11月21日

 朝からどんより曇っているが、夕方まで雨は降らない予報なので、洗濯機をまわしておく。今日からしばらく家を空けるので、なるべく家事を済ませておきたいところ。制作から送られてきたPCR検査キットを開封し、検体を採取しておく。スタッフが回収にきてくれるタイプの検査は初めてだ。回収予定時刻が「9:00-15:00」という幅でしか指定できず、まあ14時ぐらいに回収にきてくれるぐらいだろうなと思っていると、9時半にはインターホンが鳴り、カタコトの――と感じるのも差別的なのだとわかっているけれど、こういうぼくにとってエッセンシャルな仕事を外国から日本に移り住んだ方が支えてくれているのだと感じたことは書き残しておきたい――日本語で「とうあこうぎょうです」とインターホン越しに声がする。会社名が頭に入っていなかったので、瞬時に理解できずにいると、「あの、PCR」と言われて、ああ、今持っていきますと階段を降り、袋を手渡す。

 金曜日に戻した水納島のゲラについて、追加のやりとりをメールで交わす。書籍は別タイトルのほうがよいと言われていて、タイトルを考えるのが苦手なのでずっと悶々としていたけれど、単行本担当の方とのやりとりで考えが少しずつまとまり、ネットの類語辞典の海を泳ぎ続けたり、原稿に書いたいくつかの話を思い返したりしているうちに、これじゃないか、というタイトルが浮かんだのでホッとしている。昼はパスタを200グラム茹でて、炒めたベーコンやキャベツと絡めて平らげる。那覇の肉屋さんでお土産に買ったベーコンを食べ尽くすべく、この1週間で3回作っているけれど、まだおいしいと呼べるレベルに達していない。数日前に作ったとき、知人は何の感想も言わずに食べていた。パスタを作り慣れていないせいもあるけれど、根本的な問題は時間に追われてアワアワしていて、味見しないまま完成としてしまっていることにあるのだろう。

 15時半に家を出て、上野駅へ。特急ひたちで、いわきに向かう。車内ではS・Iのドキュメントを書いたのち、書評を練る。前々回の委員会のときに、検討本として抱えていた本をすべて取り下げてしまったせいで、11月はほとんどぼくの書評は掲載されないことになってしまった。「せっかく読んだのだから」とか、「書けば原稿料が生じるのだから」とか、そういう考えも浮かばないわけではないけれど、坪内さんに教わった人間である以上、そんな心持ちで書評を書くわけにはいかない。読書委員になるにあたって読み返したのは、坪内さんの『文学を探せ』だった。

 18時過ぎにいわきに到着し、ホテルにチェックインしたのち、舞台『c』に向けたドキュメントのためのテープ起こしをしておく。テレビをつけながら作業していると、20時になった瞬間にピロリロリンと音が鳴り、福島市長選は現職が当選確実とテロップが出る。仕事がひと段落したところで、メールを確認すると、もう結果が届いていて「低リスク」と表示されている。ちょうどお腹も減ってきたので、晩御飯を食べに行くことにする。行ったことのあるお店や、いつか行きたいと思っていたお店は、日曜定休が多いようだ。どうしようかとGoogleマップを眺めていると、誰かに聞いて「お気に入り」に登録していたのであろう焼き鳥屋さんは今日も営業しているようだ。ホテルからも近く、このお店に向かってみる。

 引き戸を開けると他にお客さんはいなくて、半分ほっとする(PCR検査は低リスクだったとはいえ、地元の常連客で一杯だと、どうしても気を遣ってしまう)。まずはビールを頼んで、焼き鳥盛り合わせを注文し、焼き上がりを待つ。イートインのお客さんはいなくとも、ときどき持ち帰りを電話注文していたお客さんがやってくる。味は美味しいのだろう。ただ、カウンターの中にいる女将さんがどうしても引っかかる。彼女は基本的には椅子に座ったままで、アルバイトとおぼしき外国人の若者にずっと小言を言っている。「ほら、早くあれを準備しないと」と言いながら、自分は何もせずに座っている。料理を出すのも、お酒を用意してくれるのもアルバイトの店員さんだ。それでいて、あとからやってきた、地元の言葉を話す男性に料理を出すときだけは自分がやっている。なんでこの店に金を払わなきゃならないんだろうなと思いつつも、まあ自分に接客してくれたあのアルバイトの店員さんにお金を払うんだと自分に言い聞かせて、焼き鳥の盛り合わせを食べきったところで店を出る。お腹は満たされたけど、このまま帰る気になれず、「鳳翔」に入り、店員さんたちが賄いを食べている近くのテーブルでウーロンチャーシューと平らげる。