8月8日

 4時過ぎに目を覚ます。5時半に起き出して、ぽつぽつ作業を始める。昨日は7000字近く書いたので、ちょっと文章としてゆるいところがあり、そこを推敲する。気づけば男子マラソンが始まっている。創成川にかかる橋に、犬を抱えた観客が並んでいる。8時過ぎにトーストを焼き、ゆで玉子を茹でて朝食にする。久しぶりに焼いたせいか、だいぶ焦げてしまったけれど、焦げがおいしかった。読売新聞朝刊を取ってきて、ばさばさ読む。一面には「小田急切りつけ『逃げ場ない電車狙った 容疑者供述 無差別襲撃か」、社会面には「小田急切りつけ『幸せな女性殺したい』容疑者、当日万引きも」の見出しが出ている。ネットでは「無差別」に対する疑問が一日のうちに洗い出されつつあるのに、ここでは犯人の言葉を大きな声で世の中に届けてあげるばかりだ。

 今日の読書面は特別編成で、読書委員が「夏の一冊」を挙げている。ぼくは『宮武外骨伝』を選んだ。先日、五反田で久しぶりに月の輪さんとお話ししているなかで外骨忌のことを思い出し、今の時代に宮武外骨が生きていたらと考えていたところに、今年は健やかになる一冊というテーマで「夏の一冊」をという話が届いたので、今、ほとんどすべてのメディアがオリンピック一色に(批判的にではなく、日本人選手の誰がメダルをとったかという話だけに)覆われている状況を鑑みても、ここは宮武外骨だろうと決めた。文庫本の『予は危険人物なり 宮武外骨自叙伝』か『面白半分』か『明治奇聞』をと思ったら、どれも品切れになっていて、そうか、今は入手できないのかと諦めて、『宮武外骨伝』を選んだ。もしかしたら「もう少し違う本を」と言われるかもしれないなと思ったけれど、そんなこともなく掲載に至った。

 雨が降り始めているけれど、11時過ぎに団子坂を下り、スーパーまで買い物に出る。店内はガラガラだ。ホールトマトの缶と、鯖缶2個、晩に向けてタコの刺身とスイカ(4分の1カット)も買っておく。最近はスーパーに入るたびに桃の良い匂いがする。桃は好物で、ああ、桃が食べたいと思うのだけれども、桃を食べると喉の奥が痒くなってしまう。せめて夏らしいフルーツを食べようと、スイカを選んだ。

昼、知人に鯖缶とトマト缶のパスタを作ってもらって平らげる。ビールも飲んでしまって、知人はそのまま昼寝に突入していたけれど、どうにか持ちこたえて原稿を書く。昨日書き過ぎたせいか、あまり進まず。夜はタコの刺身とゴーヤチャンプルをツマミに晩酌。テレビで閉会式を眺める。選手の中にはマスクを外して楽しそうに踊る人の姿もある。何を見せられているのだろう。頻繁に検査を行っていて、感染している可能性は低いとしても、今この状況でこんな映像が流れているのは一体何なんだろうか。選手たちも、その振る舞いがどう受け止められるのかと想像しないのだろうか。パフォーマンスも退屈だった。どれも酷かったけど、最後の大竹しのぶのあたりは愕然とした。こどもたちと一緒に、特に理由がわからない笑顔を浮かべる大竹しのぶ。ああいう巨大な式典に、無機質な笑顔を配置されるとぞっとする。