7月18日
8時になると、知人がむくりと起き出し、チャンネルをTBSに変える。『サタデープラス』のMC・丸山隆平が画面に映ると、「まるちゃんおはよう」とがつぶやき、それで満足したのか「挨拶したけ、もっかい寝よ」と知人は布団をかぶる。小雨が降る中、近くのセブンイレブンに出かけ、ハムサンドを2個。知人と一緒に平らげる。コーヒーを淹れて、持続化給付金のことを調べる。「対象月」の売り上げが昨年の同じ月と比べて半減していなければ申請できないと思い込んでいて、この月は半減しているけれど、その月で計算すると満額もらえないし、この月は売り上げが少なかったけれどその月だと去年も売り上げが少なかったから駄目だ――と、ここ数ヶ月は毎月の売り上げと昨年の売り上げを比較し続けていた。それが昨日、ふと持続化給付金のサイトを確認し直すと、個人事業主で白色申告をしている場合、昨年の同じ月と比較する必要はなく、昨年の売り上げから月平均を算出し、その半額になっていれば申請できるのだと気づく。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう。これならもっと早く申請できたじゃないかと悔いつつ、サイトから申請手続きをする。必要な資料はすでにスキャン済みだったので、あっという間に申請が終わる。カメラ、カメラと小躍りしながら居間にいくと、「ぶちご機嫌になったやん」と知人が言う。「カメラなんか買う前に、リボの返済せえよ」と言われ、残額を確認し、暗い気持ちになる。
昼は知人が近所の八百屋に買い物に行ってくれて、サバ缶とトマト缶のパスタを作ってくれる。ぼくはずっと読書をしていた。洗い物だけやる。窓の外には傘をせずに歩いている人の姿が見えた。天気予報を確認すると、このあとはずっと曇りマークだ。洗濯物が溜まることを恐れているので、すかさず洗濯機をまわす。運転が止まったところでベランダに出てみると、なんというかベトっとしている。雨上がりだから濡れているのは当たり前なのだけど、雨が上がったあとも濡れたままになっている箇所が多い気がする。湿度が高く、風もほとんどないせいだろう。洗濯物もなかなか乾きそうになく、これなら部屋干しのほうが乾きそうだと一部は取り込んで、扇風機の風を当てて乾かす。でも、結局のところほとんど乾かず、後日洗い直すことにする。何をやっているのだろう。知人はずっとソファに寝転んで、めずらしく本を読んだり、FNSの音楽特番を眺めたり。ぼくも寝転がって本を読みながら、ときどき画面に目をやる。司会は中居正広と安住紳一郎だ。中居君がなんだかおじいちゃんみたいに見える。それは容貌の話ではなく、会話のやりとりやその佇まいの話。森山直太朗の「生きてることが辛いなら」をじっと聴く。
21時、知人と一緒にアパートを出て、「たこ忠」を覗くもほとんど満席だ。根津まで歩き、バー「H」。壁に貼られた「文壇酒徒番付」の目の前に座る格好になる。「これを眺めよるだけで酒が飲めるなっていつも思うんよね」と知人が言う。いいこというじゃないか。あとからやってきた二人連れの客がドヤドヤと大声で話している。××に住んでるから、普段はそのあたりで飲んでるんだけどね。その客が大声で言う。こういう人ははっきり苦手だ。よっぽど店を出ようかと思ったけれど、1杯だけで帰るのも申し訳ないのでお代わりを注文。大声の客はしきりにHさんに話しかけている。Hさんは普段より少し大きめのトーンでその客に接していて、やさしいなと思う。そこで大声を迷惑がるように小声で返事をすれば、その客は気まずい思いをするだろう。Hさんはきっと、ぼくが「うるせえな」とその客に思っているのも察知して、その客だけが際立たないように、自分も声のボリュームを上げているのだろう。2杯目を飲み終えたところで会計してもらう。帰り際、知人がHさんに「髪伸びましたね」と声をかける。伸びたと言っても、坊主が少し伸びたくらいなのだが、知人はいつもHさんの髪の長さを気にしている。Hさんは「そうですね、そろそろ切りに行かなきゃと思ってるんですけど」とちいさな声で言ったあと、「あの、髪を短くしたのは何か理由があったんですか」とぼくに尋ねる。いやいや、特に理由はないんですけど、この状況になってみると、別に坊主でいいやって気持ちになったんですと答える。不忍通りに出てみると、誰も歩いていなかった。どうしてわれわれは酒を飲むようになったんだろうかとそれぞれ思い返しながら、知人とふたり、静まり返った夜道を歩く。