3月6日

 風邪を引いたなと、目が覚めた瞬間に思う。手が荒れるほど手洗いしているのに、なぜだろう。6時過ぎには起きてしまったので、ちょっと臭くなっていたスリッパを洗濯機で洗うことにする。しばらく漂白剤に浸しておき、パソコンを広げて原稿を書く。気づけば8時をまわっており、慌てて洗剤を入れ、通常コースで運転する。脱水が終わらないうちにボタンを止めて、普通の洗濯物を洗う。明日から3泊4日で関西に出かけるので、今日のうちに洗濯しなければならないのを忘れていた。10時過ぎに洗濯機がとまり、急いで干して、駅まで走る。千代田線で新御茶ノ水駅に出て、走って中央線に乗り換えて、なんとか約束の時間より早く吉祥寺にたどり着く。

 11時過ぎ、吉祥寺駅公園口を出てすぐの「ルノアール」。これから話を聞かせてもらう写真家のKさんが、最近よく利用する店だという。お気に入りの喫茶店が閉店してしまって、何気なくここの「ルノアール」に入ってみると、他の店舗とは雰囲気がずいぶん違っていて気に入ったそうだ。今日は去年の初夏から続けてきたF.Yさんの取材企画で、FさんとKさんの対談だ。あんまり口を挟みすぎないように、なるべく話を聞く。あんまり何も言わないでいると「あれ、進行してくれないな」となってしまうけれど、そのぎりぎりまで待ちながら、話を聞かせてもらう。

 1時間ほどで「ルノアール」を出て、井の頭公園を歩きながら、ふたりの写真を撮る。写真家の方を撮るなんて緊張する――昨日までそんなふうに思っていたけど、僕はそもそも写真が専門なわけでもないのだから、「緊張する」なんて思うことがそもそもおこがましいのだと今日になって気づき、撮る。撮影を終えたのち、皆で駅の反対側まで歩き、「カシヤマ」でお昼ごはん。話の流れで、動物には警戒されることが多いと僕が話すと、Kさんが「橋本さん、すごい穏やかそうなのに」と言ってくれる。でも、僕はまったく穏やかな人間ではないことを、動物は見抜いているのだろう。穏やかな人には穏やかに接するようにと思っているので、こういう場所では穏やかにいられるのだけれど。

 駅でふたりと別れ、14時、井の頭線で渋谷に出る。快速だと混雑するから、各停に乗ろうかと思っていたが、快速でも座れるほど。渋谷でで田園都市線に乗り継ぎ、三軒茶屋。「味とめ」の前を通りかかってみると、もうすでに営業中だったので、座敷の奥にある二人がけの席につく。ホッピーを飲みながら、なめろうをツマむ。今日はおかみさんはいらっしゃらなかった。小一時間で店を出て、地下鉄で神保町に出る。「東京堂書店」をのぞいたのち、そうだ、本の雑誌社に行ってみようと思い立つ。連載を担当してくださっているTさんに相談したいこともあったけれど、それ以上に「もう刷り上がっているであろう最新号をフライングで見れないだろうか」という下心もあったのだろう。そんな気持ちがあったのがよくなかったのだろう、Tさんは不在だったので、すごすご帰る。久しぶりで「浅野屋」に寄り、ビアサワーを2杯だけ。