10月19日

 朝、カメラを片手に界隈を歩き、朝の様子を写真に納めておく。午前中はRK新報の原稿を書く。11時、「パーラー小やじ」へ。仕込みをしているところにお邪魔して、原稿を書くにあたって気になる点を2点だけ追加で質問する。Uさんのお店に行ってみると、「GoToトラベル」の青い紙が張り出してみる。こないだ那覇にきたとき、ホテルで手渡されたクーポンの使い道に困り、「ここでは使えないですよね?」と尋ねた。そのときにはまだ申請していなかったそうで、「せっかくだから申請してみます」とUさんは言っていた。あれから10日くらいしか経っていないのに、こんなにスピーディーに使えるようになるのかと少し驚く。これで買い物をしても手数料が引かれるわけではないようなので、5000円ぶんのクーポンを使い切る。

「末廣ブルース」には「ルーローファンタスティック」と、見慣れぬ赤い暖簾が出ている。お昼はルーロー飯専門でランチ営業を始めたようだ。せっかくなので食べておく。7種類あるけれど、とりあえず基本のルーロー飯を注文し、ビールも飲んだ。14時までホテルで原稿を書き、完成させた原稿をコンビニで出力し、カメラ片手に街に出る。仮設市場に向かう下り坂に、下はスラックス、上にはユニフォームである作業服をまとったスタッフがところどころに立っている。今日は公設市場の地鎮祭だ。会場まで誘導するためにスタッフが配置されているのだろう。工事に関係する会社の人たちが挨拶を交わしながら行き交っている。

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 「パーラー小やじ」で原稿を手渡したあと、そわそわしながら界隈をうろつき、様子を眺めてその時を待つ。14時半になったあたりで雲行きが怪しくなり、雨が降り出す。雨が降ったかと思うと晴れ間がのぞき、しばらくするとまた雨になる。不思議な天気だ。雨宿りしていると、Uさんも様子を観にやってくる。今日の地鎮祭は、公設市場で働いている方たちも、市場の周辺でお店を営む方たちも、コロナの影響でほとんど見学できず、ごく限られた人数だけで開催される。しばらくすると組合長の粟国さんがやってきて、ぼくは一緒に中に入れていただく。どうしてもこの日の様子は取材しておきたいと、粟国さんづてにお願いしてあったのだ。出席している人の多くは工事関係者だ。

 15時、小雨の降るなか地鎮祭が始まる。公設市場の建て替え工事はおよそ半世紀ぶりだ。おそらくぼくがここで地鎮祭を観るのは最初で最後だろう。マスコミも取材に入っていて、テレビは各社が揃っているようだ。ただし、タイムスの記者はいるものの、新報の記者はいないようだ。半世紀に一度の出来事なのに、どうしたことだろう。テレビカメラは、地鎮祭の様子をずっと撮影しているわけではなく、夕方のニュース番組で使うカットを撮影している感じだ。しまったなと思う。もしも今、前回の地鎮祭の様子が残っていたら、かなり重要な映像になっていただろう。だから、今回の地鎮祭の様子も、ゆくゆくは貴重な映像になるはずだ。しかも今回は見学できる人がごく限られているのだから、ビデオカメラを持ってきて、ずっと撮影しておけばよかったなと反省する。

 ある局のスタッフが、地鎮祭のあいだじゅう、ボールペンをかちかち鳴らし続けている。きみは何をしにきとるんやと腹を立ててしまう。地鎮祭を何だと思っているのだろう。別に信仰心がなくたって構わないし、ぼくだって信仰心は皆無に近い。ただし、その土地の、節目となる神事が行われているときに、どうしてそんな振る舞いができるのだろう――こうしてマスコミの取材現場に立ち会うと、こんなことばかり考えてしまう。今日の様子を、半世紀後の誰かが見られるようにと思いながら、地鎮祭の邪魔にならない範囲で最大限写真に撮っておく。地鎮祭が終わると、市長や工事関係者の挨拶があった。難工事が予想されていること、密集地に工事車両が行き交うことで近隣に迷惑をかけてしまうこと、この状況で沖縄の経済が苦境に立たされているなかで、新市場の完成が起爆剤となってくれることに期待していること。政治家の挨拶はその3点に触れたものが続く。あまりにも形式ばった挨拶に感じてしまう。界隈でお店を営む人たちは、何時から地鎮祭が開催されるのかすら知らず、この挨拶を聴くことはない。そして、ここでお店をやっている人たちは、起爆剤となるためにお店を続けているわけではないはずだ。そんななか、那覇市中心商店街連合会の会長による挨拶は実感のこもったものだった。そして、建設を引き受けることになった国場組の会長による挨拶も印象的だった。ここに公設市場ができた年に自分は国頭から出てきて、最初に平和通りで靴を買ったのをおぼえている――そんな話から始まり、ブラックジョークも交えながら話を進める姿に惹きつけられる。

 来賓の挨拶が終わると、市長と組合長に、それぞれ囲み取材がおこなわれていた。こんなふうに更地になった公設市場跡地に立ち入れるのも今日限りだ。せっかくなので、いろんな角度から写真を撮影したのち、外に出る。面白い経験だったなと興奮しながら、Uさんにその様子を報告したのち、16時半、「パーラー小やじ」で飲み始める。最初の1杯はビールを、あとは日本酒を飲んだ。17時40分、昨日入れなかった「うりずん」に向かうと、エアコンが故障しているらしく、水が漏れてきている。「こんな状況でもよかったら」とカウンターに案内してもらって、白百合を注文する。普段はカウンターの中に立つHさんが、まだ他にお客さんがいないこともあって並びに座り、「なんで髪切ろうと思ったんですか?」と質問される。いや、もう坊主のほうがラクで、と答えると、「わかる」とHさんもいう。ほどなくして電気屋さんが修理にやってきた。水が漏れてきている穴を接着剤で塞いでしまおうと話している。そんな方法で解決するのだろうかと不思議に思いながら、白百合を2合飲んだ。