4月9日

 朝から『c』のドキュメントを書く。昼は知人の作るサバ缶とトマト缶のパスタ。ビール1本だけ。15時からは競馬中継。15時過ぎの段階で、リバティアイランドは1.8倍と圧倒的な1番人気だ。ただ、昨日今日と前残りのレースが多い上に、枠順的にも最後の直線で大外にまわさなければならなそうなこともあり、1着は別の馬になるはずだと予想を立てた。直線に向いた段階ではほぼ最後方にいたはずのリバティアイランドは、一気に差し切って優勝して、「いや、強すぎるわ」と思わずテレビの前で声をあげてしまう。

 本当であれば、今日は確定申告をやってもらったお礼に知人に高級な天ぷらをご馳走する予定だったのだけれども、行くつもりだったお店がかなり高級なお店だったこと、よくよく考えれば普段から家事は僕が担っていることが多いのだから確定申告ぐらい代行してくれてもいいのではないかという気持ちになったことなどあり、高級な天ぷらはとりやめることになった。ただ、せっかくだから久しぶりに外食がしたいと知人が言うので、そうだ、あそこにと思い立ち、夕方になって知人と一緒に西荻窪に向かった。

 まずは「盛林堂書房」に立ち寄り、何冊か本を買って、ご無沙汰してますとご挨拶。いつもTwitterを見て、「ああ、いろんなとこに行ってるな」と思ってますよとOさんが言う。「もしまた古本屋を取材することがあれば、僕に協力できることがあればお手伝いしますので」と言ってくださる。お店を出て、南口にある「戎」へ。「盛林堂書房」の取材をしていた3日間、毎日ここで飲んでいた。

「ああ、そうだ」と思い出したのは、しばらく前に、SNSの投稿を目にしたからだ。マスク着用は「個人の判断」という政府の発表があったころに、ここのお店は「これからも、来店する際にはマスクの着用をお願いします」とツイートされていた。マスクをせずに来店された場合、入店をお断りします、と。コロナがなくなったわけではないのだから、そこに対する配慮を残しているお店のことは応援したいと、その投稿を見たときから思っていた。

 軒先のテーブル先に案内され、まずは筍刺しと、旬の刺身を注文し、瓶ビールで乾杯する。2本目のビールを注文しようとしたとき、ある店員さんが「この瓶、引っ掛けて倒しちゃうと危ないから、こっち(店員さんが行き交う通路とは反対側)においてもらえますか」と言う。「あの、これもう空き瓶で、おかわりを頼もうと思って――」と知人が言ったものの、「こっちにおいてくださいね」と動かされる。その店員さんが僕の肩にぶつかるようにして通り過ぎていったことも気になったが(通路にはみだすように座っていたわけでもない(、まあ、あまり深く考えないようにした。僕からしたら「ガサツな対応だな」と思わずにはいられないけれど、じゃあ、「そんな人は接客をするべきではない」なんて言う権利が僕にあるわけではないし、そういう人をどこかに追いやってしまうと、社会はよくない方向に向かってしまう。それに、他の店員さんはぶつかることもなく、普通にナイスに接客してくれるので、楽しく飲んだ。

 驚いたのは、マスクを外した状態で来店したお客さんが「2名、入れますか?」とやってきた場合、「あー、すいません、今うちの店マスクのこと厳しくやってまして、来店された時点でマスクをされていないとお断りしてるんです」と、ほんとうにお客さんを断っていたこと。断られているお客さんは1組や2組ではなかった。店内が半分ぐらいの入りだから、売り上げのことを考えれば入店させたいところだろう。それに、そうやって入店を断ることで、軋轢が生じることもあるだろう(お店のアカウントで「来店時にマスクをつけていない場合は」と投稿したツイートには、ションベンをひっかけるようなリプライがいくつもついていた)。それでも「場」をどう守るのかと考えたすえに、そうして入店を断っているのだなと思うと、せめてたくさん飲み食いしようと、あれこれ頼んだ。

 コロナに対する態度に関して、自分は過激派なのはわかっているし、他人に何かを押しつける気はないけれど、なんとなく、「マスクは個人の判断になったとはいえ、まだウイルスが消えたわけではないから、対策は施しておきたい」とマスクをつけて過ごしているお客さんしか店内にいないせいか、ほとんどのお客さんは小声で会話していた。ただ、そんなふうに入店を断り続けるのは、現場で働く店員さんたちの心情を考えても、いつまでも続くものではないのかもしれないなと思う。会計を済ませて駅に向かうと、界隈にある立ち飲み屋にはぎゅうぎゅうにお客さんが入り、大賑わいだった。