12月29日

 3時過ぎに目を覚ますと、メールが届いていることに気づく。昨日受けたPCR検査の結果が、0時14分に届いている。結果は陰性でホッとしつつも、検査から10時間で結果が届いたことに驚いた。普段でも丸一日はかかるのに、予約で一杯になっている今の時期に、こんなに早く結果が出るなんて。

 ケータイをいじっているうちに二度寝して、7時過ぎに起き出す。空気が乾燥している。浴室の扉を開けたまま1分ほどシャワーを流し、加湿してみる。あんまり効果はないようだ。コーヒーを淹れて、昨日の残りのおでん(大根とこんにゃく)を温めて平らげる。洗濯物を干し、カクヤスで注文したビールを受け取る。テレビのチャンネルを回しても、情報番組を放送しているチャンネルが少なくなっている。鰹の塩辛は昨日で使い切ってしまったので、ぺらぺらのベーコンとキャベツでパスタを作る。こんなぺらぺらでも、しっかりベーコンの風味がするものだなと感心する。調理をしているうちに、前野健太ソロライブ「今年のことは忘れない2021」の配信が始まり、観ながら調理し、パスタを平らげる。ビールも2本飲んだ。会場だと絶対に(コロナとは無関係に)声など挙げないが、イントロが始まった瞬間に「おお!いいねえ!」とつぶやいてしまって、愉快な気持ち。

 45分くらい演奏したところで、換気のために休憩が挟まれる。そのタイミングで家を出て、千代田線で二重橋前駅に出て、東京駅へ。新幹線改札口が酷い混み具合で、改札前に列ができているのに、列に気づかずぐいぐい改札を目指して進んでいく人のせいで混沌とした状況になり、誰かの荷物や誰かの肩が何度もぶつかり、げんなりする。14時12分発の「のぞみ」はもうホームに停車していたので、予約した座席(16号車の最後列D席)に向かう。リュックを棚に上げていると、隣の席(窓側のE席)の乗客がやってくる。4歳か5歳ぐらいのこどもと、その親と。チケットが発売になった直後、E席も選択できるタイミングでD席を予約してしまったから、その親子はE席と、通路を挟んだC席のように、飛び石で予約することになってしまったのだろうかと少し申し訳なく思っていると、親が子を抱えるように座席に座る。こどもは食い入るように風景を見つめている。

 この新幹線は新大阪行きで、わりと緊張感が保たれているというのか、ほとんどの乗客はマスクをつけていて、少しほっとする。車内では『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』をじっくり読んでいた。もしもこの車両に感染者がいたとしても、絶対にかかってやるものかと、メガネを外してゴーグルをつけ、KN95マスクをぴったりつけて、一度もマスクを外さず過ごす。新大阪駅で下車し、「ホテル新大阪」にチェックイン。荷物を置き、シャワーを浴びたのち、梅田の蔦屋書店へ。今日はSさん×Hさん「すれ違う私たち」を聴きたくて、大阪までやってきたのだ。最後列の座席に荷物を置いて、お店の棚を眺めてまわる。『芭蕉の風景』上下巻が目に留まり、そうだ、読書委員会で選んでいる委員の方がいて気になっていたんだった。他のお店では目に留まっていなかったこともあり、「ここで買わずしてどうする」と、買っておく。

 特典として配られたペーパーを熟読しているうちに、18時半、トークイベントが始まる。冒頭から間がたっぷりで、面白い。間を埋めるにしても、やり過ごすにしても、そこに人となりがあらわれる。特典のペーパーに対する編集者からの修正の話が面白かった。僕はわりと、勝手に書き換えられたら憤ってしまうほうではあるけれど、そこであんまり憤っていると、トークで語られていたように、編集者からの提案を受け取る機会を潰してしまいかねない。これもまた、トークの中でSさんは『北風と太陽』でたとえるなら――自分はなんでもこの二分法で捉えてしまうのだけれども――太陽側の人だなと思う。自分は北風側で、まわりに背を向けて、ひとりになってしまう。それとも微かに重なる話だと思うけれど、「チェアリング」にしても、「いつもの自分じゃないほうを選ぶ」というフレームにしても、誰かを巻き込んで、「自分もそんなふうに過ごしてみたい」と思わせる力というか、発明力というのか、それはすごいなと、新幹線で本を読んでいるときにも思っていた(自分にそういうことができるとは思わないけれど)。

 トークのあいだ、Hさんは、取り止めもないようにも聞こえるような話し方をする。Sさんは、少しテーマを立てるようにして、時折質問を投げかける。その質問を、Hさんは一見すると受け流したかのように、別の話をする。巡り巡って、質問されたことと関連した話になっているのだけれども、Sさんは過剰に食い下がるのではなく、また別の話に移っていく。自分だったら、自分が聞きたかったテーマを、食い下がって聞いてしまうだろう。これは聞くのがいいとか、そういうことではなく、人によって話の展開はまるで違うのだろうなあと、しみじみ思った。

 トークを聞いているあいだ、窓の向こうにホームが見えていた。もうすっかり日は暮れていて、ホームに電車が入線してくるたびに、その風景が鮮やかに見える。

 トークを聞き終えたあと、いそいそとトイレに行って用を足していると、Hさんから「みやげがあんねん」とメッセージをいただき、会場に引き返し、挨拶する。『AMKR』で連載していたときにはちょこちょこ関西にくる機会があり、Hさんと岸壁で飲む機会もあったけれど、直接話すのはずいぶん久しぶりだという感じがする。おみやげをいただき、あんまりじっくり中身を確認するのも失礼な気がして、ちらりとだけ確認すると、縄跳びが見えた。おお、日記を読んで「縄跳び欲しいな」と思いながらも、近所で売っているお店が思い浮かんでいなかったので、嬉しくなる。少しだけ言葉を交わしていると、「Hさん、サインを」と書店の方からお願いされていたので、また、と告げて会場をあとにする。

 時計を見ると20時半、すっかりお腹が減っている。エスカレーターで1階に降りようとしたところ、もう下のフロアはお店が閉まっているせいかエスカレーターは動いておらず、わりと混み合っているエレベーターに乗って1階に降りる。セブンイレブンで350mlのアサヒスーパードライと餃子を購入し、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』にも登場した「風の広場」を目指す。エスカレーターを乗り継いで「風の広場」に到着してみると、なんというか、若いグループ客だったり、カップルだったり、少なくともひとりでセブンイレブンの餃子とビールを手にやってくる場所ではなかったなと悟る。ドラゴ、アポロ、ロッキーの話を思い出す。

 端っこで餃子を頬張って(ゴミ捨てが大変になりそうだから、タレは使わなかった)、追いやられるようにエスカレーターを下っていくと、あれは7階だろうか、そこには誰も佇んでいる人がいなかったので、そこに居場所を見つけて佇む。ここからは5階の「時空の広場」と、駅のホームが見渡せて、小さく見える人影を眺望しつつ、そこでしばらくビールを飲んだ。そういえば、今日いただいたお土産は何だったのだろうかと、今更ながら袋の中身を確認し、びっくりする。

 ビールを3本空けて、東梅田(?)へ。地下街には酔っ払った人たちが大勢溢れている。22時近く、『AMKR』で取材したバーに行ってみたところ、店内から賑やかな声がたくさん聞こえてきたので、入店は諦める。新大阪まで引き返し、コンビニでワインのボトルとビーフジャーキーを購入し、宿へ。この日記を書いているうちに、テレビでは『オールザッツ漫才2021』が始まっている。