8月4日

 昨日の日記に書きそびれていたこと。昨晩は酒を飲みながらサッカーの試合をぼんやり眺めていた。日本代表が久しぶりに相手陣地に攻め込んだとき、実況が「思いをつなぐ相馬!」と言っていて、ぎょっとする。いつからスポーツはこんなふうに語られるようになったのだろう。そりゃあ何かしらの思いはあるだろうけれど、放送局の人間が過剰に「思い」を読み込んでしまうことの危険性をどう思っているのだろう(と、書いていて思ったけれど、実況者はプレーに「思い」を読み込んでいるわけではなく、ほとんど慣用句のように口にしているだけなんだろう)。

6時過ぎに目を覚まし、誤魔化し程度にストレッチをして、『G』誌の原稿を考える。コーヒーを飲み過ぎているせいか昨日はめずらしく頭痛に苦しめられたので、今日は炭酸水を飲みながら考える。11時55分にヨドバシカメラから荷物が届く。チャイムが押されることはなく、ポスト投函だった。少し前までは頼んだ日のうちに荷物が届き、どうなってるんだろうかこれはと不思議に思っていたけれど、7月下旬からは到着までに2日かかるようになった。これもオリンピックの影響があるんだろうか。7月下旬に注文したときはヨドバシからではなく、佐川急便による配達だった。

 今日も料理をする余裕はなく、昼はセブンイレブンで鶏めし幕の内弁当を買ってきて平らげる。琉球新報のLINEニュースで速報が流れ、「沖縄、約600人感染」に衝撃を受ける。東京に置き換えると、大体10倍した数字になる。その多さもさることながら、どうしてこのタイミングでと思ってしまう。今から2週間前の7月20日は、台風6号が接近して大荒れとなり、そこから1週間近く荒天が続いていたはずなのに。14時半に部屋を出て、図書館で(宮内にある別の図書館から取り寄せていた)資料を借り、カウンター近くの紫外線による除菌マシーンで本の除菌をする。これを使うのにも勇気が要る。貸し出したばかりの本を除菌されると、カウンターで働く人たちは良い気がしないだろうなと思いはするけれど、「まあでも、わざわざ予算を割いて除菌マシーンを設置しているのだから」と、利用するようにしている。借りたばかりの本を読みながら千駄木駅まで歩く。本当は千駄木→西日暮里→秋葉原と移動するつもりだったのに、読書しながら歩いていたせいで反対方向の地下鉄に乗ってしまう。

 新御茶ノ水駅で千代田線を降りて、秋葉原まで歩く。ゲームセンターの店頭にある、何と言えばいいのか、スノードームの巨大盤のような入れ物の中で、スピードくじみたいなやつが大量に回転しているアレの前で、外国の言葉をしゃべる人たちが物珍しそうにカメラを構えている。PCR検査センターにはこれまでで一番長い列が――といっても8人程度ではあるけれど――できている。ぼくの後ろに並ぼうとした人が、ウレタンマスクを少しずらした状態で係員に話しかけながら接近してくるので、おいおいと不安になり、「すいません、距離とってもらっていいですか」と告げる。相手は「あ、すいません」と言っていたけれど、よほど腹にすえかねたのか、それからずっと5メートルぐらい間隔を空けて並んでいて、係員から「詰めて並んでください」と言われるたび、「前の人に近づくなって言われたんで」とふてくされたように言っていた。このPCR検査センターはもう何ヶ月か通っているけれど、採取キットがまた少し変わっている。ここ最近はストローで唾液をはき出す仕組みだったのが、今日は「このマウスピースを使って、試験管に唾液を入れてください」と、じょうごのようなキットを渡される。企画を統一するよりも、とにかくそのタイミングで入手できるキットを手配しているのだろう。

 検査を終えると、岩本町駅まで歩く。途中で横断歩道を渡っていると、ぼくが横断歩道を渡り終えるのを待っているワゴン車がいて、何気なく視線を向けるとピンクステッカーを貼っている。おお、オリンピック関係車両ってほんまにおるんやのうと不思議な心地がする。フロントガラスの(こちら側から見て)右上にはアルファベット3文字と、細かい文字が張り出してあった。あのアルファベットはきっと、国名を表していたのだろう。都営新宿線で神保町に出る。すずらん通りの酒場「A」の前を通りかかると、16時から19時まで営業します、1名様か2名様まででお願いしています、と貼り紙がある。さっき秋葉原で昼間から営業している酒場を(そしてそこで飲んでいるサラリーマンを)目にしたときは「ああ、そう」としか思わなかったのに、ここでは「頑張ってください」と思って(そしてそのまま、営業時間前とはいえ、通り過ぎている)のだから、われながら勝手なことばかり思っている。

 「東京堂書店」へ。今日はわりと空いている。棚をじっくり眺めて、3冊と、なんとなく目に留まった図書新聞を買う。「東京堂書店」を後にして、ちらりと古書会館に立ち寄り、御茶ノ水駅のほうへ坂を上がってゆく。昼に食べた幕の内弁当は、ぼくの感覚からするとかなり控えめなサイズだったこともあり、16時を過ぎたあたりで腹が減ってくる。そこで富士そばが目に飛び込んできたので、冷やしゆず鶏ほうれん草そばをかき込んだ。腹も落ち着いたところで、「成城石井」に立ち寄り、エスニックな惣菜3種を買う。行きの千代田線(上り)はがら空きだったのに、帰りの千代田線(下り)は混んでいる。退勤時刻を早めている会社が増えているのだろうか。上り電車は、この時間帯でもがらがらだった。

 ケータイを触っていると、名古屋市長の品がない振る舞いが流れてくる。選手はよく殴らなかったものだと思うが、唖然として笑うしかなかったのだろう。こういうとき、すぐに自分に置き換えて考えるのは悪い癖だとわかっているけれど(自分の感覚がすべてではないのだから)、もしも自分が何年も積み重ねてきてようやく手に入れた成果を、どこぞの品のないおっさんに齧られたら、殴りはしないにしても「ふざけんなよ馬鹿が」と反射的に舌打ちすると思う。そもそもなぜ選手が政治家を表敬訪問させられているのだろう。「会いたかったらお前がこいよ」ぐらい、言ってもいいんじゃないかと思う。こられても迷惑か。17時には帰宅して、シャワーを浴びてハンドソープで頭と顔と首を洗って、原稿を書く。18時からはビールを飲みながら書いた。今日は書き始めということもあってあまり捗らず、3500字ほどで終わる。このあとの日程を考えるとなかなか危うい進行だ。病院帰りの知人はしばらく酒が飲めないというので、ひとりで泡盛の水割りを飲みながら、原稿のことをぼんやり考える。