慢する。11時、『MOTIVE!!』という番組に出演する。MCは安東弘樹さん。『アッコにおまかせ!』に出演されている姿をずっと観ていたので、不思議な感じがする。どこのドライブインの話をしようかと、事前に想定していた内容があったのだけれども、「本を拝読していて、最後の『ドライブイン薩摩隼人』の方の話をどうしても紹介したいんです」とCM中に安東さんが言ってくださる。そんなふうに熱心に読んでくださったのかと嬉しくなり、話を組み直して、「薩摩隼人」の話をする。安東さんが読んでくださったのはこの箇所だ。

「今はな、民主主義を知らん人が多いよ」。貞美さんはそう切り出す。「人は皆、それぞれ考えが違うでしょう。違う考えを尊重する、それが民主主義よ。でも、今は違う考えを持っとる人を否定するでしょう。それではいかんわけよ。そうすると争いが生まれる。『軍国酒場』をやりよったけど、右翼でも国粋主義者でもないわけよ。戦争はいかん。もし戦争が起きれば私は逃げますよ」

 途中に1分ほどニュース原稿が読まれる時間があり、そこで気づいたのだけれども、今日は憲法記念日なのだった。あっという間に30分が経過し、お礼を言ってスタジオを出る。窓の外にはマリンスタジアムが見えて、向こうに海が広がっていた。ケータイを控え室に置いていたので、その風景を写せなかったのが悔やまれる。同じように京葉線と千代田線を乗り継ぎ、1時間かけて千駄木に帰ってくる。駅前で知人と待ち合わせ。酷い混雑ぶりだ。よく晴れているせいか、ソフトクリームを頬張って歩く人が大勢いる。どうしてこんなに細い道で、二人で並んで歩くのだろう。なんとか「砺波」にたどり着くも満席だ。他に選択肢も浮かばず、待つことにする。道路の向かい側の蕎麦屋も寿司屋も、長い列が出来ている。

 10分ほど待って、入店。まずはビールと餃子を注文する。別のテーブルのお客さんが、麺を皿に出している。食べきれなかったとしても、わざわざ出す必要はないだろうに。不思議に思っていると、その麺をビニール袋に入れて、鞄に仕舞っている。餃子が運ばれてきたところで、ラーメンとチャーハンを追加する。瓶ビールを2本飲んだ。テレビから大きな歓声が聞こえる。誰かが250本目のホームランを打ったらしかった。会計を済ませて店を出る。よみせ通りから流れてくる人の波だけで、今日は相当な人出だとわかるが、知人が「久しぶりに『越後屋本店』に行きたい」というので、谷中ぎんざを目指す。アサヒスーパードライを1杯だけ飲んだ。近くでやっている毒蝮三太夫のラジオ収録を見学に行く知人と別れ、アパートに戻る。

 18時過ぎ、バスで池袋に出る。バスは空いていたけれど、池袋は大学生くらいの若者で大賑わいだ。ビックカメラソーダストリーム炭酸ガスシリンダーを交換したのち、ジュンク堂書店に立ち寄り、何冊か本を買い求める。検索機で『ドライブイン探訪』を検索してみると、1週間前は52冊だったのに、53冊になっている。ということは追加で注文してくれたのだろう。先週は気づかなかったけれど、ノンフィクションが並んでいる1階の棚に並べてくれている。明治通りを下って「古書往来座」。のむみちさんが「『マツコ』観たよ」と声をかけてくれる。これからやりたい企画が5つくらいあると話していると、「でも、よかったねえ」とのむみちさんが言う。これまでは、どうやって形になるかわからないまま取材してたけど、形になることが見えると全然違うでしょう、と。たしかに、やりたい企画はまだどれも僕の頭の中にあるだけだけど、もうすぐ2冊目を出せることもあって、実現不可能ではないのだと思えている。

 「そうだ、瀬戸君と話した?」とのむみちさん。ゴールデンウィークで大掃除をしている人も多くて、買取が続いて店の中に入りきらなくて、外で整理をしているのだという。昨日、ちまっとした量で出張買取をお願いしたことが申し訳なくなったけれど、「はっち、団子坂はすぐ近くだから、全然いつでも気軽に声をかけて」と言ってくれる。コンビニでロング缶のアサヒスーパードライを2本買って、池袋駅に引き返す。時刻は20時を過ぎたばかりだが、酔いどれた若者たちが居酒屋から吐き出されている。山手線と総武線を乗り継ぎ、阿佐ヶ谷。やっぱり引き返そうかと思いつつも、思い切って「Roji」に入ると、ミシオさんが「あ、やっと飲める!」と言ってくれる。今日は何人かの方が店内のBGMを選曲していて、そのうちのひとりがミシオさんだ。福岡でトークイベントに出ていただいたあと、「また飲みましょう」と言っていたけれど、ようやく乾杯できた。周りの人たちに紹介してくれるときに、「氏は、普段はライターをしてるんだけど、この『ドライブイン探訪』に関しては、ルポライターだと持ってます」と、本を推薦してくれる。僕の仕事はドキュメントおよびルポルタージュだと思っているので、それを正しく言ってくれるだけで胸が一杯になり、音楽を聴きながら黙々とウィスキーのソーダ割りを4杯、ロックを1杯。

