4月11日

 目を覚ますと、深夜に編集者のMさんからメールが届いていた。先週の沖縄滞在は、自分から取材に出かけたわけではなく、本のPRで番組に出演するために沖縄に出かけたものだった。宣伝効果がかなり大きそうだし、版元経由で連絡のあった件だということもあり、航空券代だけ経費として処理してもらえないかと相談していた(前著を出した際に、出版直前に最後の取材で沖縄に出かけたとき、取材費として少しお金を融通してもらえた記憶もあったので)。ただ、返答としては「渡航費は支払えない」とのことだった。Mさんのメールはとても申し訳なさそうな内容で、「会社からは払えないけど、せめて半額だけでも自分に負担させてほしい」と言ってくれたけど、それはさすがに申し訳ないので、自分で負担することにする。

 お昼近くになって横手の協会の方から電話があり、「取材の日時はこの時間帯でどうか?」と提案をいただく。協会の方の他に、老舗のお店にも取材依頼を送っていたので、返事を保留させてもらって、取材依頼を送っていたお店に電話をかける。メディアの取材を受けられているようだったので、ここはきっと話を聞かせてもらえるに違いないと思っていたのだけれども、「結構もう、テレビや本でも取材してもらってるんで……」と、乗り気ではない言葉が返ってくる。もちろん、メディアに露出することでお店が忙しくなり、常連の方が入れなくなる――なんてことも過去にあったのだろうから、取材を無理強いすることはもちろんできないのだけれども、どうしても聞いておきたかったのは、その「グルメ」を考案された方――そのお店を創業された方の話だ。生前の創業者の方をご存知であるはずなので、お店の名前は出さないとしても、その方のお話だけでも聞かせていただけないかとお願いしてみたものの、「これまで取材で話したものがあるので、それをもとに書いてもらっていいですから」と、断られてしまう。運気がどうとか、信じているわけでもないのだけれど、今日は朝から運気が下がっている気がする。

 ただ、編集者のMさんからのメールには、嬉しい知らせも綴られていた。それは、今夜日付が変わるころに放送されるバラエティ番組で二度目の古本屋特集が組まれることになり、僕の『東京の古本屋』を「番組内で紹介させていただく可能性があるのですが、テロップの内容は以下で間違いないでしょうか?」と問い合わせがあったというのだ。その番組では、3月中旬に古本屋特集が放送されたばかりだ(その番組は毎週録画予約をして身ている)。そのときは、吉祥寺と、早稲田と、経堂の古本屋さんが登場し、それぞれ数冊ずつおすすめの本を用意してスタジオに登場し、その中から出演者のふたりが手に取った本を軸にトークをする、という内容だった。

 そのときの傾向からして、写真集や作品集などの美術書であるとか、あるいはいかにも古めかしい本が手に取られる傾向にあった。だから、僕の本が手に取られる可能性はそんなに高くないような気がする。それに、過度に期待してしまうと、紹介されなかったときの落胆も激しくなってしまうから、あまり期待しすぎないようにしなければと、自分に言い聞かせる。ふと、タイムラインを眺めると、ビビビさんが「『東京の古本屋』をようやく読んだ」と書かれていた。他の古本屋さんの働きぶりを読んでしまうと、自分が怠けていることを直視することになりそうで、今まで読めずにいた――と。お、これは、もしかして、と直感する。第二弾を放送するなら、きっと前回とは違うお店が選ばれるのではないかと思う。そのうちの一軒がビビビさんなのでは、と。

 ほどなくしてリプライに返事があったのち、実は、とダイレクトメッセージが届く。そのメッセージに、率直な気持ちを返信する。実は『水納島再訪』と『そして市場は続く』は、ラジオ宛に献本をお送りしていて、その理由というのは、昔からラジオを聴いていることもあるし、ZAZRNBOYSが好きだとラジオで発言していたことがあって勝手に親近感を覚えている上に、最近の番組では「沖縄によく出かけている」と話していたこともあって、その2冊は献本してあって、『東京の古本屋』に関しても、たとえば先日、渋谷のジュンクが閉店する日にお店に出かけた話もされていて、本屋という場所に思い入れがある人だというのは知っているので、番組で紹介されるかどうかはともかく、MCのWさんに、これをきっかけに読んでもらえたら嬉しい――と。

 いつものように18時や19時から飲み始めてしまうと、番組が始まる前に眠ってしまうので、20時近くまで仕事をしてから晩酌をする。知人の作る麻婆豆腐をツマミながら、WOWOWのドラマ『フェンス』を観る。しっかり作られてあるドラマだが、あまりにも沖縄の文脈が見事に配置されている、という感じがする。ビールを3本飲んだあとは、白ワインをロックで飲んで、どうにか日付が変わるごろまで粘る。そうして番組の放送開始時刻を迎えたものの、しばらく経ったところでうたた寝してしまい、「ちょっと!」と興奮気味に語る知人の声で目を覚ます。ちょうどスタジオにビビビさんが登場したところで、はじっこに『東京の古本屋』が置かれている。どうかなあ、手に取ってもらえるかなあとそわそわしていたら、「どれかおすすめの本はありますか?」と振られたビビビさんが、まっさきに『東京の古本屋』を手に取ってくださって、感動する。「古書ビビビ」は、前の場所に店舗があった時代に、初めて「展示」というものをさせてもらったお店だ。『HB』を扱ってくださっていて、最後の『HB』を出したときにはお店でミニ写真展も開催させてもらったのだ。

 そんなことを思い出しながら画面を見つめていると、「店主の話だけでなくて、そのときの街とか、東京の空気までも一緒に記録してあるので、読んでるとあの頃の空気が思い出されて、本当に良いルポです」と、馬場さんがおすすめしてくれている。そこに又吉さんも加わり、「橋本さんは一日で行って、話聞いて終わりじゃなくて、ちゃんと関係性作ってからやるっていう、取材の仕方が素晴らしいです」と言葉を添えてくださる。嬉しいなあと思いながら、そのあとに続けて紹介される本の話に耳を傾けていると、高田文夫さんのところで「ラジオ」というキーワードが出たところで、「あ、そうだ」とビビビさんがふたたび『東京の古本屋』を手に取り、「そういえば、僕のインタビューで、オードリーのラジオを聴いてるって書いてるんです」と、MCのWさんに本を手渡す。ビビビさんが開店準備をしながらラジオを聴いている話の箇所を、Wさんが笑いながら読み上げている。自分の本がテレビ画面の中で読み上げられるだなんて、夢みたいな一日だなと思いながら眠りについた。