5月24日

 朝からよく晴れていた。コーヒーを淹れて、食パンを焼く。しばらく前からプリンターの調子が悪く、誤魔化しながら使ってきたのだが、さすがにそろそろ限界を迎えつつある。ちょうどトナーもなくなりそうなので、新しいプリンターを探す。ゲラに赤字を入れたものをスキャンするとき、その都度スキャナーの蓋を開け、パソコンの「読み取り」ボタンを押す作業が億劫で、紙を重ねてセットすれば自動で次から次へと読みとってくれる機能があると便利だなあと思って調べてみたけれど、その機能があるものはA3サイズの複合機になるようだ。値段を見ると3万円以上する。まあでも、ゲラはA4より大きいサイズであることが多いのだし、大きいサイズがプリントできるのも魅力的だ。やっぱり自動で読み取りできたほうが便利よのう、と知人に話しかける。背中を押してもらうつもりでいたのだけれど、「いや、私はスキャナーを使うとしても、申請書を1枚スキャンする程度だから、別に」と言われ、急に現実的な気分になってA4サイズの複合機で調べ直す。

 昼は鯖缶とトマト缶のパスタを作ってもらって平らげる。「今週はどう?」と言われ、お、美味しいけど、と答える。今週はしるけが多い仕上がりだなとは思っていたけれど、味の違いというのはぼくにはあまりわからず、答えに困ってしまう。午後、テープ起こしをしていると、15時になったところで知人が「競馬中継始まったよ」と呼びにくる。缶ビールを開け、慌てて予想を立てながら中継を眺める。無敗で桜花賞を勝ったデアリングタクト、悪い馬場の中を差し切ったというのはあるにしても、どうして単勝1.7倍になるほど人気になっているのだろう。なんだか飄々とした佇まいのデゼルという馬が気にかかる。馬連の3点買いで300円ほど賭け、レースを見守る。結果はデアリングタクトの完勝だった。レース前はかなり汗をかいていて、興奮している様子もあり、直線を向いたところで前が塞がっていたにもかかわらず、すいっと抜け出して差し切った。なるほど、これは人気なわけだ……。賭けているとはいえ、別に儲けようというつもりもなく、トントンぐらい、最初に振り込んだ3000円で遊び続けられたらと思っていたけれど、的中する日がくるのだろうかと不安になる。

 夜はNetflixで『タコスのすべて』というドキュメンタリーを観た。名前の通りタコスを紹介するドキュメンタリーだ。第1話は「パストール」というタコスが取り上げられている。観ていても、「パストール」の定義はぼんやりとしかわからないのだが、とにかく旅情を誘われる。映像の撮り方と、テンポと、グルーヴ感によるものだろう。これが日本の普通のドキュメンタリーだと、もっとゆったりとしたテンポに編集するだろう。番組にもよるのだろうけれど、もっと店の歴史に寄ったり、「パストールとは」とわかりやすく提示したり、そこで働く職人の人生に寄ったりするだろう。でも、そういったものを省き、パストールを提供する店の風景がめくるめくスピードで映し出される。すっかり感心してしまう。もしも旅雑誌で「メキシコ、パストールをめぐる旅」という特集を組んでいても、ぼくは興味を持たなかっただろう。そこに書かれていることは読まなくても知っていると思ってしまうだろう。それは、実際にその風景のことを知っているというのではなく、その文体に既視感をおぼえてしまうからだ。でも、このドキュメンタリーにはそうした手触りがなく、だからなぜか再生してしまった。一つにはデザインからして新しい気配を感じたということもある。本や雑誌も、「ここには新しい言葉があるかも」と思わせる手触りというのは必要不可欠なのだろう。ただ、それだけで読んでもらえるはずもなく、どんな文体であれば普段ドキュメントを読まない人にも読んでもらえるだろう。そして、メキシコにおける「タコスのすべて」を日本に置き換えると何になるだろう。ドキュメンタリーの内容よりも、頭の中で考えることが膨らんでしまって、第2話の「カルニータス」までしか観られなかった。