3月29日

 8時に起きて、コーヒーを淹れる。昨晩のうちにエアコンの予約を入れておいたので寒さは感じないが、窓は結露で真っ白になっている。タオルで拭いてみたが、まだ雪は降っていないようだ。炊飯器のスイッチを入れたものの、炊き上がりを待つにはお腹が減っている。埼玉で仕入れてきたぶんを平らげようと、パスタを茹でてツナ缶と和え、少し醤油をたらして啜る。沖縄でM&Gに同行したときの音源をテープ起こししているうちに、雨が雪に変わる。まだ眠っていた知人を抱えて起こし、ほら、雪になったでと窓を開けて見せる。だから何なのだという表情を浮かべて、知人は布団に戻ってゆく。

 11時半にアパートを出る。少し身構えながら千駄木駅の階段を降りてゆく。ホームで電車を待っているのは、僕のほかにはひとりだけ。西日暮里で乗り換えると、乗り換え口にはいつものように警備員がふたり、少し離れた位置に立っている。警備が必要なほどの人通りはなかった。山手線に乗ると、座れるくらいには空いてるけれど、思ったより人が乗っている。雪が降る車窓を眺める。

 駒込駅で降りて、少し散策する。後ろに羽みたいなのをつけた車がうなりながら走ってきて、降り積もっていた雪を巻き散らし、僕の右半身が濡れる。追いかけて同じダメージを与えてやりたいけれど、あっという間に走り去ってゆく。そんなに飛ばしたいなら、右車線を走ればいいのに、腹立たしい。こういうときに「同じ傷を与えてやりたい」という復讐心を抱きがちだと、最近になって気づいた。霜降銀座商店街を少し歩き、うどん屋で昼食をとる。お昼時なのに、他に客は一組だけ。店員さんは厨房に3人、ホールに3人もいる。

 13時に「青いカバ」にたどり着く。半日店長2日目。19時にお店をあとにして、セブンイレブンアサヒスーパードライのロング缶を購入し、飲みながら歩く。手がかじかんでくる。今日は3月29日だ。今から4日前、与野本町からの帰り道、埼京線に揺られながらバドワイザーの缶ビールを飲んでいた。僕は立ってつり革につかまっていて、目の前にA.IさんとK.Mさんが座っていた。そのとき、今日が3月25日だったことが思い出され、「ほんとうは今日が卒業式でしたね」と伝える。その言葉をAさんとKさんに向かって言ったのかどうか、自分でもよくわからないけれど、そう告げたことを思い出す。ひめゆり学徒隊として動員された子たちは、3月25日の卒業式は中止となり、動員先の南風原陸軍病院で簡易的な卒業式が行われた。それが75年前の今日だ。