10月7日

 12時に家を出て、大手町で千代田線から半蔵門線に乗り換え、神保町に出る。12時半ぴったりに「K書店」に到着すると、編集のTさんと、取材してくれるAさん(初対面)がすでに店内にいらっしゃる。今日は著者インタビュー2本目。写真撮影は取材したお店のどこかでということで、この場所を選んだ。他の書店だと、取材させていただいたお礼に何度も通って本を買うことができるけれど、ここは洋書専門だということもあって、英語がろくに読めないぼくには何冊も買うというのは難しい。ただ、写真撮影に有料で場所貸もやっているので、「ぼくがお金は支払いますので」と、ここで撮影させてもらうことにしたのだ(「いやいや、うちで払いますよ」とHの雑誌社のTさんが言ってくれたので、その言葉に甘えることになったのだけれども)。

 まずは撮影をすることに。取材のときに佇んでいた場所でとのリクエストで、帳場の横にあるテーブルに座り、マスクを外す。撮影させてもらっているとはいえ、お客さんも普通にいらっしゃるので、マスクを外していることに申し訳なさをおぼえる。テーブルでしばらく撮影したあと、お客さんがいない書棚の前でもう少し撮影。15分ほどで撮影は終わり、お礼を言ってお店を出る。インタビューはどこかテラス席のあるお店でと、テラススクエアというビルにあるレストランに入り、アイスコーヒーを注文してインタビューを受ける。終わる頃には2時間近く経っている。途中で「最近2番目に嬉しかったことは?」など、途中で不思議な質問を投げかけられ、何かあったっけと記憶を辿っているときにも何枚か写真を撮影され、あれ、1ページに掲載される記事だけど、さっき「K書店」で撮影したカット以外にも掲載する余白があるのかなと不思議に思う。

 15時近くになってHの雑誌社へ。途中でコンビニに寄り、おにぎりを1個だけ買ってから、追加のサイン本を作る。今回は100冊ちょっと。署名入りを喜んでくれる方がいるかどうかはわからないけれど、「なにこれ、汚い字だな」と思われないようにと、なるべく丁寧に、ちまちまとしたサインを入れる。1時間ほどで終了。あ、そうだ、と思って「××にある××ってお店から注文って入ったりしてますか?」と営業のHさんに尋ねてみると、いや、入ってないですとの返事でしょんぼりする。時刻は16時過ぎ、鈴蘭通りの酒場「A屋」へ。10月4日から営業再開したようだ。生ビールとたこの唐揚げを注文。大相撲をやっている時期に、Tさんと何度かきたことがあって、『ユリイカ』でもこのお店のことを書かせてもらった(ふとレジのほうに目をやると、今も『ユリイカ』が置かれている)。ビールを2杯飲んで、会計してもらう。どうにか再会できましたので、また近くにいらしたときは寄ってくださいねとお店のお姉さんが言う。『東京の古本屋』をカバンから取り出し、最近こんな本を出したので、よかったらもらってください、と差し出す。

 帰りに東京堂書店に立ち寄ると、ほんとに2週連続で週刊ベストセラー(総合)第1位のところに『東京の古本屋』が置かれている。ふわふわした心地で入店し、文芸誌を眺める。今月は『新潮』と『文學界』、それに『文藝』も買う。『群像』は送ってもらったものだけど、4誌も手元にあるというのは今までなかった。御茶ノ水駅に向かって坂をあがりながら、さっそく『文學界』を取り出し、平民金子「めしとまち」を読む。「成城石井」に寄ってみると、たこ焼きが並んでいる。「めしとまち」に書かれているのは、こういうタイプのたこ焼きの話ではないとわかっているけれど、あまりにもタイムリーだったので買ってしまう。電車に揺られながら、「聞いたそのままが面白い」という対談にぱらぱら目を通すと、後述の書き起こし方の話があり、おばあちゃんの方言を正確に残そうとすると「読みづらくなったり、元からすごく離れちゃう感じ」になるので、「実は語り口を過剰に残そうとしない方がいい」という話の流れで、「人の語りを文字化するときの新しいやり方を発明しているんだろうな、と思いました」と語られている。それは、構成という仕事の蓄積としてもこれまで連綿とあるはずだし、広く文学が扱ってきたものだろう。