9月13日

 2時過ぎ、嫌な夢を見て目が覚める。ライブ会場――昨日訪れた場所ではなく、まるで知らない場所――に通り魔があらわれた夢だった。22時までは知人とドラマを観ていて、そのあともしばらく起きていたはずだから、3時間くらいで目が覚めてしまった。昨日は飛行機に乗ったのにシャワーを浴びないまま布団に横になってしまったので、寝返りを打たないように(頭が触れたところが目鼻口に触れないように)と気を張りながら、どうにか再び眠りにつく。6時に起き出して、シャワーを浴び、部屋を片付ける。昨晩テレビを観ながら食べていたキムチ味の豆もやしを片付けようとしたところで、汁をこぼしてしまい、サコッシュにかかってしまう。一部は合皮が使われているサコッシュだから、洗濯もできないし、チャックが錆びて開閉しづらくなっていたので、ここでお別れすることに決める。

 7時半にホテルをチェックアウトし、泉佐野駅へ。駅前には「駅上商店街」というビルがあって、昨日から気になっている。駅とはロータリーを挟んだ向かい側にあるのに、どうして駅上なのだろう。ロータリーにはバスが停まっている。行き先を何気なく見ると、大阪体育大学前だ。うちの母が通っていたのが大阪体育大学で、大阪のどこにあるのか聞いたことがなかったけれど、現在はこのあたりにあるのか。関西空港行きはそこそこ混み合っている。ただし旅行客だけではなく、空港で働いているのであろう人たちも多いようだ。途中の駅で乗車してきた人に、ああ、どうもという感じで手を挙げている人もいた。大阪の南側だからか、しゃべりがまた大阪駅あたりとは違っているように感じる。

 関西国際空港は静かだ。荷物を預けたあと、どこかで朝ごはんをと、ぶらつく。スタバがあり、食べ物の棚を確認する。あまり食欲をそそられず、マクドナルドへ。店の入り口にあるメニュー表には日本語の表記がなく、他のお客さんの様子を見ていると、みんなモバイルオーダーで注文していた。店員さんもモバイルオーダーしてもらったほうが楽なのかもなと、ケータイから注文。スタバでホットコーヒーを買って、到着ゲート近くのテーブルで朝ごはん。出発時刻の30分前に保安検査場を通過し、搭乗ゲートに向かうと、思ったよりも乗客で溢れている。ウレタンマスクの乗客もそこそこいて、これは昨日のライブでも思ったことだけど、そういう人ほどマスクをずらして談笑している。機内でも、マスクを外して話している乗客や、マスクを外さないにしても大声で話し続ける若者のグループ客がいて、本当に不安になる。たった2時間弱のフライトのあいだぐらい、マスクをきちんとつけて過ごせないのか。客室乗務員が一度、「他のお客様もおられますので、会話の声は控えめにお願いします」と声をかけ、しばらく経って、「機内での会話はお控えください」と表示されたタブレットを掲げてまわっていた。話の通じない輩という感じでもないだけに、どうしてそんな感じで旅に出ようと思ったのかと、問い詰めたくなる。

 飛行機を降り、荷物を受け取って、「天龍」でゆし豆腐そばを平らげる。2階の「ロイヤルスナックコート」に移動し、アイスコーヒーを頼んで原稿を書く。ここでもマスクを外して大騒ぎしている集団がいるので、端っこで書く。14時過ぎにひと段落して、ゆいレールで県庁前へ。国際通りを歩くと、椰子の木の皮があちこちでごろんと剥がれ落ちている。ホテルに荷物を預け、界隈を散策する。前から気になっていたお店に立ち寄り、取材できないかと相談すると、快諾してもらえてホッとする。明日で最終営業日を迎える「言事堂」に向かうと、お店の前にLさんがいる。明日、公演観にこられるんですね、とLさん。明日予約していた公演にも携わっていて、予約者の中にぼくの名前があるのに気づいていたとのこと。「言事堂」は一度に入れる人数を5人までに制限していて、今は一杯のようなので、しばらく界隈をぐるぐる歩く。住んでいない自分に取材できることなんてあるのかと、いつも思うけれど、歩いているうちに「このあたりのこういう感じを取材しておかなければ」という目処が立つ。頑張ろう。

 仮設市場の「長嶺鮮魚」に立ち寄り、刺身の盛り合わせ(400円)を買う。「ずっとこっちにいるの?」と声をかけられ、「普段は東京で、行ったり来たりです」と答えると、「うん、東京なんだろうけど」と返ってくる。質問の意図を汲みきれなかった気がして、考え事をしながら歩き、ビールと泡盛、2リットルのミネラルウォーターを買って、スタバに立ち寄ってアイスコーヒーを買う。荷物で指がちぎれそうだ。17時にホテルにチェックインし、まずはシャワーを浴びてハンドソープで頭や顔を洗う。夜は部屋でおとなしく書評予定の本を読み、19時から知人とリモートで同時に『Mother』を観る。物理的に引き離されて、手紙を書く――という設定が、この脚本家のいろんな作品で多用されている。ラストはちょっときれいすぎるきもしたけれど、続けて『Woman』を観始める。そうだ、このドラマは早稲田や雑司ヶ谷の風景が出てくるんだった。