7月27日

 7時過ぎに目を覚ます。たまごかけごはんを平らげ、コーヒーを淹れる。数週遅れで聴いているTBSラジオ空気階段の踊り場』、#166を聴き、たまらない気持ちになる。妻が里帰り出産を選び、それ以降は別居が続いていたのが、また一緒に暮らせるようになった――というエピソードなのだが、ディティールとリアリティに圧倒される。そのふたつについては、ひとつ前のオンエア(#165)のメロンの路上販売のときにも感じたものだ。特に「このエピソードを料理してやろう」という気負いもなく、しかしそのとき感じた実感がきっちり語られている感じがあって、誰か鈴木もぐらに私小説を書かせて欲しいなと思う。ラジオで聴くとそこそこ面白く感じるエピソードも、それがエッセイとして書き起こされるとあまり魅力を感じないことが多いけれど、このディティールと実感があれば活字になっても面白いだろう。「この人に小説を書かせればいいのに」だなんて、普段滅多に思わないけれど、誰かすぐにでも原稿を書かせて欲しいなと思う。

 『空気階段の踊り場』、ちょっと登録すれば過去の放送回も無料で聴ける。ほんとに面白い。

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 昼は納豆オクラ豆腐そば(冷)を平らげたのち、14時に千駄木駅近くの洋菓子店の喫茶コーナーで打ち合わせ。しばらく前に「××に関する特集をしたく、つきましてはお知恵を……」的なメールをいただき、一体何をどうすればよいのかと戸惑っていたところ、とりあえず一度お会いして打ち合わせを、という話になった。特集を組むとして、ぼくがナビゲーターとして登場するというのであればアレコレ言えることもあるけれど、「自分たちで取材して特集を組む」(つまりぼくは番組に登場することもなく、書籍にも言及されない)というのであれば、一体何を話せばよいのだろう。

 ぼんやりした気持ちで名刺を交換し、話す。わざわざ近所まで来てもらったのだからと、ポツポツ話していると、対面に座るふたりのうちのおひとかたが「ま、五月雨に話していただいてもお手間を取らせてしまって申し訳ないから、具体的な話はこちらである程度まとめて、伺いたい点をご相談させていただければ」と口にする。おそらくきっと、特集を組むにあたり、ただ仁義を切るために挨拶にきてくれたのだろう。でも、だとすれば余計に、わざわざこの時期に直接会って顔を合わせる必要もなかったなと思ってしまう。

 「往来堂書店」をのぞき、スーパーマーケットで買い物してアパートに引き返す。『AMKR手帖』の連載を担当してくださっているAさんから連絡があり、やはり来月の取材は見送られることになった。地方をまたぐ、というのがやはりネックとなるようだ。水曜日に予定されていたM&Gの作業も、状況を鑑みて見送りとなった。ぽかんと予定が空いてしまった。この連休の気配から推測すると、今から10日後には感染者数はかなりの数になってしまうだろう。そうするといよいよ移動しづらい世界になってしまうだろう。その前に移動する計画を、急遽立てる。

 じゃらんで宿を検索しているとチャイムが鳴り、ユニクロで通販した品物が届く。知人用にエアリズムマスクのMサイズを、自分用にエアリズムマスクのLサイズを注文していた。数週間前のTBSラジオアルコ&ピース D.C.GARAGE』を聴いていると、酒井が「発売日にビックロでエアリズムマスクが買えた」という話をしていて、え、普通に買えるものなのかと検索してみると「在庫あり」と表示されていたので、注文しておいたのだ。あんなに「行列が」と報じられていたマスクでさえ2日で届く状況になって、政府は8000万枚を追加で配布するという。

 ここ最近のGoTo云々も「何言ってんだコイツ」という気持ちでテレビを眺めていたけれど(それは「今は旅をするには時期尚早だ」などという話ではなく、ちゃんと補償という形で事業者を支えろよという憤り)、ただ、「どの事業者にいくら補償するのか?」という選定をする余力が今の政府にはおそらくないのだろう。だからこんなキャンペーンで旅行業界なり飲食業界を支えることしかできないのだろうと、なかば哀れみに近い気持ちでテレビを眺めていたけれど、ここにきてマスクを再び配布というのは、ほんとうに理解不能だ。もちろん今この時期にだってマスクを求めている人はいるだろうけれど、だからといって全国民に現物支給する必要はない。

 夜、「路上」のページが更新される。今月は荻窪から三鷹まで歩いた。どう書いてもドキュメントの中で浮いてしまうから省いたけれど、F.Tさんと初めて会ったのは2011年3月16日、荻窪の「T」で開かれた飲み会だった。久しぶりで「T」に足を運んでみると、メニューに「白糠直送」の文字があり、聞けばマスターが白糠出身だという。白糠からは距離があるけれど、F君も北海道出身だ。そして、荻窪駅まで電車に揺られながら、『たのしい中央線』というムックに掲載された高田渡のインタビューを読み返していた。たしかこのムックが出るころに高田渡は亡くなったはずで、高田渡が倒れたのは白糠だ。そして、今回の原稿に何度か引いた井伏鱒二荻窪風土記』は、荻窪の書店「Title」が開店した日に買ったものだ。こういう個人的な思い出はいくつも詰まっているけれど、それは書かずにおいた。

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