9時過ぎに起きる。11時のニュースのトップは「大気不安定 落雷・突風など十分注意」だ。上から二番目に表示されていた「沖縄戦から70年『慰霊の日』」は読み上げられないまま終わった。昼、納豆オクラ豆腐入りのうどんを作って食べていると、沖縄全戦没者追悼式の中継が始まる。テレビから、あの蝉の声が聴こえてくる。一年前の今日と二年前の今日、僕はこの場所で過ごしていた。平和の礎の前にシートを広げた人たちの姿を見ていると、舌にある感触が浮かんでくる。あの強い陽射しでほかっと温くなった弁当を食べた記憶が。ときどき騒がしい声が聴こえた。慰霊祭では学生の詩が朗読されるのだが、今年は与勝高校の知念捷さんの「みるく世がやゆら」が読まれた。「今は平和でしょうか」という意味のタイトルだ。彼の祖父の姉は、戦争で夫を亡くしている。

 戦後七〇年を前にして 彼女は認知症を患った
 愛する夫のことを 若い夫婦の幸せを奪った あの戦争を
 すべての記憶が 漆黒の闇へと消えゆくのを前にして 彼女は歌う
 愛する夫と戦争の記憶を呼び止めるかのように
 あなたが笑ってお戻りになられることをお待ちしていますと

 認知症を患った彼女は、夫のことを思って歌をうたいながら、涙を流す。その姿に彼は「戦争の惨めさと 戦争の風化の現状」を思う。

 みるく世がやゆら
 頭上を飛び交う戦闘機 クワディーサーの葉のたゆたい
 六月二十三日の世界に 私は問う
 みるく世がやゆら
 戦争の恐ろしさを知らぬ私に 私は問う
 気が重い 一層 戦争のことは風に流してしまいたい
 しかし忘れてはならぬ 彼女の記憶を 戦争の惨めさを
 伝えねばならぬ 彼女の哀しさを 平和の尊さを
 みるく世がやゆら
 せみよ 大きく鳴け 思うがままに
 クワディーサーよ 大きく育て 燦燦と注ぐ光を浴びて

 古のあの琉歌よ 時を超え今 世界中を駆け巡れ
 今が平和で これからも平和であり続けるために

 その朗読に、風を感じる。そしてまたしても「あかり from HERE」という歌のことを思い浮かべる。今年は何度あの歌を思い浮かべることになるのだろう。

 夕方、全力でジョギングをしたのち、yさんと待ち合わせて南池袋で飲む。yさんは仕事でくたびれた様子だ。最近オンエアされた某番組の余波がすさまじかったようだ。刺身をツマミにうまい日本酒を飲む。3杯飲んだところで鬼子母神近くのバーへ。開店直後に一度だけ訪れたことのあるバーだ。飲んでいると、上京のときの話をyさんに訊ねられた。東京に対するあこがれみたいなものはあったのか、と(yさんは東京出身だ)。やっぱり上京しようと思った18歳の4月のことを、素直に話す。22時頃にyさんと別れ、高田馬場に戻り、知人を誘って泡盛(白百合)を飲んだ。