1月12日

 昼は自宅でテープ起こしを進める。15時、アークヒルズで編集者のIさんと待ち合わせ。まずはANAインターコンチネンタルホテルのロビーで打ち合わせをしたのだが、やはり(?)ロビーにはパイロットがちらほらいる。それに振袖姿の女性もよく見かける。今日は成人式だ。急な坂スタジオで成人を祝ってからもう1年経つのか――そして自分の成人式から12年も経つのかと思うと、おそろしくなる。いつのまにそんなに時間が経ったのだろう。僕は地元まで戻って成人式に出たはずだが、そのとき自分が何を思っていたのか、何一つ思い出すことができない。

 アークヒルズで取材を終えたのは、16時頃のことだった。せっかくだから、歩いて六本木に出ることにする。「青山ブックセンター」(六本木店)で数冊購入したのち、六本木ヒルズに出た。ちょうど日が暮れかけている。僕は冬のこの時間が好きだ。昨日はこの時間に東急東横線に乗っていて、窓の外に広がる空の色を見ているうちに、「明日はこの空を見晴らせる場所に行こう」と決めていたのだ。空の際が橙色に光り始めて、それが次第に濃くなって茜色になり、ふと暗くなる。それを眺めているのが好きだ。

 麻布十番まで歩いて、適当な居酒屋に入って燗酒を2本飲んだ。そこから大江戸線新江古田駅に出る(駅の表記には「えごた」とある。今まで「えこだ」だと思っていたが間違いだったのか)。今日は江古田にある「ポルト」というお店で快快の新年会がある。いろんな人と話をしたけれど、編集者のUさんと話したことの印象が強くて他のことは覚えていない。Uさんは、「橋本君が何かに夢中になってる感じがしない」と言った。それと同じことは以前にも言われたことがあった。昨年のマームの同行記を書くときには、そのUさんの言葉が頭の片隅にあったのだが、「マームの同行記を読んでても、橋本君が遠慮してるように思える」とUさんは言った。

 遠慮してるように思えると言われると、僕はそれを否定することができない。関係が悪くなってでも何かを書くということよりは、この続いていく時間をうまく書き記そうという気持ちのほうが強かったのは確かだ。たとえば、藤田さんがポンテデーラでぶちぎれていた日、僕はうつむいているばかりで、その現場を写真に収めることはしなかったし、表情を確かめることすらしなかった(ただ、そのときのことを書いてはいるけれど)。そういう遠慮は確かに節々にあった。でも、僕からそうした遠慮をとりのぞくことは永遠にできないだろう。だとすれば、僕はもう、こういうことに向いてないのではないかと思ってしまう。帰り道、そんなことばかりぐるぐる考えていた。