明日から、池袋・あうるすぽっとにて北九州芸術劇場プロデュース「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」が上演される。11月13日、僕はこの作品を観るために小倉へと向かった。飛行機で向かうはずが、この時期は新幹線や高速バスで延々と移動している時期で感覚がマヒしてしまい、飛行機に乗り遅れ、急遽新幹線で小倉に向かった。東京から小倉まで、5時間近くかかる。途中、僕はパソコンを広げて仕事をしていた。数時間経ち、新幹線が停車したところで顔を上げると、見覚えのない風景がそこにあった。広島出身の僕にとって見覚えのない風景ということは、ここは新山口あたりだろうか?――そう思って駅の看板を確認すると、そこは他でもない、広島駅だった。これはショックだった。いくらぐるぐる移動し続けて頭が馬鹿になっているとはいえ、そこを出て10年経っているとはいえ、自分の地元の風景に気がつかないなんて。
 
 「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」の登場人物は海を目指す。これまでの作品でも海や水辺は何度となく描かれてきたが、今回は比較的早い段階で海にたどり着き、海辺が何度も描かれる。海や街で、実にたくさんの人が交錯する。たくさんの記憶が、街の記憶が、人の記憶が。街はどんどんどんどん変わっていく。人も変わっていくのだろうか? この作品には、久しぶりに小倉に帰ってきた男と女がそれぞれ登場する。女が言う。「変わって行くんだね、街は」と。「でもそれは、悪い事じゃないよね、きっと」。
 
 終演後、飲みにいく道すがら、小倉の街を歩いた。歩いたのは僕だけで、あとの人は皆自転車に乗っていた。途中、藤田さんだけが皆と違う方向に進んで、皆の頭の上には「?」が浮かんでいたけれど、少し経って誰かが「ああそっか、橋本さんに道案内してるのか」と言った。「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」には、小倉の固有名詞がいくつも登場する。魚町銀天街にさしかかると、「劇中でも言ってるけど、ここが日本で初めてのアーケード街らしいっす」と藤田さんは言った。「(こっちの人が、日本初であることを)すげえ自慢してくるんすよ。マジで意味わからんと思って」と藤田さんは面倒くさそうに笑ていた。そう、文字にするととても面倒くさそうに見えるのだが、どこかこの街に対する愛情が溢れていた。
 
 0時過ぎにお開きになったあと、小倉の街を歩いて海へと向かった。途中、コンビニみたいな店でトイレを借りたついでにビールを買って3人で歩いた。たどり着いた海では、工場が煙を吐き出していた。海を眺めながら、しばらくそこで話をした。僕は、何かを観て涙ぐんだり少し涙がこぼれることはあっても、涙が止まらなくなるという経験はこの日が初めてだった。そんな作品を観たあとにさっさとホテルに帰るのも惜しくて、海を眺めたあとは「白頭山」に連れていってもらい、100円ビールを遅い時間まで飲んだ。

  あれを観たのは本格的な寒さがやってくる前だったけれど、そのあと冬がきて、季節は移り変わり、今日の東京の最高気温は18℃だという。すっかり春になった東京で「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」を観たとき、どんな感慨があるのか、今から楽しみだ。