10月23日

 午後、久しぶりにジャケット着用で部屋を出る。待ち合わせの10分前にと赤坂エクセルホテル東急へと向かった。ホテルの向かいの建物は全フロア(?)ビックカメラだ。赤坂見附の駅前にビックカメラ、か。入口に迷いながらも待ち合わせ場所のホテルのロビーに行ってみると、既に坪内さんが座っていた。坪内さんが買っていた『立ち食いそば図鑑』を見せてもらっているうちに16時過ぎ、全員揃う。

 取材まではまだ時間がある。ホテルのある建物の2階には「フーターズ」が入っているということなので、せっかくだからと4人で入ってみることにした。時間のせいかガラガラで、そのせいか店員さんの格好もセクシーというより寒そうに思えてくる。そこで30分ほど過ごしてから、タクシーで衆議院第二議員会館へと向かった。議員会館が近づいてくるとドガンとした建物がぽつぽつとある。建蔽率が低くて余白があるせいか、東京ではなくどこか地方の広大な場所を走っているような気分になってくる。

 議員会館はぴかぴかの建物だった。最近建て替えられたらしい。中に入るとまず空港のような手荷物検査を受ける。えらく厳重だなと思うが、すぐに「そりゃそうだ」と思い直した。ここには国会議員がいるのだ。検査が終わると、入館の申込証に記入する。議員事務室を訪ねる人と事務局などを訪れる人とで記入する用紙が(色も含めて)別になっていた。代表者だけが記入するので、何を記入するのか、僕はわからない。行き交う人を見ていると、皆黒のジャケットを着ている。他に着られるジャケットがなかったので、僕はブルーのジャケットを着てきてしまった。新しいのを買ってでも黒にするべきだったかもしれない。

 受付で衆議院通行証をもらって中に入り、17時、「生前、うちの親父が迷惑かけませんでした?」という言葉から、坪内さんによる石原慎太郎さんへのインタビューが始まった。坪内さんと石原さんは初対面だったそうなのだが、次第に石原さんも楽しそうに話し始める。「しかし――あなたもいろんなこと知ってるね」と石原さんは口にしていた。

 1時間ほどで取材は終わった。丸ノ内線新宿御苑に出て新宿1丁目「N」に入ると、卵とメンマが盛られた皿が運ばれてくる。この店で「先生」と呼ばれている坪内さんは、お店に入るとこのセットを出してもらえるのだという。まずは餃子とレバニラ、それに焼ぶたを注文する。餃子は酢と胡椒でいただく。うまい。焼ぶたはボリュームたっぷりで、1切れでごはん1杯食べられそうなほどだ。うまい。しかし何より美味かったのはレバニラだ。スペシャルな一手間を加えてあるというレバニラは本当にうまい。タレが……また、たまらない。最後、皿に残っていたのを「はっちゃん、食べちゃって」と皿を渡されて食べたのだが、できることなら皿に残った汁をゴクッと飲み干したかったのだが、さすがに堪えた。

 最後にタンメンを注文した。普通盛りでもかなり盛りがいいが、4人でシェアするので大盛りを選んだ。運ばれてきたタンメンには、きれいに野菜が盛られている。最初に手をつけるのもはしたないかと遠慮していると、坪内さんが「これは誰かが崩さなきゃな」と口にした。なるほど、そういうこともあるのかと思う。このタンメンたしかに相当ボリュームがあるのだが、食べてみるとこれがまた美味く、一人でも食べられそうな気がしてくる。

 20時過ぎに店を出て、靖国通りの歩道橋から厚生年金会館跡の広大な更地を眺めたあと(本当にサッカーコートがすっぽり入りそうな広さだ)、3人で新宿5丁目「N」。ウィスキーのソーダ割りを何杯か飲んだところで、「今日はね、はっちゃんに文学者は対等なんだってことを見せたかったの」と坪内さんは言った。たしかに、「文学」というものを介して二人は対等に語り合っているように見えた。「文学っていうのは強いんだよ」とも坪内さんは言った。しかし――と僕は少し寂しくなる。石原さんは文学者であり政治家でもある人だ。しかし、これから先の時代にそんなコミュニケーションが、いやそもそも文学者というものが成立しうるのだろうかとボンヤリ考えながら、僕はソーダ割りを飲んだ。