11月6日

 7時過ぎに目を覚ます。宿は素泊まりなので、ガードを二度くぐり、「栄食堂」へ。早朝から営業しているお店だから、朝は混んでいるのかと思っていたけれど、他にはひとりしかお客さんはいなかった。迷いに迷った挙句、ハムエッグとれんこんのきんぴらを手に取り、ごはんの中と味噌汁を注文する。春にここを訪れたとき、ハムエッグの半分をごはんにのっけたH.Kさんに、Y.Eさんが「それ、天国でしかやっちゃダメなやつですよ」と言っていたことを思い出しながら、ぼくもハムエッグを半分ごはんにのっけてかき込んだ。食後、水道筋まで足を伸ばす。途中で見覚えのある風景があり、一体どのタイミングで目にした風景だろうかと思い返してみると、坂バスで通過した場所だった。9時過ぎの水道筋は、まだ静かだ。ぐるりと歩いて引き返す。お揃いのお絵かきセットを提げた小学生たちが、王子公園駅の改札を出て、王子動物園に向かって歩いてゆくのが見えた。

 お昼まで宿で仕事を進めたのち、ふたたび水道筋を目指す。「寿し豊」は誰もお客さんがいなかったので入店し、上にぎりセットと菊正宗(大)を注文する。お店を訪れるのは半年ぶりだけど、お店の方はおぼえてくださっていて驚く。原稿のことを考えながら、ぽつぽつ話を伺う。食後は掬星台に行こうかとも思ったけれど、坂バスが出発したばかりだったので、王子動物園を目指すことにする。半年前と違って大賑わいだ。遠足にやってきたこどもたちも大勢いる。食事中のパンダをチラ見したのち、動物化学資料館の前にあるテーブルでパソコンを広げ、インタビューの構成仕事を進める。集中力が途切れたところで、放養式動物舎に行ってみる。ここも中に立ち入れるようになっていて、あちこちにベビーカーがある。わかっていたことではあるけれど、カップジュースの自動販売機はなくなっていて、なっちゃんのペットボトルを買って、しばらく類人猿たちの姿を眺める。

 今日は18時に、韓国鉄板焼き屋で待ち合わせをしている。17時、先に写真だけ撮っておこうと韓国鉄板焼き屋を訪ねる。鉄板の写真を撮影させてもらったあとで、いろいろ話を聞かせてもらいながら、瓶ビールを飲んで待つ。18時を過ぎても待ち合わせをしていた人はやってこなくて、ひとりで瓶ビールを飲み続ける。18時半になってもやってくる気配はなく、おかしいなと思ってケータイを確認してみると、バーベキューの火起こしをしてから向かいます、とメッセージが届いていた。今日は別のお店でバーベキューがあるとは教えてもらっていたけれど、その火起こしもその方が担当だったのかー、と思う。そこからもう一本瓶ビールを追加したものの、それも飲み終えてしまった。

 お店に居座らせてもらっている以上、何も飲まずにいるのは申し訳なくなってしまうので、こうしてカウンターに座っているとあっという間に酔っ払ってしまいそうだ。一度会計をお願いして、バーベキューが開催されているお店に向かってみることにする。そのバーベキューは持ち寄り式だというので、何か焼く素材を買っていかなければと思いながら歩いているうちに、お店の前にたどり着いてしまう。すると、お店の中から楽しそうな様子が伝わってきて、あれ、何を待たされていたんだろうと冷静になってしまう。ただ単にお酒を飲む約束をしているだけであれば、多少待たされたとしても気にしないけれど、「原稿を書いて欲しい」と頼まれて、「原稿に書くために、この時間にこのお店で待ち合わせたい」と伝えていたのに待たされるというのは理解しかねる――急にそう思ってしまった。

 今日はどうしても忙しいのであれば、事前にその話を伝えてくれれば済む話だ。事前にそう言われていたら、「じゃあ明日に」と約束し直していただろう。それに、僕がここにいるのは原稿を書くためであって、旅を楽しむためではないのだ。そのことをわかってもらえないのだとしたら、原稿を書いて手渡すのは無理だなという気持ちに駆られてしまって踵を返す。今日の夜も宿泊するつもりでいたけれど、荷物をまとめてチェックアウトし、最終の新幹線で東京に引き返す。