1月2日

 6時過ぎに目を覚ます。小腹が減ったので蕎麦を茹で、平らげる。昨日は放送を観終える前に眠ってしまったので、ルイボスティーを啜りながら『ドリーム東西ネタ合戦』をところどころ見返す。9時に知人を起こし、餅を焼く。知人を真似て永谷園のお茶漬けの素を振りかけてお湯を注いでみると、えらくうまかった。ぼくの実家ではお雑煮を作らなかったので、汁に使った餅というのは食べた記憶が薄いけれど、こんなにうまかったのかと驚く。ぼくが小さい頃は、元日には台所の火も使わなかったし、洗濯もしなかったし、風呂にも入らないようにと言われていた。火の神様と、水の神様にそれぞれ鏡餅も供えていた。おせちを作っておく(正月には料理をしない)というのも、そういった信仰と結びついていたのだろうけれど、今はもうそんな信仰は消えてしまって、ただおせちだけが残っている。それもいつまで残るだろうか。

 昼はおせちと日本酒(新潟の加茂錦)。ひとしきり飲み食いしたあと、知人の実家から送られてきていたマルタイのカップ麺「長崎ちゃんぽん」を平らげる。ウマイ。録画してあった『ネタパレ元日SP』と、TVerで『オールザッツ漫才』観る。関西圏で年の瀬を過ごしたことがなく、ちゃんと観たことはなかったけど、オールザッツと言えば(お茶の間には受け入れられないかもしれないけれど)コアに面白いことを追求している芸人たちのネタが観られる番組、という印象があったのだけれども……。ぼくが勝手に幻想を抱いていたのか、それとも時代が変わったのか、もしくは一昔前はぼくより年上の芸人さんたちが多く、仰ぎ見ていたから面白そうに見えていたのか。

 14時過ぎ、腹ごなしに散歩に出る。去年のお守りを焚き上げてもらおうと、知人は鞄にお守りを入れているので、鈴が鳴る。根津神社の前には焼き芋売りの軽トラが停まっていて、「芋羊羹のような美味しさです」とスピーカーから繰り返されている。境内はそこそこの人口密度だが、参拝客の行列は入り口近くまで伸びていた。参拝はせずに突っ切って歩き、上野に出て、「吉池」をのぞく。大晦日よりは空いている。美味しそうな刺身盛りがあるけれど、ふたりでは食べ切れなさそうだ。「上野松坂屋」の地下に移動すると、こちらも大晦日よりはずいぶん歩きやすい。ここは大晦日には刺身は柵でしか売っていなかったけれど、今日は刺身の盛り合わせも並んでいる。でも、やっぱりふたりでは食べきれなさそうだ。最初は(実家で正月に決まって食べていた)ブリの刺身を買うつもりだったけど、東京で年末年始を過ごしているのに実家で食べていたものばかり選ぶ必要もないだろうと、まぐろのぶつ切りを選んだ。お昼に飲んだ加茂錦はかなり甘口で、知人が辛口の酒が欲しいというので、酒売り場で北雪も買っておく。他に何か欲しいものはと知人に尋ねると、ケーキが欲しいというので、お菓子売り場も歩く。「ヴィタメール」でショートケーキを2個買って、バスに乗り込んだ。知人と東京で年末年始を過ごすのは初めてだから、少し浮かれているのか、年末年始になかなか散財してしまっている。年を重ねるうちに落ち着いて、余計な買い物もしなくなっていくのだろう。

 バスで千駄木まで帰ってきて、念のためにとシャワーを浴びたのち、録画してあった『マツコ・デラックスが紐解く日本のモテ現代史』と『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を観る。後者はKKK新ブラックパンサー党に会いに行き、そこの人たちがどんな食事をしているのか撮影する。過去の放送では取材する土地の深いところまで分け入り、そこに暮らしている「人」の存在に焦点を当てようとしていたのに、今回はコーディネーターに案内されるまま人と会って、わざと馬鹿のふりをして質問を投げかけ、食事のシーンを撮影している。ディレクターが過去と違っているせいかもしれないけれど、同じタイトルの番組とは思えなかった。それに、KKK新ブラックパンサー党を両論併記のように扱って、「KKKに加入する人たちにも背景がある」という描きかたをしてよいのだろうか。

 18時には「扇」のおせちオードブルと「美濃吉」のお煮しめ重をテーブルに並べ、日本酒(佐渡の北雪)で晩酌を始める。『笑うラストフレーズ!』という番組、オードリーと若手芸人による番組だと聞いて楽しみにしていたけれど、「夏目漱石はI love you.を『月が綺麗ですね』と訳しました、これの新しい翻訳を考えてください」という大喜利から番組が始まってなんだかがっくりくる。夏目漱石がI love you.を「月が綺麗ですね」というのは単なる俗説だ――ということもすでに広く知られているだろうに、どうしてこんなことを放送してしまうのだろう。画面を眺めていると、アナウンサーが添え物のように配置されていることにも腹立たしくなってしまう(『ゴッドタン』でも、まだほとんどテレビに出たことがない女性タレントの消費ぶりが最近はどうしても引っかかる)。テレビを観て文句ばかり言う人になってしまっている。おせちをすべてさらって、22時半には布団に入った。