7月29日

 朝、チャイムの音で起きる。数日前に注文した電動歯ブラシとジェットウォッシャーが届いたのだ。嬉しくなって、さっそく開封し、説明書を読む。いずれも前に持っていたのに、電動歯ブラシは旅のどこかでなくしてしまって、ジェットウォッシャーは壊れてしまっていた。親知らずも抜いたことだし、口内環境を整えようと、改めて購入したのである。さっそく磨きに磨いて、11時、近所の歯医者さんに出かける。今日からいよいよ虫歯の治療だ。

 虫歯治療なんて小学生のとき以来で、かなり身構えていたのだが、ほとんど痛みを感じることはなかった。どうしてあんなにオソロシイ印象だけが残っているのだろう。技術が進歩したのだろうか。あっという間に治療は終わる。つらいと感じたのは、唾液を吸い取るホースを奥にやられて「おえっ」となったことぐらいか。治療中、器具が唾液をはねて舞い上がったのだけれども、まったく動じることなく治療を続けてくれて、どうしてこの人たちはここまで治療に捧げられるのだろうかと、天井の模様を凝視しながら思った。

 帰宅後、カーテンを外し、順番に洗濯する。アパートに引っ越してきてもうすぐ2年が経つけれど、まだ一度も洗濯していない。カーテンに匂いが付着しているかもと思って、洗濯することにしたのだ。ついでに窓も両側から拭いておく。雑巾も手洗いで洗濯して干したのち、ようやく『B』の構成に取りかかる。案の定、あまり捗らず。18時に自転車で谷中ぎんざに出て、「越後屋本店」でアサヒスーパードライ。テレビのロケがあったらしく、いくつかブツ撮りをやっている。2杯飲んで店を出て、惣菜を買ってアパートに引き返す。

 まずは録画してあったETV特集『豪雨に沈んだ 幸せのまちに』観る。昨年の豪雨で大きな被害が出た真備町で、二つの家族を軸にしたドキュメント。高度成長期には水島臨海工業地帯に労働者が集まり、近郊の宅地開発が進められる。その一つが真備町で、田んぼしかなかった場所に夢のマイホームが建設されてゆく。ただ、そこは昔から水害が繰り返された地域だったのに、対策が先送りされてきたのだという。豪雨で被災したものの、真備町に戻りたいと思っていた6人家族が登場する。父は和食の料理人で、真備町に店を構えていたけれど、家も店も被災する。呆然としていた夫婦を支えてくれたのは子供達で、「子供達ってめっちゃ元気だったんですよ。被災したあとも、いつもと変わらず」と妻が振り返る。長女はカメラの前でも気丈に振る舞っている。ただ、豪雨から9ヶ月が経ち、自宅のリフォームが無事終わったとき、高校に進学していた長女が「『どこの中学校?』って言って、『真備東よ』って言ったら『大変だったんじゃろう』って言われるのは、ちょっと嫌かも」と語りだす。「だって、どうせ言ってもわからん。だって、どうせ言ってもわからん、被災したときより、被災したあとのほうが大変じゃろ。そういうのはあんまりテレビに出んけん、そっちのほうが大変なんじゃなーって思った」と。その、手を合わせたあと、カメラに向かって「また、落ち着いたらきてえよ」と言っている姿が忘れられない。