10月30日

 5時に目を覚ます。シャワーを浴びて、日暮里駅へ。6時5分発のスカイライナーに乗り、成田空港へ。日暮里駅にはスカイライナーの券売機があり、そこに残り座席数が表示されていて、最近はずっと300席台だったのに、今日は残り260席台まで売れている。空港の雰囲気も、2週間前に比べて一段と警戒感が弱まっている。おそらく宮古行きの便に乗るのだろう、若者とその母親とが話している。「軽石が流れ着いてるってテレビで言ってたけど、大丈夫かな」と母親が言うと、「あれは本島だし、関係ないでしょ」と若者が返す。関係ない、という言葉を引きずりつつ、高松行きの飛行機に乗り込んだ。

 飛行機はわりと満席に近く、真ん中席にも乗客がいた。9時過ぎに高松空港に到着し、バジェットレンタカーでコンパクトカーを借り受け、高松を目指す。空港から市内に向かう道路はずっとまっすぐだ。レンタカーの画面をチラ見すると、水色があちこちにある。きっと溜め池だろう。正面にはずっと、日本昔ばなしみたいな山が見えている。「山」という風景から連想するものは、生まれた土地によってそれぞれ違っているのだろう。10時過ぎ、レンタカーをコインパーキングに駐車し、本屋「ルヌガンガ」へ。ちょうど開店作業をされているところだ。

 じっくり棚を眺めていると、お店の方に「前にもいらしていただいたこと、ありますか?」と尋ねられる。いえ、初めてお邪魔しましたと答えて、ご挨拶すると、「棚の見かたが、同業者か出版社の方じゃないかなと思ったんです」とおっしゃる。そうか、棚の見かたで漏れ出るものがあるのかと思う。入り口近くの「食」に関する棚からして、おお、これはという本がずらずら並んでいて、背筋がのびる。『ごろごろ、神戸。』が並んでいるのを見かけて、どうも、と頭の中で言葉が浮かぶと、去年の3月だったか、スタンドバーで飲んだときに、最近はこうやって挨拶するらしいと、足先でちょんとシェイクしたことが急に甦ってくる。

 ツイッターで存在を知って気になっていたリトルプレスも含めて、あれこれ買い求めて、アイスコーヒーも買ってお店をあとにする。しばらくアーケード街を歩いてみる。今日が選挙戦の最終日で、せっかくそんなタイミングで高松にいるのだから、香川一区の候補者をみておきたい。10分ほど歩いたら、ブルーのジャンパーに身を包んだRM党の人たちが投票に行きましょうと呼びかけるところには出くわしたものの、候補者には遭遇できなかった。後ろに予定もあるので、あきらめてレンタカーに乗り、車を走らせる。まずは去年皆で出かけた思い出のある「がもううどん」に行くと、土曜日とあって行列ができている。30分ほど並んで、うどんの大に、とり天とちくわ天をトッピングする。まわりには田圃が広がっていて、その風景の中でうどんを啜る。

 12時半に善通寺市四国学院大学に辿り着き、マームとジプシー『BEACH』を観劇。初演と再演を観ているけれど、かなり内容が更新されていて、圧倒される。レンタカーを走らせ、一駅隣の琴平へ。1年前も宿は琴平駅の近くにあったものの、駅の東側にあるビジネスホテルだった。今回予約したのは西側、金刀比羅宮がある側だ。ナビに従って走っていくと、ある地点を境に温泉街の雰囲気に切り替わり、老婆がこちらに向かってチョイチョイと手を振っている。駐車場の勧誘なのだろうけれど、その感じに、妙にぎょっとしてしまう。車がぎりぎり抜けられる路地を走り、ソープランドの前を通過し、リバーサイドホテルにたどり着く。夕方までは宿で原稿を書き、16時半に部屋を出て、電車で善通寺へ。がらがらの電車の中で、高校生ぐらいの子がふたり、ボックス席でじゃがりこを食べている。善通寺市では、10月の感染者はふたりだけで、外からやってきた人と接しない限り、ここではそこまで高いリスクではないのだろう。

 少し時間があるので、四国学院大学の周囲を歩く。そういえば去年は校門近くのケーキ屋さんでバースデーケーキを買ったんだったと、そのお店のほうに行くと、お店は空っぽになっている。閉店してしまったのか。17時半に開場し、さっきと同じ端っこの席を荷物でキープして、近くのデイリーストアへ。去年は皆で葉っぱや枝を拾って山に登ったあと、ここに立ち寄り、皆がアイスを買い食いしてるのを眺めながらビールを飲んだ。今年はひとりでビールを飲んでいる。18時、『CYCLE』観る。何度も延期を繰り返さざるをえなかった作品を、ようやく観ることができた。

 終演後、もう一度デイリーストアに行き、缶ビールを3本買ってくる。終演後の楽屋にお邪魔させてもらって、焼肉の準備を進めるFさんと、観ながら考えたことをぽつりぽつりと話す。終演直後の楽屋は――しかも明日は別の作品が上演されるため、配置換えが進んでいることもあり――バタバタだ。そこで誰かと顔を合わせるたび、お疲れ様ですと挨拶する。20時半には皆が着席し、Fさんがキッチンで焼き上げる焼き肉をひたすら頬張る。当たり前だけど大皿ごとに取り箸が置かれ、飲み食いするたびマスクを外したりつけたり。明日も上演があるので、少しずつキッチンには人が少なくなっていく。今日は最後までその場で話を聞いていようという気持ちになり、23時20分頃までキッチンで過ごしていた。

 学内の宿泊施設に滞在している皆と別れ、敷地を出る。この時間だともう終電が出ているのは薄々わかっていたので、善通寺市内のタクシー会社に電話をかけてみたものの、どこも繋がらなかった。まあ、そうか。でも、温泉街なら繋がるだろうとたかをくくっていたものの、こちらもまるで繋がらなかった。街灯のほとんどない道を、ひたすら歩く。夜になるとかなり肌寒く、風邪を引かないように首に手を当て温めながら歩く。1時15分に温泉街にたどり着き、セブンイレブンでさぬきうどんを金陵のカップ酒を買って、ホテルに帰った。