9月23日

 7時過ぎに目を覚ます。ゴミ出しをして、コーヒーを淹れ、たまごかけごはん。9時半に家を出て、西日暮里で千代田線から京浜東北線に乗り換える。地下鉄はがらがらだったけれど、京浜東北線はお出かけする家族連れでわりと混み合っている。それでも品川を過ぎたあたりから空席が増えたので座り、パソコンを広げて書評のゲラに修正を加えたデータをメールで送信しておく。10時40分には桜木町駅に到着し、急な坂を上がってスタジオへ。坂の上には動物園があり、今日は祝日とあってベビーカーを押す家族連れがたくさん行き交っている。坂の途中にある駐車場も満車らしく、警備員さんが入ろうとする車に×印を作って見せている。

 11時にスタジオが開く。今日は2週間前にしたインタビューに関連した追加撮影(インタビューが3回に分けて掲載されるので、稽古場が立ち上がった状態で撮影したほうがいいだろうと、今日あらためて撮影にきた)。「稽古場に入る方、皆さんに抗原検査をお願いしていて、橋本さんにもお願いしていいですか?」と制作のKさんに言われる。すごい、徹底してるなあと思いつつ、そりゃそうだよな、それぐらい中止しておかないと、感染が発覚した場合のリスクが大き過ぎるもんなと思う。これまでPCR検査は何度も受けていて、唾液を採取して提出する一連の作業は慣れたものだけれども、抗原検査はほとんどやったことがなく、何度も説明書を確認しながらやる。説明書にある検査キットと、実際の検査キットが微妙に見た目が違っているので混乱しながら、15分近くかけてようやく薬品と混ぜた唾液をキットに垂らす。すぐに線が一本だけ出る。それは陰性だという結果で、ええっと、抗原検査の陰性ってどっちだ、大丈夫なほうなんだっけ?とそわそわしていると、制作のKさんがやってきて、あ、大丈夫ですね、ありがとうございますと言うのでほっとする。

 稽古場に入り、Fさんの写真を数枚撮ったあと、沖縄の話をしばらくする。『東京の古本屋』を手渡すと、え、もらっていいんですか、嬉しい、とFさんが言う。もちろん、時間のあるときにでも読んでくださいと言い添える。ぱらぱらとめくりながら、これはつまり、「路上」と並行しながら取材してたってことですもんね、とFさんが言う。稽古場にはA.Iさんもいて、Aさんにも渡したいなともう一冊持ってきていたのだけれども、AさんはAさんで作業されているのと、稽古場に何人かいるなかでAさんだけ呼んで渡すのもなと思うと持ち出せず、鞄に入れたまま稽古場をあとにする。

 桜木町駅の駅そばで、天ぷらそばといなり(2個)のセット(540円)。マスクを外したおばあさんが、カウンターに直接「すいません、おいなりさんもらえますか」と声をかけ、「食券をお買い求めください」と言われている。わりと近い距離なのでそわそわする。横浜に出て、東急東横線に乗り換える。電車が何本か到着したばかりなのか、横浜駅構内はすごく混雑していて、人通りが落ち着くまで隅っこで様子を見る。乗り換えた東急東横線もそこそこ混んでいた。渋谷に出て、地下通路を歩いていると、「平日なのに、祝日だと人が多いんだね」と話している若者二人組が前を歩いている。少し遠いところから遊びにきたのだろうか。渋谷駅の地下通路、再開発により坪内さんが動線を無視した構造になったことに対して憤っていたけれど、あちこちに通行区分を示した案内表示(通路の真ん中に境界線が引かれ、片側には↑、片側には↓と、それぞれ進行方向が矢印で表示されている)がベタベタと貼られている。

