4月17日

 9時まで起きれず。コーヒーを淹れて、たまごかけごはんをかき込んだ。今日は納豆もつけた。窓という窓を開けて換気をする。いつも書かなかったけれど、毎日のようにやっている。今の状況になるまえから、部屋ににおいが籠るのが嫌でよく窓を開けていたけれど、さらに頻度が増えている。掃除道具の中から、ゴム手袋を引っ張り出す。キッチンハイターを水で割り、ふきんにつけ、ドアノブや取手、テーブルを拭く。起きるのが遅かったこともあり、あっという間にお昼だ。メークインを1個だけ皮剥きし、レンジでチンする。ごはんをよそって、隣に温めたじゃがいもをのっけて、レトルトカレーをかける。カレーはいつもごはんにかけず、隣にそえる。

 キッチンにあるテーブルで、原稿を練る。原稿を考えるとき、まずは触れておきたい話題を書き出し、それをどう繋ぐときれいな配置になるかと考える。その上で、原稿の流れを具体的に練りながら、コピー用紙に書いていく。導入部分を書き終えたところで、ツイッターを開くと、沖縄書店大賞が発表されている。『市場界隈』がノミネートされていた沖縄部門は、大賞が『ヤンキーと地元』、準大賞が『沖縄島建築』とある。「4月上旬までに発表」となっていたものの、4月に入ってからもなかなか発表されず、いつになるのかと気にかかりながらも、「連絡がない時点で『市場界隈』が受賞することはないのだろう」と思っていた。それに、ノミネート作が発表されたあと、『市場界隈』の担当編集者にも「きっと大賞は『ヤンキーと地元』で、準大賞が『沖縄島建築』だと思います」と伝えていたので、予想通りではある(そもそも沖縄書店大賞は書店員による投票で大賞が決まるのに、取り次ぎの問題で、『市場界隈』は南部の大型書店でしか扱いがなかった)。だから別に、予想してたことだよ。そう自分に言い聞かせるけれど、取材を続けていることがはじかれたような気持ちになるのは確かだ。まあ、認めてもらったり、褒めてもらったりするために書いているわけと違うから、ええんやけどな。誰に言うでもない言葉が、なぜか妙な言葉遣いで頭をめぐる。

 昨日、RK新報のFさんから電話があり、沖縄で初めての死者が出たこともあり、紙面がしばらく特別編成となるため、連載を一回休みとさせて欲しいと連絡があった。もうすでに電話取材をお願いしていたことと、僕としても自分なりの「特別編成」として、この状況で影響を受けている市場のことを書き記すつもりだったので、しばらくもごもご話していたのだが、もちろん「いや、休載なんて受け入れられません」と言うわけでもなく、了承していた。電話取材させてもらうつもりだったA組合長にメッセージを送り、あらためて別のタイミングで話を聞かせてください、と書き添える。続けて、Fさんとはまた別のRK新報の方から届いていたメールに返信する。舞台『c』に向けて、ウェブで何か書かせてもらえないかと相談し、RK新報S担当のNさんからメールをもらっていた。お昼ごはんを食べたあとに構想を練っていたのはその原稿である。

 なんだか熱っぽく、体温計で測ってみると37.3℃だ。最近はちょくちょく体温を測っていて、平熱が36.8-37.0℃と高めではあるけれど、37.3℃はさすがに微熱と言える。嫌な感じやのうと独り言を言いながら、ソファに寝転がり、毛布をかぶる。寝ながら原稿を考えるつもりで、卓袱台にボールペンとコピー用紙を持ってきたのだが、寝転がると書く気になれず、マリオカートをやったり、ぼんやりしたり。30分おきに熱を測る。熱は上がることなく、37℃あたりをうろうろ。

 『ユリイカ』を読み進める。知り合いの書いた追悼文を読んでいると、「先生のこうした姿勢は、好奇心というような生ぬるい言葉では片付けられない」という言葉が登場する。その、生ぬるいという言葉が妙に引っかかる。それに、この一文は、誰かが「好奇心」という言葉で形容したことを前提としなければ書かれることがないはずのものだ。嫌な感じをおぼえて、僕が『群像』に寄稿した追悼文のゲラをケータイから確認すると、そこにはやはり「好奇心」という言葉があった。追悼文にあてこすりをにじませたその人の筆の汚さはおぼえておく。

 テレビでは『news every.』が始まる。今日も藤井キャスターが「ご協力を」と呼びかけている。ずっとその言葉遣いが気になっている。ニュース番組が国民に協力を呼びかけたことがあっただろうか。18時になると総理大臣による記者会見の中継が始まる。その中に、不思議な言葉が登場する。

 でも、私たちには、もっと、出来ることがあります。それは、目の前の、現実に、立ち向かうだけでなく、未来を変えることです。わたしたち全員が、今、不要不朽の外出を、避けることで、2週間後の新規の感染者数を、劇的に減らすことが出来ます。それは間違いなく、医療現場の、負担を、減らすことに、繋がります。2週間後の、医療現場の、医療現場の、状況を、決めるのは、まさに今なんです。未来は、わたしたちの、今の、行動に、かかっています。医療現場を支えるため、その、負担を、減らしてください。皆様の力で、未来を変えてください。緊急事態に、皆さんのご協力を、お願いいたします。

 この記者会見が行われるまえ、あれは16時台に今日の東京の新規感染者数が報じられたとき、藤井キャスターも「未来を変えてください」と口にしていた気がする。現在というのは、過去から見た未来であり、未来から見た過去である――それは、2015年の『cocoon』で描かれたモチーフでもある。そのモチーフがこのように語られる状況に、半月以上会っていないFさんのことを思う。

 ほとんど何も進められないまま日が暮れて、知人が帰ってくる。明日は大雨だというので、仕事帰りに食材を買ってきてもらった。冷蔵庫が珍しくぎっしりしている。知人にじゃがいもとソーセージの炒め物を作ってもらって、晩酌。ビールが美味しくからだいじょうぶだ。今日もあまり観たい番組がなく、Amazonプライムビデオを開く。昨日は見かけなかった角川映画が増えているような気がするが、それは選ばず、『緋牡丹博徒』を再生する。僕も知人もノレず、途中で止める。今度は『仁義なき戦い 広島死闘篇』を再生し、夢中になって観た。