5月2日

 7時過ぎに目が覚める。自宅で晩酌していただけなのに、昨晩は飲み過ぎてしまった。8時過ぎに布団から這い出して、ゴミ出しを済ませる。今日は休日だからか、知人が早く起きてきて、「コーヒーは淹れんのん?」とせがんでくる。先にコーヒーを淹れて、セブンイレブンに出かけ、新商品のもっちり塩パン(チーズ)を買ってくる。コーヒーを飲みながら、久しぶりに新聞を熟読する。「私たちはこれまで、天皇に何でも期待しすぎだったのではないか」という皇室史研究者の言葉が目に留まる。そして、皇統を担えるのは「53歳の秋篠宮さま、83歳の常陸宮さま」、それに「12歳の悠仁さまを加えた3人しかいない」という記述に改めて驚く。一体どうしていくのだろう。

 昼、納豆オクラ豆腐そばを食す。午後は本棚の整理をして過ごす。15時過ぎにクロネコヤマトが宅急便の集荷に来てくれる。16時45分頃に再びチャイムが鳴り、おうらいざでーす、とインターホン越しに声がする。「古書信天翁」が閉店してしまって、「古書ほうろう」も移転して開店準備中である今、本を売りに行く先がなくなってしまっているので、セトさんに「別の用事で通りかかる時にでも」と出張買取をお願いしていたのだが、ムトーさんとふたりでさっそくやってきてくれる。二人は引越しも手伝ってくれて、引っ越したばかりの様子しか見たことがないせいか、中に入るなり「うわー、部屋だ」と口にする。段ボール2箱ぶんくらいだから、あっという間に運び出してくれて、車で走り去ってゆく。僕は鍵を忘れて出てしまって、しばらく待って大家さんに鍵をあけてもらう。

 17時過ぎ、散歩に出る。西日が強く射していたので、買ったばかりのサングラスをかけてみる。色が薄めのものにしたせいか、太陽が正面にあると眩しく、これで効果があるのだろうかと不安になる。よみせ通りも、谷中ぎんざも、すごい人出。「越後屋本店」でアサヒスーパードライを購入し、なんとか場所を見つけて腰を落ち着ける。お酒を買わずに座る人が後を絶たず、お父さんが「休憩所じゃないんで」と何度も断っている。観光客ばかりでなく、常連のお客さんも多くいる。あら、今日も仕事だったの。仕事だよ、なんだか知んねえけど祝日ってことになってるけど、今日は普通の日だよ。仕事帰りのお父さんが答えている。

 角の惣菜屋さんと焼鳥屋さんでツマミを買って帰り、19時から晩酌を始める。まずは4月30日に放送されたNHKスペシャル『日本人と天皇』観る。気合の入ったドキュメンタリーだ。ここ数日、テレビをつければ「こういうときって、こういう言葉遣いをしておけばいいんでしょう?」という意識が透けて見える言葉が溢れ返っているなかで、ナレーションの一言一言にまで意識が巡らされている。具体的に書き始めると大変だから省くけれど、「終戦」ではなく「敗戦」という言葉を使っていた。驚いたのは、ここ400年の天皇の中で、側室の子ではないのは明正天皇昭和天皇、それに(放送時点での)天皇陛下の3人だけだと語られていたこと。側室という文化が昔は普通のもので、「家を繋いでいく」ということが何より重要なことだった時代には「男系」というものを保つことができていたかもしれないけれど、それはもう、いくらなんでも無理だろう。印象的だったのは、女系天皇を認める議論が巻き起こったとき、強烈に反対した保守派が日本武道館で反対集会を行っていて、その中心人物だった平沼赳夫が出演していたこと。すっかり年老いた平沼に当時の映像を見せて、今でも考えは変わりませんかとスタッフが問いかける。「やっぱり、悠仁親王に男の子がたくさん将来お生まれになることが望ましい」と平沼が答える。一般のわれわれにしたって、女の子がずっと生まれるというのはありますし、天皇家だけ例外があるかと言いますと、とスタッフが返す。「誰にも結論は出ないでしょうけど、じっと待つしかないな。それを信じながら」。そう語り終えて、すこし目を逸らす平沼赳夫の姿が、妙に印象に残った。

 知人はコンサートに出かけているので、続けて『プロフェッショナル 仕事の流儀』観る。4月23日に放送されていた、カレーSP。荻窪で38年間変わらぬ作り方を続ける欧風カレーの店と、それとは対照的に、これまで手がけたレシピは1000種類を超え、「同じカレーは作らない」と語るスパイスカレーの店が取り上げられている。一見すると対置されているようでいて、二軒とも、ただ「今」を生き続けているという点では共通している。時折、少しずけっとした質問が挟まれる。そのたびに「ちょっとずけっとしてるなあ」と思うけれど、でも、だからこそ引き出されている答えがある。ドキュメントは、どういう言葉を切り取って届けられるかがすべてだ。多少ずけっとしていたとしても、言葉が引き出せるのであれば、質問は投げかけられるべきだ。そう考えると、僕は現場で「丁寧に接しよう」としているのではなく、「ずけっとしてるなあ」と思われないように予防線を張っているだけではないか。そんなことを自問自答する。

