1月15日

 8時過ぎに目を覚ます。ストレッチをして、ジョギングに出る。空はどんよりしているけれど、最近は晴れの日が多いせいか、風景がいつもと違って見えて悪い気はしない。S坂をのぼりきったところに警備員が立っていて、自転車を誘導している。幼稚園でもあるのか、こどもを後ろに乗せた自転車が次から次へとやってくる。今までこんな施設あったっけとジョギングのあとで調べてみると、ぼくが今のアパートに引っ越してきたころ、2017年秋のストリートビューだと駐車場になっていた。そこから工事が始まって、2020年には建物が完成している。どうやらそこで児童向けの英語教室が始まったらしかった。どうして今までまったく気づかなかったのだろう。その建物を背にS坂を下っていると、電動アシストつきの自転車と何台もすれ違う。

 根津一丁目の交差点で信号待ちをしていると、おいしそうな匂いが漂ってくる。不忍池を見て引き返し、今度は表通りではなくひとつ裏の路地を走っていくと、根津一丁目の交差点の近くのあたりで、開店準備中のパン屋と、軒先に商品を並べ始めている惣菜屋があった。ここから匂いが漂ってきたのだろう。その並びには、もともと銭湯だった建物をリノベーションしたこじゃれた施設が完成している。もう9時をまわっているが、出勤中の人の姿をちらほら見かける。テレワークは難しくても、時差通勤は浸透しつつあるのだろうか――と、考えてみたところで自分にわかるはずもなく。

 アパートに戻ってシャワーを浴びたのち、日曜日に掲載される書評のゲラに、もう一度赤字を入れて、メールで送信。その本というのは、去年で退任された委員の方が手を挙げていた本だ。その委員の方の説明を聞きながら、「今度読んでみよう」と思っていたら、次の委員会でまた本の山に並べられていた。おや、と思って事情を聞くと、自分はもうすぐ退任してしまって、その本は書評できそうになく、でも素晴らしい本だからぜひ書評をお願いしますと、深々と頭を下げられた。その、本に対する真摯な態度は深く印象に残り、いつにもまして背筋の伸びる思いで書評を考えた。とりあえずは納得のいく書評に仕上がり、ほっと胸を撫で下ろす。

 今日は知人も自宅で仕事をしているので、焼きそばを2人前作って平らげる。具材はキャベツともやしと豚肉。野菜から水がたくさん出て、ソース煮そばのようになってしまう。郵便受けには「橋下倫史」宛で封筒が届いていて、開けてみると坪内さんの『最後の人声天語』が入っていた。『一九七二』が文春学藝ライブラリーに入ったときも献本していただいていたけれど、そのときと同じように、「謹呈 著者」と書かれた紙が表紙と帯のあいだに挟まれていて、不思議な心地がする。午後、今月末に取材させてもらう予定の古本屋さんに電話をかけ、ご挨拶。それから、届いていたメールたちに返信を送る。2月と3月は緊急事態宣言の影響でひたすらのんびりしたスケジュールになるのではと思っていたけれど、ウェブ「H」の連載を書籍化するべく取材を増やさなければならないのと、メールで相談された案件とを考えると、うまいことスケジュールをやりくりする必要がありそうだ。RK新報の連載も、2月掲載分まではすでに取材済みだけど、3月中旬までに沖縄に行かないと記事が書けなくなってしまう。でも、3月に沖縄に行くことなんて――ただ行くだけなら平気だとしても、「東京から取材にきました」と話しかけることが――できるだろうか?

 そんな心配しながらも、ネットでデジタル一眼レフカメラのレビューばかり読み漁っている。今持っているカメラは7年くらい前に買ったカメラだけど、扱い方が雑過ぎるせいかすっかりズタボロになっている。先月発売されたムックと、企画「R」の謝礼とで、春に向けてまとまったお金が入ってきそうだから、カメラを買い換えるとすれば今しかないという気がしている。当初は今持っているカメラの後続機を買うつもりでいたけれど、同じニコンのカメラでも、フラッグシップモデルも奮発すれば買えなくはなさそうだ(そのかわり、またしても貯金というものから遠ざかってしまう)。今このタイミングを逃すと、そんなカメラを買う機会はやってこないような気もする。丁寧に使えば10年、20年と使えるはずだ。20年後に生きていれば――と、こういう仮定を最近は現実的なこととして想像するようになった――ぼくは58歳だ。フラッグシップモデルの高性能な描写と、どんなシチュエーションでも瞬時に撮影できる反射を必要とするのは今だろう。それに、今より年を取れば、フラッグシップモデルのカメラを持ち歩くのは苦になってしまうだろう。どちらに突き進もうかと迷いながら、試し撮りの画像やレビューを読み漁る。今日はコーヒーはやめにして、ずっとルイボスティーを飲んでいた。

 夜は湯豆腐と賀茂鶴。新ドラマを観ていこうと、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』と『30禁』を再生するも、どちらも演出や演技が見るに絶えず、10分ほどで再生を止めてしまう。『夫のちんぽが入らない』は最後まで観る。深夜帯に放送されているとは思えない作りで、観終わったところでタナダユキ監督作だと知る。少しバラエティを観たあとで、WOWOWで録画しておいた『脱獄広島死刑囚』観る。かっこよくて軽妙で、『日本暗殺秘録』と同じく音楽もよかった。観終わったあとで、囲炉裏で食事を待つ松方弘樹の真似をひとしきり。映画の中の登場人物たちにあこがれることはないけれど、あんな人たちの生き様を、それを見せ物のように消費するのでなしに、こんな人たちがいたのだということをしっかり書き記せるような物書きでありたいと思いながら、賀茂鶴を飲み干す。