1月17日

 4時、アラームが鳴る。20分ほど布団の中でグズグズして、シャワーを浴びる。微妙に間に合わなそうなのと、コートではなく薄手の上着しか羽織っていないこともあり、アプリでタクシーを呼んで日暮里駅へ。「特急」というのは乗車券だけで乗れるんだっけとどぎまぎしつつ、5時22分発の成田スカイアクセス線に乗り、成田空港第2ターミナルへ。この時間だと空いている。駅から第3ターミナルまではいつも歩いていて、「これからLCCに乗るのだ」と噛みしめているのだが、あまりに寒く、無料のシャトルバスに乗る。本を一冊も持ってこなかったことを思い出し、ターミナルの書店をのぞく。店員はレジ裏に貼ってある西野亮廣『新世界』のポスターを読んでいる(そこには序文が掲載されている)。何か新刊でもと思っていたが、武田百合子『日日雑記』と目が合い、良い文章を書くには良い文章を読まなければと購入する。

 7時過ぎ、飛行機に搭乗する。「今日は大変向かい風が強く、到着時刻が遅れることが見込まれています」とアナウンスがある。それにしても、早朝の便とはいえがら空きだ。機内ではFさんのインタビューの再構成を進める。10時半、那覇空港に到着。雨だ。傘を買おうかと思ったけれど、ゲストハウスで傘を貸してもらえるだろう。ゆいレール牧志駅に出て、小走りで平和通りに向かい、アーケードの下を歩く。ゲストハウスに荷物を預け、まずは公設市場に顔を出す。「長嶺鮮魚」をのぞくと、あら、いつ来たのとお母さんに声をかけられる。ついさっき到着したところですと伝えて、刺身をツマミにビールを飲んだ。続けて「大衆食堂ミルク」に入り、ちゃんぽんを食す。お店の方が「向こうはもう寒いでしょう、もう、これが降ったんだよね」と手のひらをちらちらさせる。そうですね、少し前に初雪が降りましたと答えると、「いいねえ」としみじみ語る。

 13時、国際通りスターバックスコーヒーに入り、Fさんのインタビューの再構成を完成させて、メールで送信。続けて、10月に取材した「市場界隈」のテープ起こしにようやく取り掛かる。14時半、雨が上がったようなので店を出て、ジュンク堂書店へ。入り口近くの棚を撮影しているテレビクルーがいる。店内で古書市が開催されていて、番をされていたウララさんに帯のお礼を伝える。ウララさんが僕の足元をじっと見ている。何かついているのかと思いきや、「靴を履いているところを初めて見ました」とウララさんが言う。たしかに、沖縄に来るときはいつもビーチサンダルだ。古書市の近くにいた人たちの会話が耳に入ってくる。直木賞の話題だ(そうか、入り口近くで撮影していたのは受賞作だったのではと、日記を書いている今になって気づく)。便箋のように罫線の入った郵便はがきを購入し、平和通りを歩いてゲストハウスにチェックイン。10月に那覇を訪れたときにシャッターが閉まっていた雨合羽店、今日もシャッターが降りている。もっと早くに取材をお願いしておけばよかったと後悔しても遅い。

 16時過ぎ、市場の何軒かのお店にご挨拶。「山城こんぶ店」の和子さんが「寒いねえ」と声をかけてくれる。東京に比べればずいぶん暖かいはずなのに、こうして滞在していると肌寒く感じる。東京で天気予報を見ていると、沖縄の気温を見て羨ましく感じていたけれど、沖縄だって冬だ。「そう、沖縄も人並みでしょう」と和子さんは笑う。どう過ごそうかと少し迷ったけれど、もう飲み始めることにする。「足立屋」でせんべろセットを注文。店員さんが隣のお店の方に「寒くない?」と声をかけている。「寒いですけど、僕は店内にいるんで」。「そっか。でも、今日は特別寒いね」。そう笑う店員さんは半パンにサンダル履きだ。飲みながら、市場界隈の取材の質問を考える。やはり那覇に滞在しているときのほうが考えがまとまる。今、僕が目にすることができている風景の、何をどう書き残すべきか。何を書いておけば、100年後の誰かがこの風景を想像することができるか。ホッピーを3杯、チューハイを2杯飲んで、一度ホテルに引き返す。献本に添える手紙を5枚書き、スマートレターで投函する。

 安里駅まで歩き、「うりずん」。例によって白百合を注文すると、店員さんが小さく微笑む。ドゥル天と島らっきょうの塩漬けをツマミに、白百合を飲んだ。カラカラを2杯飲み干したところで21時だ。「うりずん」を出て、隣の酒屋の犬を遠巻きに眺めたのち、缶ビール片手に「東大」の開店を待つ。だが、夜は一段と寒く、飲み始めて5時間経っていることもあり、眠くなってきた。「東大」は明日再訪することにして、夜の街を千鳥足で歩く。