2月5日

 3時に目を覚ます。隣に知人の姿はなく、飲むヨーグルトと未開封ハーゲンダッツが枕元に転がっている。またやってしまった……。うちのアパートはオートロックだから、僕が酔っ払って眠ってしまうと知人が入れなくなるのだ。すぐに連絡を入れると、近くのデニーズにいた知人が帰っくる。そこからまた眠りについて、起きたのは朝9時だ。炊飯器をセットして、味噌汁を作りつつアジの干物を焼く。9時40分、知人を起こして朝食。食後、昨日白楽で買っておいた豆でコーヒーを淹れる。駅近くにぽつんと建つ、簡素ながらも温かみのある佇まいに惹かれて中に入り、豆と豆を入れる容器を買っていたのだが、これがなかなかおいしい。そのコーヒーを飲みながら、キース・ジャレットを聴きつつパソコンで新聞を読んでいると、知人が何やらにやついている。何でにやけているのかと問いつめると、「コーヒーを飲みながらMacBookAirを広げて、ジャズが流れてる――ここはスタバかな?」とトボケた顔で言う。

 昼は構成仕事をしていた。やはり米は腹持ちがいいのか、昼食をとったのは14時過ぎだ。キャベツとアンチョビのパスタを食べた。

 18時過ぎにアパートを出て渋谷に向かう。今日はヨシモト∞ホールでお笑いライブを観るのだ。入口のグッズ売り場を眺めていると、『マンスリーよしもとPLUS』がいまだに並んでいる。僕がよく取材していたのは2010年、もう5年も前になる。この雑誌が休刊して、もうすぐ3年になる。若手の出る劇場には基本的にピラミッド型のランキングシステムがあり、毎週木曜と土曜にはその頂点にあたる「East Live」が開催される。雪の予報が出ていたせいか、やや空席の残る状態でライブは始まった。この日ネタを披露するのは8組で、大喜利トークのコーナーが間に挟まれる。コーナーを観ていると、その芸人の人となりやポテンシャルが見えて面白いけれど、楽屋での関係が透けて見えるようで少し怖い気持ちにもなる。どこか脱力しているように見える人もいる。本心はともかく、そう見えるというのはしんどいことだ。そういえばこの劇場は谷のような構造になっている。渋谷の外れにある、谷のような場所だ。この劇場に立つ芸人さんたちは、どんな気持ちでいるんだろう。客席にはやはり女の子が多くいる。しかし、一時ほどキャーキャー騒がれているようにも感じない。一方で――気になったのは、笑いが起きなかったとき、あるコンビがそのことで客席をいじったことだ。目の前にいる客に、必ずしも媚びる必要はないのかもしれないが、では、「俺らはこの人に伝わればいいんだ」という視線を、彼らは持っているのだろうか?

 こんなことを書いているけれど、ネタを観ている時間は基本的に楽しかった。この「East Live」枠には18組の芸人がいるのだが、その中でもTOP3というのが集計されている。そのうちの1組、ニューヨークのネタはさすがの面白さだった。それからもう1組、双子のコンビ・ダイタクも面白かった。双子だけど正統派の漫才だ。ニューヨークは近々単独ライブを開催するというので、そのチケットも予約する。

 帰り道、コンビニに寄った。『週刊新潮』で川上未映子さんの連載を読もうと思っていたのに、『週刊新潮』はどこにも見当たらなかった。『モーニング』、『週刊文春』、『散歩の達人』(特集は「理想の喫茶店」)、それに『an・an』を購入する。『an・an』は、stage欄でマームとジプシー『カタチノチガウ』が取り上げられていて、女優3人による鼎談が掲載されているのだ。3人とも少し不思議な口調だ。そのページを読んだまま置いておくと、22時過ぎに帰宅した知人がそれを読む。その欄には、この記事のために撮影された女優3人の写真だけではなく、藤田さんの写真と、僕が撮影した『カタチノチガウ』舞台写真も掲載されている。前者には「撮影:篠山紀信」、後者には「撮影:橋本倫史」と書かれているのを見た知人が、「よかったねえ、篠山紀信と並んだねえ」と田舎の親戚みたいなことを言う。