12月1日

 朝9時に起きて原稿を書く。14時25分、つけっぱなしにしていたテレビ(日テレ)に、菅原文太の訃報が出る。なぜ訃報というのは続くのだろう。日没後、銀座へ。少し早く着いてしまったので、少しぶらつく。街は華やいでいる。17時50分、「維新號」(銀座本店)へ。何度訪れても場所を覚えることができずにいる。18時、『S!』誌収録。当然あの話題になる。収録後は銀座「R」に移動し、ハイボールを飲んだ。

 2杯目を飲み干したあたりで、Fさんが僕の隣に移動してきた。「青年、どう?」――僕があの連載を担当するようになって2年半、Fさんとそんなふうに話をするのは今日が初めてのことだ。しばらくアレコレ話をしたあと、Fさんはこう言った。「あなたのことは好きだし、品がいいし、ナイスだと思ってるけど、もっと自分が主役の仕事をやったほうがいいよ」。僕がその言葉をひしひしと受け止めていると、「ごめんね、エラそうなこと言って。嫌だね、酔っ払いは」と付け加えた。

 僕には一体、何ができるのだろう。

「R」を出たあと、5人で担々麺の店に入ってから解散となった。数寄屋橋交差点に佇んでいると、見覚えのある後ろ姿がそこにあった。おそるおそる声をかけてみると、やはり昨日会ったばかりのNさんだ。「あれ? 今日は缶ビール持ってないんだね」とNさんは言った。昨日の帰り道、僕は電車の中で缶ビールを飲んでいたのだ。

 あれこれ考えを巡らせていたせいと、酔っ払っていたこともあり、僕はNさんに仕事の話を訊ねた。Nさんは自分の仕事に対して、善し悪しというのあるんですか――ちょっと学生みたいな質問になったなと思っていると、Nさんは少し考えて、「私の仕事は、売れるかどうかだと思っている」と言った。「私の仕事は人のための仕事だから、売れればそれは良い仕事だし、売れなければ駄目だったってことになる」と。

 その話を聞くと、やはり、自分が2ヶ月かけて書いたものが、ほとんど反響がなかったということに対する悔しさが溢れてきた。こんなことを言うと、優しい人が「いや、良かったと思うよ」なんて言ってくれるかもしれないけれど、そういうことではないのだ。そのことが本当に申し訳ないと思っているんです、と僕が言うと、「でも、橋本君の仕事は、私の仕事とは違うと思うよ」とNさんは言った。

 私の仕事は、船みたいなものだと思っている。船? そう、船。その時代にあった船があるし、船が古くなってきたら新しい船にかえる必要があるけど、大事なのは船じゃなくて、そこに乗っていることが続いていくってことだと思っていて。だから、大事なのは橋本君によって“書かれた”ということだから、申し訳ないって思う必要はないんじゃないかな――Nさんはそんなふうに言ってくれた。