9月14日

 4時過ぎに目を覚ます。せっかく早起きしたのだからと、6時前に散策に出る。風が強くて、Tシャツもすぐに雨で濡れ始める。のうれんプラザまで歩いて、中を冷やかし、ぐるぐる路地を歩く。早朝の街を歩いていると、まだシャッターが降りているので、じっくり観察できる(お店が開いている時間帯だと、あまりじろじろ観察していると不審者になってしまう)。いくつか取材のヒントを得て、7時半にホテルに引き返す。酔っ払っているのか、路地に座り込んで、ケータイで音楽を流しながら俯いている若者の姿を見かけた。妙に眠くて、午前中はあまり使い物にならなかった。11時、カメラを提げて取材に出る。1時間ほどのつもりが、たっぷり2時間近くお邪魔してしまう。お話を聞かせてもらってよかったなと思う。ほとんど見えないものとして扱われている人たちの話を、きちんと聞くことができた。

 ケータイで時間を確認すると12時54分だ。急いで待ち合わせ場所に行くと、もうUさんの姿がある。すいません、荷物置いてくるので5分待ってくださいと伝えて、ホテルに荷物を起き、お土産のアイスコーヒーを持ってすぐにホテルを出る。Uさんと再会して、「I」という喫茶店へ。何度も前を通ってきたけれど、初めて入る店だ。Uさんは店主と顔馴染みのようで、「今日から開けてるの」と店主がUさんに話している。「それで――どう? もう市場はできてきてる?」と質問していて、新鮮に感じる。このお店から市場まで100メートルも離れていないけれど、その100メートルは結構な距離なのだろう。それに、この界隈にはバスで通っている方も多く、バス停と店の往復だと、市場の前を通り掛からないのだろう。Uさんも、市場を挟んだ向こう側にあたるこの界隈にはあまり足を運ばないようで、しばらくこないうちに新しい店が増えていてびっくりしたと話していた。

 アイスコーヒーと、ミックスサンドを注文し、あれこれ話す。Uさんは8月上旬からお店を閉められている。特にこれというきっかけがあったわけではないけれど、7月下旬からコロナ対策をほとんど無視しているグループ旅行客が増えて、不安が強くて店を閉めているのだという。「休業要請に応じて休んでいる」というわけでもないだけに、いつ再開するかが難しいのだとUさん。ぼくも、自分がいま感じている不安について、率直に話す。街を歩いていると、もうコロナ禍が過ぎ去ったかのように振る舞う人たちがいて、戸惑ってしまうけれど、こうしてUさんと話しているとホッとする。

 人の目を見て話すのは苦手なので、窓の外を見ながら話す。外を眺めているうちに、こんなふうに市場界隈の風景をひとつの場所にとどまりながら眺めるのはずいぶん久しぶりだなと気づく。酒場に入ることもなくなって、今はもう、市場の風景を眺めるにはひたすら歩き続けるしかなくなった(いくつかベンチやテーブルが設置されている場所もあるけれど、そのあたりでツバを吐いている人をよく見かけるので、座るのに抵抗がある)。だから、こんなふうに定点で街並みと行き交う人を眺めるのは、ずいぶん久しぶりだ。あれこれ話したことのひとつは、ぼくが今取材している企画のことだった。市場の連載も、島の連載も、常に「誰かに怒られるかもな」という気持ちがあるのだけど、特に怒られることもなくて、怒られなかったのはほっとしたけど、はたして読まれてるのかなという気もする、と話す。「そんなに『怒られるんじゃないか』と思ってるんですか」とUさんは不思議そうに言う。「でも、少なくともこの界隈だと、新報の連載は読まれてると思いますよ。今月はあそこだったねって話している人もいますから」と教えてくれる。ぼくが「島の連載が小説とみなして読まれることがなかった」という話をしていると、Uさんは自分が書いたエッセイのことを話してくれた。実際に起きた出来事を、そのまま書くと差し障りがあって、そのあたりをクリアできるようにと整えて原稿にしたことがあって、それを知り合いの編集者に話したところ、「それはエッセイじゃなくて創作だ」と言われたという。その基準で言えば、ぼくが書いているものの多くは創作になるかもしれないなと思う。

 気づけば2時間近く経っている。Uさんは今日が最終営業日の「言事堂」に行くというので、一緒に向かう。途中でお土産を渡すと、「いつもお土産なんてくれないのに、なぜ」と不思議そうにUさんが言う。言われてみれば、なんで今回は買ってきたんだろう。いや、いつもはふらっと、一方的にお店にお邪魔してるだけですけど、今回は話しましょうと約束してたのと、普段なら店番しながら近所のお店でアイスコーヒーを買う機会も多いだろうけど、今はあまりそういうきっかけもないんじゃないかと思って、と「やなか珈琲」のアイスコーヒーを手渡す。「言事堂」に到着してみると、お店は入店制限いっぱいになっているので、外でしばし待つ。そのうちに、後ろにもお客さんが並び始めたので、ぼくはそのお客さんに順番を譲り、界隈を散策する。晴れているのに小雨が降り始める。「上原パーラー」でそーめんちゃんぷる(100円)と天ぷら3種買って、ホテルに引き返す。

 18時、オンラインで読書委員会。20時、「わが街の小劇場」に行き、神里雄大演出による「琉球怪談」観る。50分ほどで終演。コンビニで缶ビールを買って、界隈を散策する。2ヶ月前は、夜でも営業している酒場が片手で数えられるくらいは存在していたが、今では両手が必要な数に増えている。国際通りには酔客がちらほら。のれん横丁のガラス越しには、ノーマスクで賑わう人たちの姿。21時半にはホテルに戻り、知人と『Woman』(第2話)を観た。