 21時になっても知人は返ってこないので、さらに遡り、録画したNHKスペシャルイチローの回を観る。まだヤンキースに在籍していた頃のイチローが、野球選手を引退するということは、死を迎えるのと同じだ、最後は笑って死にたいと語っている。そのVTRも含めて、涙をこらえるように語っている姿が随所にあり、印象が変わる(というほど、僕はイチローのことを知ろうとしてこなかったけれど)。自宅の中でも、滞在先のホテルでも、素振りを繰り返している。バッターボックスの中でしかわからないことがあるんですよ、とイチローは語る。それは、俳優が舞台に立つ、ということとも近いように感じる。「打率」や「ヒットの数」がどうという世界ではなく、打席に立ち、ひとスウィングひとスウィングが勝負なのだろう。途中で一緒に自主トレをする「仲間」――野球経験者ではない人も多く混じっている――と食事をする姿が映し出されるのだが、その「仲間」に入れる条件について、「後ろ向きな人たちは入れない」とイチローが語る。前を向いて生きていくしかない、と。過去にどんな偉大な功績を残していたとしても、評価されるのは今この瞬間の打席だけだ。野球選手に限らず、私たちはそのように生きているはずなのだけれども、日々を平準化してそれを直視せずに済ませている。でも、打席に立ち続けてきたイチローは、「今」という瞬間に直面せざるを得ない日々を生きてきたのだろう。番組の最後に、もう引退したイチローがジョギングをする姿を目に焼きつける。

5月1日

 6時過ぎに目が覚める。つけっぱなしのテレビから、昨晩の各地の様子が映し出されている。のう、令和になっとるで。知人に話しかけると、「昨晩、カウントダウンして起こしたのに、全然起きんかったやん」と面倒くさそうに言って、知人は再び眠りにつく。コーヒーを淹れたいけれど、豆が切れている。朝のテレビ番組をぼんやり眺める。「上皇さま」という言葉が語られ、テロップでも表示されている。さま、という言葉のありようがしっくりこない気がする。各テレビ局が、赤坂御所から皇居まで移動する車を中継で追っている。日本テレビはまるで駅伝のような中継ぶりだ。それにしても、今日は雨の予報だったのに、嘘みたいに晴れている。

 「やなか珈琲」に電話をかけ、豆の焙煎を注文し、20分後に取りに行く。雨が降らないうちにと、晩酌用の食材も買っておく。テレビで銀座の百貨店が元号入りのあんぱんや振る舞い酒を出していると説明されていたのを見たせいか、普段買わないあんぱんも買って帰り、コーヒーを淹れて朝ごはん。午前中は久しぶりに日記を書いているうちに終わってしまった。昼、オクラと納豆と豆腐をかき混ぜ、そばにのっけて食す。普段は料理コーナーなんて真面目に見ないのに、「腸内環境を整える」と言っていたせいか、5年前に『PON!』で紹介されたレシピをいまだに作り続けている。

 午後、クロネコヤマトの配達員が段ボールを届けてくれる。今の本棚は、去年の年始あたりに、『みえるわ』ツアーのドキュメントを書くにあたり、考えておきたいテーマを軸に本を並べて、秋に『書を捨てよ町へ出よう』のドキュメントのために一部を並び替えて、同じ頃から沖縄に関する書籍を加えた状態になっている。次の企画に動き出すために、まずは本棚を変えなければと、大掃除に取り掛かる。実家に送る本と、売ってしまう本を仕分けしていく。いい加減に積み上げていた書類も、これを機に整理する。『みえるわ』ツアーをドキュメントした37通の「手紙」、多めに印刷したぶんを保存し続けていたけれど、ツアーが終わって1年以上が経ち、この先たくさん注文が入ることもないだろうと、8セットだけ残してあとは処分することに決める。

 19時過ぎになって、ようやく一段落。もやし炒めを作り、チューハイで晩酌を始めているところに、知人が帰ってくる。知人の仕事が片付くのを待ちながら、録画してあった『霜降りバラエティ』観る。知人も僕も、霜降り明星がテレビに出るたびに首を傾げてきて、ドヤ顔を浮かべる姿が映るたびに溜め息をもらしてきたけれど、#3として放送された、粗品の特技を披露する回を観ているうちに、少し考えがかわってくる。肉を10gに切り分けられる、電卓を早打ちできるという特技は、実家が焼肉店で、その仕事を手伝ってきたからの特技だ。そのあとに披露したスーパーマリオの難易度の高いステージをクリアできるというのも含めて、彼がどんなふうに育ってきたのかが二重写しに見えるようなオンエアだった。誰かのことを、「ドヤ顔が鼻につく」という理由で拒絶するというのは、なんと器の狭い考えだろうと反省する。