1月13日

 7時過ぎに目を覚ます。枕元から少し離れたところに、チョコモナカジャンボの袋が落ちている。酔っ払って甘いものが食べたくなって、買って帰ったのだろう。布団にモナカのかすが落ちないように、枕元から少し離れて食べたのだと思う。その近くに、大きなサイズの手指の消毒液も置かれている。普段なら電車に乗って遠出するとシャワーを浴びるところだけど、酔っ払ってシャワーを浴びるのが面倒になり、顔やら頭やら耳やらに塗りたくったのだと思う。8時半になってようやく布団から這い出して、掃除機をかけてコーヒーを淹れ、書評を書く。昼、中村屋レトルトカレー(スパイシーチキン)を平げ、引き続き書評を書く。14時にようやく完成して、メールで送信。

 これでようやく締切の差し迫った原稿はなくなったので、晴れやかな気持ち。アパートを出て、「往来堂書店」に出かける。講談社文芸文庫に入った坪内さんの『慶応三年生まれ七人の旋毛曲り』と、朝日文庫に入った『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』を買う。前者は実家の本棚を探せば単行本が出てくるはずだけど、森山裕之さんによる解説と佐久間文子さんによる年譜が掲載されていることもあり、購入する。近所の八百屋で買い物して帰途につき(長ネギが2本で250円と驚きの値段)、さっそく森山さんの解説を読んだ。

 今から1年前、大阪にいたことを思い出す。お昼は平民金子さんと柴崎友香さんのトークイベントがあり、それを聴いたあとで夜は大阪ロフトプラスワンで開催されるトークにハシゴした。赤ワインをデキャンタで注文し、トークが始まるのを待っていたところに、森山さんから電話があった。めずらしいなと思ってその場で出ると、坪内さんが亡くなったらしい、と森山さんは言った。トークを聞いていられる気分ではなく、どうしてデキャンタにしたかなあと思いながら、赤ワインを飲んで、途中の休憩時間のところで会場を出た。あれからもう1年か。

 坪内さんのどの本を読み返そうかと迷いに迷って、『考える人』をじっくり読んだ。一度読んだことがあるとはいえ、すらすらと読めるタイプの本ではなく、小林秀雄田中小実昌中野重治武田百合子の章を熟読する。坪内さんも含めて、活字のなかで考えているという感じがする。ぼくはまだその境地に達していなくて、考えたり思い浮かんだりしたことを文字に置き換え、原稿に押し込んでいるという感じだ。取材記事が多いという違いがあるとはいえ、ボルダリングのような感覚で原稿を練ることが多い。言及したい要素や印象的な言葉を抜き出して、どの順序で触れていけばいちばんいい原稿になるだろうかと推敲している。

 18時になると缶ビールを開け、もやし炒めとこんにゃくの麺つゆ炒めをツマミに知人と晩酌を始める。『ロンドンハーツ』は「芸人未来予想図」という企画だ。どうすれば自分が目指す場所に辿り着けるか、そしてこれからの時代にどんな未来を描きうるのか、普段から考えている人と考えていない人の差が如実に出ている。「10年後には大阪に戻ってNGKの舞台に立ちたい」と語るミキの思いや、北海道のローカルタレントにと語るとにかく明るい安村の堅実さ(と世知辛さ)。世の中の問題に若者の関心が向くように橋渡しできる存在になりたいと語るぺこぱの理想が印象的なぶん、「テレビでレギュラーを持ちたい」とボンヤリした未来像を語るコンビがどうしても見劣る。10年後を考えたときに「テレビでレギュラーを」と語っているだけでは、生き残ることは難しいのではないかと思う――そんなことを知人を相手にぶつくさ言っているうちに、その言葉が自分に降りかかってくる。