朝9時に起きる。昨日餅を焼いた網をコンロに掛けたままになっていたので、トーストを焼いてみる。うまかった。昼は納豆オクラ豆腐うどんを食す。昼下がりに新宿「らんぶる」でブレンドを飲みつつ、川上未映子×穂村弘『たましいのふたりごと』(筑摩書房)を読んだ。

 (…)対談集をつくりましょうと企画したのですが、とはいえそれだとあまりにも幅が広すぎて話の糸口も見えないので、お二人にそれぞれこれまで生きてきたなかでこだわりのある言葉を二六個ずつあげていただいて、あとそれだけだと意外性がなくなるので、編集部からも二六個をあげて、計七八個(誰が選んだかは言葉の後に記した。または巻末のリストを参照)の言葉について話していくことでお互いが世界を見る角度の違いとそれぞれの人生が浮き彫りになるのではないかと企画した次第です。

 冒頭に「編集部」の言葉としてこう語られているように、読んでいくうちに、まさしく「お互いが世界を見る角度の違い」が見えてくる。また、二人の温度のようなものが伝わってくる。温度というと違うかもしれないけれど、その人が世界に存在する体温のようなもの。78個もキーワードがあるので、中には1ページほどで終わってしまうキーワードもある。その強弱も面白いし、読んでいるうちになぜだかおとそ気分になる。

 全部で220ページほどの対談本で、あっという間に読み終わってしまう。やはり「もっと読みたい!」という気持ちになる。そんなページ数は現実的でないけれど、1000ページくらい読んでいたかった。「永遠」と「未来」、「自己犠牲」と「自己愛」、「憧れ」と「媚び」、「お別れ」と「後悔」、そして「夜」あたりのキーワードだけでも1冊ぶんぐらい読んでいたい気持ち。

 ちなみに、「と」で結んだキーワードは(「憧れ」と「媚び」をのぞけば)前者が未映子さんが選んだキーワードで、後者が穂村さんが選んだキーワードだ。そこでは近しい話がなされているのだが、それを未映子さんがキーワードとして言葉にすると「自己犠牲」になり、穂村さんが「自己愛」になる。その抽出が既に川上未映子の世界であり、穂村弘の世界であるということにシビれる(そして、本の何パーセントかは、しばしば登場する「編集部」こと山本充さんの世界でもある)。他には、「喧嘩」、「お菓子」、「スノードーム」、「めんどくさい」あたりのキーワードが印象に残る。

 読み終えたところで「らんぶる」を出て、アパートに引き返す。ケータイを忘れていたのだ。別に誰と連絡を取ることもないのに、取りに帰らずにはいられなかった。ケータイを手に、西早稲田駅から横浜を目指す。19時半、KAATの大スタジオにてフィジカルシアターカンパニー・GEROの旗揚げ公演「くちからでる」を観る。僕にはこの公演をうまく言葉にすることができない。始まってしばらくは何がなんだかわからなかった。だが、だからといって「つまらん」と席を立つこともできず、目を離すことができなくなる。自分が目にしたものは何だったのだろうと思いながら、中華街の「山東」でビールと水餃子を食す。

 今日はアパートに帰っても知人がいないので、新宿5丁目「N」に立ち寄る。このお店にはスノードームがいくつか並んでいる。そういえば、小さい頃スノードームが好きだった。たしか親がクリスマスに買ってきてくれたのだが、それを「スノードーム」と呼ぶのだと知ったのは大人になってからだ。「スノードームって世界が閉じ込められていて、それがいくつもいくつもあるのがいいんです」と、『たましいのふたりごと』で未映子さんが語っていた。僕がスノードームが好きだった理由が、ようやくわかった気がする。ミニチュアの世界が好きだった――手先が器用でないからあまりハマることはなかったが――のも、それに近い理由だろう。

 僕が座ったのは、カウンターの1番奥の席だった。そこに座ると、お店の全部が見渡せる。向こうに見えるボックス席ではTさんが編集者の方たちと飲んでいる。目の前にはRさんやKさんが氷を削り、ソーダ割りや水割りを作る姿が見えている。「N」を訪れるお客さんは、偶然隣に座った相手との会話を楽しむ人も多いが、僕はただお店の様子をが舐めて過ごす。その時間が何より楽しかった。それを眺めながら、1時過ぎまでウィスキーのソーダ割りを飲んでいた。