8時に起きて、さっそく昨日の対談のテープ起こしに取りかかる。昼はカレーライス(ボンカレー)を食す。先日放送された『マツコの知らない世界』ではカレーの特集があった。ボンカレーが箱ごとチンできるのだと紹介されると、マツコは「そんな便利なのか」と衝撃を受けていたけれど、そんなマツコの姿に僕は衝撃を受けた。ボンカレーが箱ごとチンできるようになってから随分経つ。調べてみると2003年に発売されているから、10年以上前だ。そのボンカレーの進化をマツコが知らなかったということが衝撃だった。裏切られたような気持ちにさえなった。一体この気持ちは何なのだろう、マツコという存在に何を重ねているのだろうと、あの日からずっと考えている。

 午後、気合いを入れて構成に取りかかる。19時には何とか完成させて、よし、と小さくつぶやいてアパートを出た。今日は知人と新宿で買い物をする約束をしていたので、間に合ってホッとする。東南口改札で待ち合わせ、昨日気になった服を知人と一緒に見て回る。まずはジャーナルスタンダードに入り、コートを着てみる。冬用のコートは既に1着持っているので、優先順位は低かったのだけれど、珍しく知人も「似合う」と言ってくれる。「おじいちゃんになっても着れそう」とのこと。よく考えれば冬用のコートが1着しかないというのもいかがなものかと思うし、コートにしては安かったので分割払いで購入する。

 続けてルミネに移動。コートとシャツのあいだに着れる服がセーター1着しかないので、セーターかトレーナーを探して歩く。いくつか気になっていたものを試着して回るが、どうもピンとこなかった。最後に、「OPENING CEREMONY」という店に入ろうとすると、「ちょっと、そこは無理だよ」と知人が怪訝な顔をする。確かに、もっとオシャレな人しか似合わなそうな服が並んでいるのだけれど、1着だけ僕でも着れそうなトレーナーがあったのだ。試着してみると、知人の反応も案外悪くなかったので、色違いを何度も試着してみてから分割払いで購入する。ついでに40パーセントオフセールをやっているGAPでもコットンのセーター(これなら自宅でも洗濯できる)を購入した。

 ほくほくした気持ちで飲みに出る。分割払いにしてあるけれど、バーンと原稿を送り、その原稿料に相当するくらいの買い物をしたので妙に爽快な気分がする。今まで服になんて気を使ってこなかったけれど、少し前に九龍さんがつぶやいていた、10年以上前の取材のことを振り返ったこの言葉が、時間が経つにつれてどんどん気になってきたのだ。

映画『グミ・チョコレート・パイン』の取材でした。僕が編集で雨宮さんに依頼しました。あいつインタビュアーなのに凄く着飾ってて、(お互いエロ本編集者時代からの仲なので)「気合い入ってるねー」って笑ったら、「お前とは意識が違う!」とピシャリ。素直に「綺麗じゃん」って言えばよかったな…と

 僕は「襟がある服を着て入ればいいかな」とか、「失礼だと思われなければそれでいい」と思って服を選んで仕事をしてきたけれど、それでは駄目なのではないか。あるいは、リリーさんが書いていた「オカン」の話。スーパーに出かけるときも、わざわざブローチをつけていた――ブローチの重さに服が耐え着れずにへんてこな格好になっていた――オカンのエピソードを思い出し、外に出るときの装いについて、34歳にして初めて思いを巡らせるようになった。それは、相手に対する礼儀ということもあるけれど、いい加減自分をどう見せるかということを考えないと駄目だと思ったということでもあるのだけれど。

 紙袋を提げて、新宿3丁目の「日本再生酒場」へ。軒先に僕と知人の姿を認めた時点で、厨房では既に「急げ!」とチューハイを作り始めている。この店をよく利用するようになったのはここ数ヶ月のことだ。グラスが空になったことにすぐに気づいてくれて、スムーズに酒が飲めるのが気に入って時々訪れているのだけれども、チューハイばかり飲むのでまずは何も言わずにチューハイがオーダーされるようになった。次に、やたらとお代わりするせいだろう、「今日も無限チューハイお願いします」と言われるようになった。しかし、お代わりの多さにさすがに心配になったのか、次第に「薄いですか?」と言われるようになった。さらに時間が立った今では、店員さんのあいだで「今日は何杯お代わりをさせられるか」とゲームをやっているのではないかという次元に到つつある。そうなってくると、こちらも妙なゲームを遊んでいるような気持ちになって、向こうに気づかれないように飲み干し、店員さんに「お代わりお持ちしましょうか」と言わせず、こちらから「お代わりお願いします」と言おうとして遊んでいる。会計をしてもらうと、過去最高の金額になっていた。