1月13日

 6時半に目を覚ます。いちどキッチンに行き、エアコンをつける。うちはダイニングキッチン、風呂と洗面所、居間という配置になっていて、ダイニングキッチンと居間にエアコンがある。冬は風呂場が冷えるので、朝は両方のエアコンをつけている。そこからまた布団に潜り込んで、ぽちぽちケータイをいじったり、テレビを眺めたり。この時間をどうにか縮めたいけれど、8時過ぎまでそんなふうに過ごしてしまう。どうにか這い出して、コーヒーを淹れて、たまごかけごはんを平らげる。髪が少し伸びてきているので――というよりも、最近はバリカンのパワーが弱くなってきて、ちょっと髪が伸びるとうまく刈れなくなっていたいので――頭を3ミリに丸めておく。

 今日は神戸に行きたかったけれど、遠出できるほど仕事が捗らなかった。午前中は少しだけテープ起こしを進める。昼、近くの八百屋へ。注文を聞きにきた出入りの業者に、「あんた、年末休んだんだって?」と店員が声をかけている。「そうなんです、ちょっと熱出ちゃって」と業者。「あんたねえ、年末の忙しい時期に熱出たぐらいで休むなんて言い出したら、うちだったらクビだよ、クビ!」と店員。「いや、あの、9度5分出ちゃったんで、さすがに車を運転するわけにいかなかったんですよ」と業者は笑っていたが、この店を利用したいという気持ちが薄くなる。

 昼はラ王の袋麺。午後は頑張ってテープ起こしを進める。股の間、痔瘻がある場所にはずっとガーゼを挟んでいる。こないだまでは膿が出ていたけれど、火曜日に切開されてからは、血と、膿とはまた何か違う感じにものが滲んでいる。切開された翌日に診察されているとはいえ、経過は順調なのか、不安になる。次に病院に行くのは、手術前の内視鏡検査の日だ。もしもそのタイミングになって「経過が芳しくないから、今の状態では手術はできない」と言われたらどうしよう、と不安になる。正確に言うと、「前回の切開は不十分だったので、もういちど切開します」と言われて、あの痛みにふたたび耐えることになったらどうしよう。

 18時過ぎ、通販で注文したアルミ鍋が届く。ひとりで鍋をするのに、おとといまでは片手鍋を使っていた。ただ、その鍋は内側になんちゃら加工が施されていて、色は黒だ。それだとどうにも食欲がわかないのと、ちょうど岡崎さんがブログでアルミ鍋の話を書いているのを読んだこともあって、すぐにアルミ鍋を注文していたのだ。さっそくそのアルミ鍋で、鍋を作る。こないだと同じく、白菜と、えのきと、しいたけと、豆腐と、ちょっとの豚肉と。20時過ぎから晩酌。食べながら『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』を観る。ビールは1本だけにして、黒霧島のお湯割りを飲んだ。6話と7話を観たところで、小一時間ほどテープ起こしをする。

 22時半に家を出て、根津のバー「H」へ。ここ3年は営業が始まる時間に訪れることが多かった。例外的に遅い時間帯に立ち寄るとすれば、読書委員会の帰り道くらいだった。2020年から2021年にかけては、23時近くだと他にお客さんはいなかった。今日は二人連れが2組、ひとりの客が1組いる。カウンターにはアクリルのパーテーションがあって、2席ごとに区切ってある(これは開店直後の時間帯でも同じ)。カウンターにコースターが2つ、すでに並べてある。そこに座ると、Hさんがコースターを1個下げる。この時間帯に訪れるお客さんは二人組のほうが多いのだろう。すぐにハイボールが出てくる。今日は坪内さんの命日だ。3年前の今日は、梅田の蔦屋書店でトークイベントを聞き、夜に別のトークにハシゴしようとしたところでM山さんから電話があり、訃報に触れた。その翌日は『ごろごろ、神戸。』を片手に新開地を歩き、その途中で『群像』のSさんから電話があって、追悼文の依頼を受けた。その日の空気を思い出す。やっぱり今日、神戸に行けばよかったなと思う。

 命日だからという理由でハイボールを飲みにきたわけではないのだけれど(それに、坪内さんが亡くなったのは13日の未明だから、正確には昨日の晩だ)、『S!』の連載が終わることはこの店で坪内さん(と編集のMさん)から告げられたなと思い出す。その席は、まさにいま自分が座っている日だ。早い時間と、深い時間と。やっぱり空気は違っている。隣の二人組は、いかにも大人という感じで静かに飲んでいる。それは早い時間でも共通するところなのだけれども、この時間だと皆お酒がそれなりにまわっているから、ほどけた感じの空気が流れている。隣のお客さんが、「そういえば、こないだ教えてもらったドラマ、U-NEXTで観ましたよ」とHさんに伝えている。「ああ、岸辺露伴ですか」とHさんが返し、なんだかちょっと意外な感じがする。世代も近いから、「意外」もなにもないのだけれど、バー「H」を訪れても、普段Hさんと趣味に関する話をすることはないし、まったく言葉も交わさず帰る日がほとんどだ。今日も特に口を開かず、ハイボールを2杯飲んで帰途につく。