12月3日

 11時、待ち合わせ場所の江戸川橋に行ってみると、聡子さんとゆりりが無心で『ハンター×ハンター』を読んでいた。そっと横に立って、あとの皆がやってくるのを待つ。ほどなくしていづみさんもやってくる。藤田さんを待つあいだ、どのキャラクターが好きなのかと訊ねられる。「1位がキルアってのは聞いたけど、2位は誰なん?」と。5分ほど悩んで、キルアのじいちゃんと答えた。いづみさんにも「誰が好きなんですか」と訊ねると、ピトーだと返ってくる。その答えを聞いてしまうと、訊ねるまでもなかったかもしれないという気がしてくる。ピトーが描かれた或るコマを目にしたとき、僕は『小指の思い出』の処刑台のシーンのことを思い浮かべていた。

 遅れてやってきた藤田さんと合流して「新雅」へ。何人かで「新雅」を訪れるのは70日振りだ。そのとき、皆は『小指の思い出』の稽古中だった。今回は来年1月と2月に上演される『カタチノチガウ』にたずさわるメンバーだ。昨日の稽古のとき、藤田さんはニラの効用を説いていたらしかった。ニラにはデトックス効果がある、と。そのせいか、いづみさんはレバニラ定食を、聡子さんはニラそばを注文していたけれど、張本人である藤田さんはなぜかもやしそばを食べていた。僕は今日もニラそばと瓶ビール。

 食事を終えたところで、神楽坂まで歩いた。途中、赤城神社に参拝する。真新しくてモダンな神社だ。「1年間、穏やかに過ごせますように」とお祈りする。チーズ専門店で買い物をしたのち、最近オープンしたばかりだという「la kagu」へ。新潮社の倉庫をリノベーションしたという商業施設で、小洒落た雰囲気に負けそうになる。ここでS社のKさんと落ち合って、皆でお茶をする。僕はヒューガルデンを注文した。こういう小洒落た場所にあるカフェは、大体ビールの量が少ないんだよな――そう思って、1パイントのビールを注文すると、本当に外国のパブみたいに巨大なビールが出てきて驚く。食器や衣服、書籍などいろんなものが売っていて、せっかくだから何か買い物をするつもりでいたけれど、何も買うことができなかった。

 今日は夕方から急な坂スタジオで稽古があるのだという。稽古と言っても、チーズ専門店で購入したワインとチーズを皆で食べて、藤田さんはその様子を眺めて過ごすらしかった。「橋本さんも良かったら一緒に」と言われていたけれど、原稿を書かなければならないから断るつもりでいた。でも、それはチーズを食べてワインを飲む時間でしかないけれど、作品の根となる何かが生まれる時間であるのかもしれない、と思った。『カタチノチガウ』の第1稿は『en-taxi』に掲載されているけれど、食事のシーンが出てくる。そこでは、体のカタチというものがズームアップして切り取られていた。そのことを思うと、そうしてワインとチーズを皆で食べている場所を写真に撮っておきたいと思って、やはり僕も稽古場に顔を出すことにした。

 「la kagu」の前で皆とは別れて帰宅し、原稿を書いて過ごす。そしてパソコンとカメラを持ってアパートを出て、ちょっと奮発して湘南新宿ライングリーン車に乗り、電車の中でも原稿を書いていた。そうして17時40分に急な坂スタジオに到着してみると、飲み始める準備は万全に整えられていた。白ワインで乾杯して、さっそくチーズを食べ始める。皆、『レベルE』や『ハンター×ハンター』を読んで過ごしていた。

 しばらく飲んでいると、自分の誕生日が何曜日か知っているかという話になった。ギクリとする。皆はもう、何曜日かということを調べているらしかった。僕は当然、自分が何曜日に生まれたかなんてことは知らない。調べてもらうのはまずいと思って、鞄の中に入れていたiPhoneを取りに行き、自分で検索してみる。僕の生まれた1982年12月3日は、金曜日だった。別にどうだということもないけれど、僕は金曜日という曜日が好きなので嬉しかった。

 僕は今日が誕生日だということを誰にも知らせるつもりはなかった。妙に気を遣わせても悪いなと思っていたし、お祝いをされたとしても、僕はただもじもじすることしかできないのが目に見えているからだ。僕はただ、そうして一緒にお酒を飲めるだけで幸せだった。さっき、稽古場で一緒に過ごすことにあれこれ理由付けをしたけれど、たぶんきっと、僕は自分の好きな人たちと一緒に過ごしたかっただけなのだろう。

 ただ、あまりのんびり過ごすこともできず、皆と別れて高円寺へ急ぐ。20時に改札前で知人と待ち合わせて、「コクテイル」に出かけた。毎年、「誕生日はどこで過ごすか」という話になるのだけど、落ち着いて過ごせて、おいしいごはんが食べられて、値段のことも気にせず過ごせる店はどこかとなると、毎年「コクテイル」に出かけることになる。今年の「コクテイル」は賑わっていたけれど、なんとか座ることができた。毎年注文している茄子にんにく炒めを注文したあと、牛すじ塩煮込み、鶏とまこも茸の塩炒めなどを食べつつ過ごす。2時間ほど経ったところで会計を済ませて高田馬場に戻り、「コットンクラブ」でポルチーニ茸のリゾットを食べた。美しさ、について話す。