9月9日

 6時に目を覚ます。昨晩は20時過ぎに二次会の会場をあとにして、ひとりで飲みに行こうかと散策したけれど、日曜日とあって営業している店がほとんどなく、結局セブンイレブンカップ酒とツマミを買ってホテルで飲んで、早々に眠りについたのだった。昨日食べずじまいだった春雨ヌードルに、お湯を注いで食べる。食べながら、朝食がついている宿だったことを思い出し、後悔する。8時にチェックアウトして、学生たちが通学しているのに逆行するように、急ぎ足で駅を目指す。電車は学生で混んでいたが、一駅目で降りてゆき、がら空きになる。車内ではパソコンを広げ、原稿を書く。9月3日にM.Nさんを取材したが、ページが拡大されることになり、もうすぐ出るM さんの新刊の書評もと依頼されたので、その原稿を考える。

 敦賀で乗り換えると、次は近江塩津駅で乗り換えとなり、時間があるので外に出てみる。のどかなところだ。琵琶湖の北端あたりに位置する町のようだ。駅前の案内図は、時代を感じさせるイラストで描かれており、ここに一泊して、歩き回ってみたい気持ちになる。駅前にある信号機は縦型で、ここでもそんなに雪が降るのかと意外に感じる。再び電車に乗ると、次は米原で乗り換えとなる。ここからは東海道本線に入り、大動脈でもあり、僕と同じように青春18きっぷで移動している人で溢れ返っているのではと不安になる。原稿を書かなければならないこともあり、座れないほど混むようであれば新幹線に切り替えようと思っていたが、ずっと座って過ごすことができた。なので最後まで青春18きっぷで移動したけれど、乗り換えのたびに我先にと駆け出す人の姿を見ていると、それだけでも心が削られる。

 熱海駅までは電車が順調に動いていたのに、熱海から東京方面に向かう電車はダイヤが大幅に乱れているらしかった。ニュースには触れていたけれど、台風はかなり規模が大きかったようだ。20分ほど遅れて電車がやってきて、それに乗り込んで、横浜にたどり着く。そこからみなとみらい線に乗り換えて、元町・中華街駅に出て、ホテルにチェックイン。シャワーを浴び、KAATに出かけ、快快の新作『ルイ・ルイ』観る。素晴らしかった。特に素晴らしかったのは山崎皓司がハシゴをのぼる場面だ。そこで彼は、そうやってのぼりながら、落ちて死んでしまうかもしれないけど、気にしないで、と観客に語りかける(そこで客席から笑いが起こり、そんな弛緩した客席に座っていることが心底嫌になったけれど、この時間の先には確実に死が横たわっている)。そこで語られる、コメ作ってみたかったな、養蜂もしてみたかったという些細なつぶやきが、とても印象深く響く。その姿を眺めながら、なぜだか危口さんのことがを思い出す。もうひとつ、こーじさんがグレーのかつらを被り歌うシーンも印象的だった。

 何より印象的だったのは、舞台の終盤、石倉来輝が月を見上げながら、クラブという場所について語るシーンだ。そこはシェルターのような場所だと、彼は語る。そこで自分を保った上で、現実世界に繰り出していく――そうしたことを語り終えて、舞台からはけてゆく。そこで別の俳優とすれ違うのだが、そこでぶつかりかけ、彼は舌打ちをしながらはけてゆく。そこに舌打ちが配置されていることに、胸が打たれる。快快の作品は、「よかったーすてきな時間だった!」みたいな感想で語られることが多いけれど、ポジティブに世界を肯定する、みたいなことだけではなくて、言葉にならない違和感のようなものが漂っている。

 二度のカーテンコールが終わるとすぐに席を立ち、受付にいる知人に「よかったわ」と伝えてコンビニに走り、アサヒスーパードライを2本買って引き返す。ロビーでしばらく過ごしたのち、楽屋に案内してもらって、初日乾杯。22時に退館時間を迎えて、皆で急いで劇場を出て、皆で「SNTN」。僕はここの店員さんと一度揉めているのだが、今日もむっとした対応をされる。僕と同じように過ごしていても知人だとにこやかに対応されていて、一体どういうことやねんと思いながら紹興酒のボトルを飲み干した。