 井の頭線で下北沢へ。駅を一歩出ると、マスクを外している人がちらほらいる。「古書ビビビ」に入り、棚をひとしきり見て、帳場に本を差し出す。目の縁で帳場を見ながら、あ、馬場さんが不在のタイミングだったかなと思っていたけれど、帳場に座っていたのは馬場さんだった(髪型が変わっていたので気づかなかった)。あらためて取材のお礼を伝える。うちでもしっかり売りますんで、と言ってくれる。帰りに「オオゼキ」に立ち寄る。二十世紀梨の「太鼓判」という品種が並んでいる。今日は夏みたいな天気だから、枝豆とゴーヤ、木綿豆腐にポークランチョンミートも買う。チューリップのポーク缶はうちの近所では見かけないので嬉しくなる。肉も魚も野菜も、うちの近所のスーパーよりずっと充実した品揃えで、羨ましくなる。

 代々木上原で千代田線に乗り換えて、千駄木まで帰ってくる。休日の千代田線はやっぱり空いている。14時半に帰宅し、荷物を起き、自転車を1階に下ろしてすぐにまた出かける。駒込の「青いカバ」に、『東京の古本屋』が並んでいる写真がアップされていたので、おお、と見物(?)にいく。両側の通路に先客がいたので、しばらく入ってすぐの棚――『東京の古本屋』も置かれている新刊台――を眺める。『部屋をめぐる旅』という、とてもよいタイトルの本を見かけ、ぱらぱらめくっていると、書かなければならないまえがきのアイディアが浮かんでくるのを感じる。文庫棚に目をやると、大江健三郎がたくさん並んでいて、『同時代ゲーム』もある。ぱらぱらめくり、たぶんこれは読みきれないだろうなあと思いながらも、買うことにする。さらに棚を眺めていると、いちど店内の手前から奥へと棚を見ていた先客が、また逆流してくる。えーと、その流れで戻ってこられるとどうやって行き違うんだろうかと思いながらも棚を見ていると、ぼくと棚のあいだに入り込んでくるので、凝視する。

 帰りにコンビニで『ビックコミックオリジナル』も買って、帰宅する。途中にいくつもお寺があるのだけれども、路駐している車がいつもより多く、家に帰ってくるとどこかから(というか、ベランダの向こうにある墓地から)線香の匂いがする。YMUR新聞の担当記者の方から届いていたメールに「すみません、お墓参りに出かけていてお返事が遅くなりました」とあり、そうかお彼岸だと今更気づく。そういうことと、無縁の生活を送ってしまっている。『ビックコミックオリジナル』、お目当ては宇田さんのコラムだ。先日お茶したあとで、メッセージのやりとりをした際に、「バンボシュのことを聞きそびれてました」と送ったら、「今度発売されるビックコミックオリジナルにそのことを書きました」と教えてもらっていた。むつみ橋交差点からジュンク堂書店に向かうとき、左手に「バンボシュ」というお店があった。ちょっとファミレスのような雰囲気で、ぼくは一度も立ち入ったことも(気にかけたことも)ほとんどなく、解体工事が始まっているのに気づいても、ケータイのカメラを向けることすらなかった。その解体工事が終わった頃に、宇田さんがその解体工事のことをツイートされていて、そこから連鎖して他の人たちが何人か思い出を語っていて、ああ、あのお店、地元の人たちからすると馴染みのあるところだったのかとハッとさせられていた。宇田さんの言葉は(書き言葉でも話し言葉でも)まっすぐで、ちょっとびっくりするというか、たじろいでしまう。自分の姿勢を自問自答させられる、というのか。「町の記憶」というタイトルもまっすぐだ。

 夕方にはF.Yさんから依頼されている原稿をどうにかまとめ上げて、メールで送信する。知人は在宅で仕事をしている。もうビールを飲み始めてしまいたいなあと冷蔵庫をじっと見ていると、それを察した知人が犬のように、「もうビールが飲めるんですか!」と嬉しそうな表情で冷蔵庫に近づいてくる。もう飲んでしまいたかったけれど、まだ16時半なので我慢して、Fさんのインタビューのテープ起こしを進める。17時半にはビールを飲み始めて、晩御飯にというつもりで桜木町駅で買っておいた崎陽軒のシウマイ(15個入り)を開封し、知人とぼくとで、それぞれ仕事をしながら酒のツマミにする。19時過ぎ、枝豆とゴーヤチャンプルで晩酌。『ターニング・ポイント』を最後まで観て、21時半には布団を敷く。