3月7日

 6時に目を覚ます。今日はYMUR新聞にぼくの談話が掲載される日だ。沖縄にはほとんど並ばないけれど、今頃自分の語った言葉が何百万枚と印刷され、日本各地に届いているのだと思うと緊張で身が固くなる。「こんなご時世に何を言っているんだ」とか、「武田百合子への理解が浅はか」とか、批判されたらどうしよう。しばらくWEB「H」のテープ起こしを進めたあと、ハーフパンツにスウェットという姿のまま、9時にホテルを出る。小雨だ。県民広場に行ってみると、昨日がハンガーストライキ最終日だったということもあり、広場ががらんどうに戻っている。一枚だけ、メッセージの書かれたボードが植木に残されていた。

 知人に連絡をして急がせ、新聞を買わせ、写真に撮って送ってもらう。ほんとうに掲載されているのだなあ。写真にモザイクをかけ、SNSに投稿しておく。ホテルに戻り、シャワーを浴びて着替えを済ませ、11時からRK新報の取材。12時になると続々と来場者がやってきたので、中断を挟みながらも居座らせてもらい、2時間近くかけてお話を伺う。今回の滞在で(Uさんと話してから)あれこれ考えていたことにも繋がる話になり、このタイミングで取材させてもらえてよかった。取材帰りに「大衆食堂ミルク」をのぞくと、他にお客さんはいなかったので入店し、ちゃんぽんをごはん少なめで注文。ぼくが入店したことで、店内にどこか緊張感が漂っているような気がして、申し訳なくなる。

 ホテルに戻ってテープ起こしをしたのち、18時、缶ビールを飲みながら松山まで歩く。秋にオープンだという劇場、外観は完成しつつある。今日はウーマンラッシュアワー村本大輔の独演会が急遽開催されると知り、ちょうど村本大輔のドキュメンタリーがもうすぐ放送されるということもあり、今朝予約しておいた。20人限定の独演会で、スパイスカレー屋さんとのコラボイベントらしく、まずはカレータイムがあり、そのあとに独演会があるらしかった。会場に到着してみると、想像したより店は狭かった。入り口でチケットを提示すると、別途カレー代800円と、カウンターで1ドリンクのオーダーをと促され、店内に入る。その会場はミュージックバーで、店内ではお客さんがカレーを頬張りながら談笑している。ここに足を踏み入れていいのかと不安になる。カウンターで「ビールを」と伝えて、500円払うと、アサヒスーパードライの缶を渡してくれる。椅子は10脚しかなく、先に到着していたお客さんが食べ終わるのを待って、あとからきたお客さんがカレーを食べるようだ。カレーを食べ終えて外に出てきたお客さんも、マスクを外したまま談笑している。入り口に「マスクの着用を」と張り紙はあるけれど、店内で曲を流しているDJはノーマスクだ。しかも、椅子を10脚並べただけでも間隔が狭くなりそうだけれども、そこに立ち見客が10人加わるとなれば、かなり密だ。申し訳ないけれど、距離が保てない上にマスクを外したままの人もいるようだから、不安なのでキャンセルしますと受付の方に伝える。カレー代を返金しましょうかと言われたけれど、20人分用意してあるのに今更キャンセルするのも申し訳ないので、それは結構ですとお詫びして会場をあとにする。

 15分ほど歩いて、市場の近くまで帰ってくる。「足立屋」、今日はわりと空いている様子なので、外のカウンターの端っこに陣取り、ビールとはまぐり(2個)、それに宇那志豆腐を注文し、立ち飲み。外だと換気(?)は抜群とはいえ、いつも賑わっているから最近は敬遠してしまっていたので、先払いだということを忘れていてまごついてしまう。ホッピーを追加し、2杯飲んだ。時計を見るとまだ19時半で、栄町まで足を伸ばそうかと思ってみたものの、松山まで往復したせいか歩くのが億劫になり、泡盛と氷、それに乾き物を買ってホテルに引き返し、テープ起こしをしながら飲んだ。

 それにしても――と、サラミをかじりながら思う。著者インタビューとして自分が語った言葉が新聞に掲載されることはこれまでにもあった。でも、ぼくが書く言葉は誰かの語りを文字にまとめたものだから、取材に応じるときもぼく自身が考えていることというよりも、どんな言葉が語られていたのかを正しく伝えなくてはという感覚で取材に応じていた。でも、今日掲載されたのはそういった種類の言葉ではなく、ぼく自身が今の日々に感じていることだ。そんなことが、新聞に掲載されるなんて――と、今朝は感慨にふけると同時に、どんな反響があるだろうかと不安でもあった。今日は緊急事態宣言が首都圏をのぞいて取り下げられる「節目」の日で、あと数日すれば「震災から10年」という「節目」が繰り返し語られるであろうタイミングで、「節目」に対する違和感をぼくは話して、記事にまとめてもらった。新聞が全国に配達され、一日が終わりつつあるけれど、インターネットごしに見える世界だけだと、ほとんど反響はなかった。なんだかがっかりしたような、ほっとしたような、つまらないような、なんとも言えない気持ちになったけれど、平民金子さんがツイッターで触れてくれていたのが唯一の灯台のように感じられた。泡盛をあおっているとA.Iさんからふいにメッセージが届き、開いてみると先島諸島の海が映っている。その写真や動画を見ているうちに、海に行きたくなり、最安値のレンタカーを急遽手配する。