沖縄滞在最終日。レンタカーがあることだし、今日も少しだけ遠出することに決める。58号線を北上し、宜野湾市・伊佐にあるタコス屋「メキシコ」を訪れる。この店もM山さんに教えてもらった店で、二度目の訪問。二度目でようやく、道路を挟んだ対岸が普天間飛行場だと気づく。

 京都に滞在していたとき、「京都は碁盤の目だからわかりづらい」と知人が言っていた。東西南北さえ分かっていれば、「大体こっちだな」とわかるじゃないかと僕が言うと、「東西南北とか全然わからん。地図を回さんとわからん」と知人が言う。が、こんなに沖縄を訪れているのに、まったく道を把握していないことに気づく。その理由の一つは、皆で訪れることが多くて、誰かにアテンドしてもらうからだろう。もう一つの理由は、基本的にレンタカーで移動するせいだと思う。レンタカーの地図はクルクル回転する。回転されると東西南北がわからず、どういう移動をしているのか、さっぱり把握できないのだ。

 「メキシコ」のタコスは今日も絶品だ。腹を満たしたところでさらに北上し、読谷村に出る。去年の春に「cocoon no koe cocoon no oto」という作品を発表した、「水円」というパン屋。その公演前に皆で出かけたシムクガマ。それぞれ再訪する。急遽うたを歌うことになって、前庭で練習していた皆。公演中、あの窓から飛び降りた姿。ガマへと続く道を歩く皆の後ろ姿。ガマの奥から照らされた光。1年前の出来事だから強烈におぼえているが、今はその風景の中に誰もおらず、幻覚を見ているようで変な心地になる。

 夕方になって那覇に戻り、飛行機のチェックインを済ませてから市街地まで引き返す。牧志でモノレールを降り、「市場の古本屋 ウララ」をのぞく。ウララさんは不在で、別の方が帳場に座っている。数冊購入して、一昨日訪れた寿司屋に入る。市場の寿司屋だ。刺身をつまんで泡盛を飲んでいると、どかどかと中国人観光客がやってくる。

 子供は元気が有り余っている様子で、店に入るかどうか話し合っている大人をよそに走り回っている。「あれじゃ食器割っちゃうから、入ってきたら『クローズ』って伝えて」と大将が店員に伝えている。が、「クローズ」という言葉を意に介することもなく彼らは入店し、席についておしぼりを渡されるなり「ヌードル、ヌードル、ヌードル!」と要求する。「ノー・ヌードル」と断られると、何やら話し合いを始め、グループの半数は無言で店を出て行った。

 僕はひたすら泡盛を飲んだ。何度もお代わりするのが申し訳なくなってきて、「すいません、二杯分お願いします」と注文すると、なんとジョッキ一杯に運ばれてきた。水割りではなく、泡盛のロックがである。「これは本気を出してきたな」と嬉しくなり、それを飲み干してから空港へと引き返した。