8月8日

 日記を書くのは翌朝になってからなので、どうしても書き落としてしまうことがある。たとえば木曜日の午前中は浴槽に湯を張り、風呂に入りながら本を読んだ。湯を張ろうと浴室に入ったとき、カビのにおいが少し鼻についたので、ゴム手袋をつけ、あちこちにカビキラーを噴射した。カビキラーを連続して噴射すると握力が削がれてくるので、噴射してはゴム手袋で薄く伸ばす作業を繰り返す。当然換気扇をまわしてあったものの、当然ながら鼻から吸い込んでしまい、その日は夜までくらくらしていた。あとは金曜日のお昼、テレビをつけたまま作業をしていると、『ヒルナンデス!!』でクイズが流れていた。「せーの」で答えるクイズで、「日本人が好きな魚といえば!?」という問題が出る。マグロか鮭だろう――そう思いながら画面を眺めていると、南原清隆はマグロ、久本雅美とSHELLYと河北麻衣子が鮭、そして陣内智則は鯛と答える。なるほど、関西だと鯛になるのかと思いながら、知人に出題してみると、迷わず「サバ」と言う。

 7時過ぎに目を覚まし、米を研ぐ。しばらく水に浸しておこうと、テレビを眺めているうちに炊飯のことを忘れてしまう。9時になってそれに気づき、急速モードで炊飯。今日はあまり日が射し込んでこなかった。テレビから「来週が暑さのピーク」と流れてくると、「今年の夏は短かったのう」と知人がつぶやく。朝はたまごかけごはん。お昼前にチャイムが鳴り、郵便が届く。郵便受けに入らないと言われたそうで、玄関前に置いてもらって、しばらく経って知人が受け取りにゆく。「ちょっと!」と言いながら帰ってくる。知人が抱える郵便物は、肩のあたりの高さにまで積み上がっている。一昨日注文した本が一気に届いたらしかった。ひとつひとつ開封し、少しだけめくり、本棚に並べておく。メルカリで通販した2019年4月9日の毎日新聞(大阪版)も届いていたので、付箋の貼られた面に目を通す。そこは地域面(兵庫)で、「兵庫に暮らす」という記事が掲載されている。「4年前に移住 写真家・文筆家 平民金子さん」という見出しが大きく出ている。

 昼は知人に「サッポロ一番みそラーメン旨辛」を買ってきてもらう。しばらく前から近所の八百屋に並んでいて、気になっていた新商品である。昨日の夜、『沸騰ワード10』というゴールデンの番組を何気なく眺めていると、堀田茜が味噌ラーメンの店で修行する映像が再放送されていた。彼女はいかにもモデル出身でテレビに出ている人という印象だったのだが、先週の『沸騰ワード10』でも、彼女がラーメン屋巡りをする企画が再放送されていた。名店とされるラーメン屋を訪ね、そのラーメンが醤油か味噌か塩か豚骨かを当てるという企画だ。いつのまにかラーメン好きであるが味音痴というキャラクターになっていたようだ。昨日流れていたのは、彼女が味噌ラーメンの店で修行する姿で、味噌を焦がして香りを立てる作業を何時間も繰り返していた。その様子を眺めているうちに、八百屋に並んでいた「サッポロ一番みそラーメン旨辛」が無性に食べたくなり、知人に作ってもらう。具材はひき肉とにんにくとネギとモヤシ。思ったほど辛くなく、「次はもっと辛く作る」と、辛いものが好きな知人はどこか悔しそうですらある。

 食事を終えて一休みしたところで、知人と一緒に出かける。明日の日曜日に散歩に出かけるつもりだったけれど、今日のほうが陽射しが柔らかそうだったので、今日出かけることにした。千代田線と都営新宿線を乗り継ぎ、馬喰横山に出る。地下鉄は日曜日と思えないほど静かだ。企画「R」で歩きそびれた場所をと、柳橋、隅田花火資料館、回向院と歩く。回向院には無数の慰霊碑――創建の由来となる明暦の大火の追悼碑から、海難事故の慰霊碑や震災の慰霊碑、小鳥や犬や猫の慰霊碑、鼠小僧の墓と幅広い慰霊碑――が並んでいて、知人がテーマパークみたいと言う。ペットのための卒塔婆もずらりと並んでいて、そこには生前の写真が貼られたものもある。横網町公園に移動し、朝鮮人犠牲者追悼碑を眺めたあと、資料館を見学する。見学を終えて、近くのローソンで缶ビールを買って、隅田川沿いを歩きながら飲んだ。アサヒビールの建物が見えてくると、仕事で大変だった記憶が甦るのか、知人の顔がどこか暗くなる。いろんな公演の会場として使われていたアサヒアートスクエアは、もうスペースが閉じられてしまったようだ。文化事業にお金を出そうとする企業はどんどん減ってしまうのだろう。隅田川の向こう岸から、アンプに繋いでギターを弾く音が聴こえてくる。

 言問橋を渡り、浅草をそぞろ歩く。どこかでレンタルしたのだろうか、浴衣姿で歩く男女の姿もある。知人が「せっかくだからどこかで飲んで帰りたい」というので、ホッピー通りに出てみると、大勢の人が行き交っている。通りに入るのは躊躇われ、少し先にある「水口食堂」をのぞく。2階にある、階段を上がってすぐの小さなテーブルが空いていたので、ここなら他のテーブルから距離が保てるだろうと席につく。知人はビールを、ぼくはチューハイを頼んだ。あまり長居するつもりはなかったので、マグロの刺身と生アジフライ、それに炒り豚をまとめて注文。運ばれてきたマグロの刺身は今日もうまかった。1300円と高級ではあるが、ここで食べるマグロが一番ウマイ。寿司のネタでも、ぼくはさほどマグロをうまいと感じていないのだけど、ここのマグロは好きだ。これはチューハイではなかったなと、冷や酒を追加し、チューハイはチェイサーにする。大きなテーブルでは、地元とおぼしきお客さんたちが宴会をしている。ひとりだけ声の大きい人がいて、何度もたしなめられていた。ツマミはどれもうまく、もう少しケチャップ味が食べたくなり、チキンライスも平らげる。お調子を3本開けてしまったので、バスでアパートに帰ったあと、あっという間に眠ってしまう。

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