5月25日

 6時に目を覚ます。昨日の酒が残っている感じがあって、布団の中で2時間近くぐずぐず過ごす。コーヒーを淹れ、食パンを焼く。11時過ぎ、ちょうど一週間ぶりにジョギングに出る。S坂を下り、不忍池の向こう側を走って上野公園に至る。西郷さんが見下ろす方角にある噴水のあたり、一ヶ月前は閑散としていたけれど、今日な結構な賑わいだ。噴水のへりに寝転んでいる人や、缶チューハイを飲んでいる人の姿もある。そこから不忍池のほとりに抜けてゆくと、「久しぶり!」とこちらも佇んでいる人の姿が増えている。向こうから歩いてきた男性が、植え込みのそばに座っていた男性に向かって、言葉にならない喚き声をあげている。何かトラブルかと思ったけど、ひとしきり喚くと、男性は笑顔を浮かべる。久しぶりの再会に、冗談めかして喚き声をあげたのだろう。

 湯島天神から湯島聖堂へと走り、御茶ノ水にたどり着く。お昼時ということもあって、御茶ノ水駅界隈はサラリーマンが溢れている。「酔の助」に閉店の貼り紙が出ているのを眺めたのち、「新世界菜館」で中華風カレーを注文。テイクアウトのメニューが1ヶ月前より増えていた。5分強でお弁当を受け取り、愛全公園で平らげる。日射しのせいか、ジョギングで体が温まっているのか、汗が滴り落ちる。辛いものを食べても汗をかくことはないので、不思議な感じがする。それにしても、この公園にあったはずの「周恩来ここに学ぶ」と書かれた石碑はどこに行ったのだろう。ふと疑問を抱き、千代田区の道路公園課に電話してみる。現在、公園の奥にある建物の工事をしている関係で、石碑は一時撤去されているが、工事が終われば戻される予定とのこと。

 ポケットの中には千円札とSuicaしか入っていないので、「東京堂書店」を冷やかすだけ冷やかし、コンビニで日刊スポーツを買って帰途につく。千代田線はがらがらだ。シャワーを浴びて洗濯機をまわし、ソファに横になって「Q」の原稿を練り始める。夕方、『news every.』が始まると、緊急事態宣言解除へ、とトップで報じられている。まず、「宣言解除」というのは政府の物言いであるけれど、「宣言」を「解除」という日本語に何も違和感を抱かないのだろうか。ぬるりとした違和感をおぼえながら今日も画面を眺めていると、「当初はゴールデンウィーク一杯までの要請だったんですけども、それから3週間の延長を迎えて今日ということになって、その3週間はやはりちょっと、大変でしたね、苦しかったですね」とキャスターが心情を吐露するように語る。今、こうして書き起こていて気づいたけれど、その物言いは天皇のようだ。つまり、国民の象徴として、国民に語りかけている。この放送にずっと抱いてきた違和感の正体はそこにあるのだろう。

 緊急事態宣言が全面「解除」へと報じられ始めた頃から、社会では「県境をまたぐ移動」がどう位置づけられるのかが気にかかっていた。数日前には九州県知事会(山口・沖縄を含めた9県の知事による会合)が開かれ、県境をまたぐ移動は5月末まで引き続き自粛を求めることが確認されていた。今日、それがどう変わるだろうかとぽちぽち調べていると、TBSのツイッターアカウントが「【速報】安倍首相、県をまたぐ移動6月19日から解禁へ」という記事を配信していて愕然とする。自粛は求められていた記憶があるけれど、「解禁」って、いつの間に「禁止」されていたのだろう。それは総理大臣の発言をそのまま伝えてくれているのだとしても、TBSのニュース映像のテロップにまで「来月19日より“県またぐ移動”可能に」と書かれている。まるで今は不可能であるかのような記載だ。ニュース番組を制作している人間がそんなことでどうするんだという気持ちと、お前らの(さしたる基準もない)日付に左右されるおぼえはないという怒りがわき、6月15日から6月24日まで那覇のホテルを予約する。6月16日は公設市場が一時閉場を迎えて一年にあたる日で、6月23日は慰霊の日だ。

 19時に帰ってきた知人に、塩豚とズッキーニの炒め物と、キウイのカプレーゼを作ってもらって晩ごはん。今年に入ってからほぼ毎日飲み続けている知人に「たまには休肝日を設けたほうがいい」と言い続け、ようやく「月曜日は禁酒する」と言ったので、ぼくも月曜日は(自宅で過ごす場合は)飲まないことにした。20時、「路上」の第2回が更新される。およそ1ヶ月前に上野から九段坂を歩き、書き綴ったテキストだ(それと同じルートをお昼にジョギングした)。この日々の中で感じている違和感のこと、普段であればお酒を飲んで洗い流してしまうけれど、「路上」という企画があるおかげで書き記すことができた。そしてそれが、緊急事態宣言が「解除」された今日という日に配信されることに、いろんな思いがめぐる。

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