2月13日

 7時過ぎに目を覚ます。9時、3泊目にして初めてホテルの朝食会場に向かってみる。入り口で検温され、青色のビニール手袋を1個手渡される。トングを掴むほうの手にね、と従業員の女性が言う。広々とした空間に3人だけ先客がいる。鯖の煮つけ、卵焼き、イカの煮物、納豆、漬物、味噌汁をよそって平らげる。WEB「H」の原稿はほぼ書き終えつつあるので、RK新報の原稿を練る。11時にホテルをチェックアウトして、「A」に立ち寄り、取材の打診をしてみると、「ああ、今から話すのでもいいですよ」と言ってくださり、軒先に立ったままインタビューをする。お客さんがやってくると中断し、また話を伺ってと繰り返す。店主が生まれ育った場所の話を聞いていると、涙がマスクの下に流れていくのが見える。

 12時過ぎるとお客さんが絶え間なくやってくるようになったので、取材を切り上げ、お礼を言ってお店をあとにする。アイスコーヒーをテイクアウトして、パラソル通りで原稿を書く。13時過ぎには完成し、セブンイレブンでプリントアウトして、取材させてもらった「N」さんに手渡す。断続的に雨が降っていて、アーケードの外側に出かけるのが億劫になる。久しぶりで「喫茶スワン」に入り、ホットコーヒーを頼んだ。界隈をしばらく彷徨い、16時に「N」に戻ると、原稿に直してもらいたいところがあるというので話を聞く。「好きに書いてって言っておいて、こんなにあれこれ言って、プロに直させるなんて、私、えらそうだね」とNさんが申し訳なさそうに言うので、いやいや、納得してもらえる内容じゃないと意味がないので、いくらでも直しますと伝える。すぐ近くのベンチに座って、原稿を修正し、もう一度プリントアウトしてチェックしてもらう。「うん、これがいいね!」と言ってもらえてホッとする。「N」の向かいにあるUさんの店にも立ち寄って、また来月きますと挨拶をしてから、空港を目指す。

 缶ビールを2本、紙カップ泡盛を2本買って、搭乗待合室で出発を待つ。宮古行きの飛行機はわりと空いている。飛行機の中では『存在の耐えられない軽さ』を読んだ。宮古空港でトランジットする。搭乗待合室にはマスクをせずに過ごしている人の姿がちらほらある。売店宮古そばと生ビールを買って、腹を満たして飛行機に乗る。飛行機に乗り込むと、キャビンアテンダントの方に「さきほどに引き続き、よろしくお願いいたします」と笑顔を向けられる。『存在の耐えられない軽さ』を読んでいるうちに羽田に辿り着く。荷物が出てくるのを待っていると、サーフボードやゴルフバッグがいくつも出てくる。最大限に注意を払えば、移動したって問題ないはずだとぼくは思っているけれど、そうしたアイテムを手に去っていく人たちの大半がマスクをあごにずらしている。

 マスクを外している人が近くにいないか、少し神経質になりながらモノレールを待つ。やってきたモノレールに乗り込むと、隣のボックスシートに座った男性がおもむろにマスクを外しているのが視界の端に見える。ペットボトルを取り出し、それを飲んだあともマスクを外したまま、ペットボトルを手に過ごしている。たぶんきっと、コロナはただの風邪と言いたい人で、非難めいた視線や言葉を向けられるのを待ち構えているかのように感じられたので、まったく無視して過ごすことに決める。天王洲アイルに到着すると、「ただいま地震が発生したため、しばらく運転を見合わせます」とアナウンスが流れる。たしかに、車両は少し揺れている。5分ほどで運転が再開し、浜松町で山手線に乗り換えると、ところどころにヘルメットをかぶった作業員の姿があった。終電が出たあとに作業でも始まるのかなとぼんやり思っていたけれど、小さなライトを手に見上げている。ああ、地震で何か問題が生じていないかとチェックしているのかと気づく。0時近くになってアパートにたどり着くと、エレベーターが動かなくなっている。重い荷物を抱えて階段を上がると、テレビが地震発生時の映像を映し出している。布団に横になり、ビールを飲みながら、『存在の耐えられない軽さ』を読み終える。