9月25日

 8時過ぎに目を覚ます。ああ、もう『サンデーモーニング』が始まっている。この5ヶ月、ずっと同行していた演劇作品『c』は、一昨日で千穐楽を迎えた。その夜は打ち上げがあって、一泊したのち、10時に宿舎をチェックアウトして、皆と一緒に貸切バスで新千歳空港まで移動した。空港に到着したのは13時過ぎ。そこから最後のインタビューをばたばたと収録して、皆が搭乗した飛行機を見送ったのが15時近く。当初は皆と同じ時間帯の飛行機を予約してあったのだけれども、同時間帯で成田行きの飛行機を探すと、皆の便より少し早いフライトになってしまう。最後は皆を見送って旅を終えたいと思っていたこともあって、もう少し遅い時間帯の成田行きはと検索すると、19時20分発のものにしか振り返られなくて、その時間まで新千歳で立ち食い寿司を食ったり、空港内の大浴場で汗を流したりして、自宅にたどり着いたのは22時過ぎだった。

 散髪に出かける知人を見送り、荷解きを始める。洗濯機をまわして、荷物を棚に戻す。荷解きのついでに、部屋の大掃除にも取り掛かる。トイレを掃除して、洗面台をきれいにして、あちこちに掃除機をかける。正午を過ぎたあたりで知人が帰ってきたので、昼飯はどうするつもりかと尋ねると、「どうするも何も、選択肢はないやろ」と悲しそうな顔をする。そうだ、日曜日の昼はいつも知人がつくるトマト缶とサバ缶のパスタを食べていたんだった。久しぶりに作ってもらって、ビールを2本飲んだ。

 午後も引き続き掃除をして、15時からは競馬中継でパドックを見て、神戸新聞杯とオルカマーの馬券を買う。この半年、ある時期から、何人かと競馬の話をするのが楽しみとなっていた。ひとりに戻った今でも、馬券を買っている。いつかまた、誰かと競馬の話をする機会はあるのだろうか。僕が最初に競馬を観るようになったきっかけは、マキバオーダビスタの影響だったけれど、同級生のY君が好きな馬と語っていたのはライスシャワーだった。その時代を振り返って思い出される馬は何頭かいるけれど、強く印象に残っているのはマヤノトップガン田原成貴だ。一緒に旅をしていたUさんもまた、競馬に興味を持つきっかけとなった馬として摩耶のトップガンを挙げていた。

 レースを見届ける。今週も馬券は外れた。昼寝していた知人を起こして、根津まで歩き、バー「H」へ。先客は二組、いずれもひとり客だ。これまでは入店と同時にアルコールスプレーを差し出されていたけれど、今日はもう差し出されなかった。泡タイプのスプレー。あのタイプの消毒はここでしか体験したことがなかったので、少し寂しくもある。ハイボールを2杯飲んで、「海上海」で中華を数品テイクアウトし、帰途につく。帰宅後は『初恋の悪魔』の録画を観ながら、余市で買ったワインを飲んだ。

 余市で一泊した夜は、酒場に出かけた。ツアーに同行していることもあって、他のお客さんが引ける頃を狙ってお店に出かけたい。事前に営業時間を確認しておこうと電話をかけてみると、「日曜日の夜だと、お客さんが途切れた時点で閉めちゃうこともあるので、もしいらっしゃるのであれば時間を指定していただければ」とのことだったので、20時に伺いますと伝えて、その時間にお店に向かった。入店してみると、もう他にお客さんはいなくて、店主の方は仕込みの作業をしているところだった。もうちょっと早い時間にくればよかったなと申し訳ない気持ちになりながらも、カウンターに座った。

 そこは余市の食材と酒を提供してくれるお店で、店名にも「ヨイチ」という言葉が入っていた。お店の看板メニューであるハンバーグとソーセージを注文して、それと一緒に、余市のワインが飲んでみたいとリクエストする。最初に出してもらったワインから美味く、すいすい飲んでしまったところ、お酒が好きだと認識してもらえたのか、せっかくなら色々飲んでみますかと提案してくださった。そこで出してくれたワインというのが、同じ畑で育った葡萄をもとに、3人の醸造家が作ったオレンジワインだった。それが三者三様、まるで違うワインに仕上がっていて、同じ葡萄でも、どこをどう引き伸ばすかでこんなにも味が違うのかと感動した(ちなみに、その葡萄をつくっているのは、その店主の方だった)。そこで飲ませてもらったワインのひとつは平川ワイナリーという醸造所のものだった。飲んだ翌日、地元の酒屋に行ってみると、平川ワイナリーのワインがずらりと並んでいた。せっかくだから知人にも飲ませたいと、4500円のものを買って、お土産に持ち帰った。そのワインを開けて、知人と乾杯する。たしかにそのワインも美味しかったのだけれども、せっかくなら知人と一緒に、あの三者三様のワインを飲みたかったなと贅沢なことを考えてしまう。