1月15日

 8時過ぎまで眠ってしまう。胃が少しくたびれている。昨日の鍋に鶏肉と豆腐が少しだけ残っていたぶんを雑炊にして、『淋しき越山会の女王』を読みながら平らげる。土鍋にうっすらと、細かいヒビのような線が入っている。昨日、鍋を作り始める前に、土鍋を空焚きしてしまった。うちのコンロはふた口で、片方に空の土鍋をのせたあと、水切りかごに入っていたテフロン加工された両手鍋が邪魔くさく感じて、これもコンロにのせた。まだ乾き切っていなかったので、少し加熱して水気を飛ばそうと思って、コンロのスイッチをひねり、鍋の具材を切っていた。数十秒経ったところで、においに気づく。両手鍋らしくない匂いだなとコンロに目をやって、誤って土鍋のほうのスイッチをひねっていたことに気づく。土鍋からは少し湯気が出ていて、それで細かいヒビのような線が入ってしまっていたのだった。

 傷がつくと、そこばかり見てしまう。

 知人は眠り続けている。僕ももういちど布団に潜り込んで、読書を続けていると、テレビからニュース速報の音が流れる。画面に表示されている文字が、「地震速報」でも「気象情報」でもなく、いやなかんじがする。数秒経って表示されたのは、文京区の東大キャンパスで受験生が刺されたというニュースだった。午前中は本を読んだり、新聞を読んだり。昨日の紙面には、紛争によってエチオピア北部のティグレ州で紛争深刻な薬品不足が生じていることが小さな枠で報じられていて、同州出身のテドロス事務局長が「世界でティグレほど地獄のような場所はない」と窮状を訴えていた。その言葉が印象に残った。今日はさらに小さな枠で、「エチオピア政府が反発」という見出しが出ている。エチオピア政府の立場からすると、医療品不足は「政府軍と内戦を続けるティグレ人勢力が輸送トラックの軍事転用を続けることに責任がある」という。ティグレ州の場所をGoogleマップで検索する。

 今日の毎日新聞で、加藤陽子さんが『東京の古本屋』の書評を書いてくださっているとTwitter経由で知る。『東京の古本屋』の中には、加藤陽子さんの名前が二度登場する。一度は古書店主が最近読んだ本の著者として、一度はテレビから流れる国会中継の声として。その名前をメモに記し、原稿にも書き含めていたときには、まさか加藤陽子さんがこの本を読むとは思っていなかったので、びっくりする(これは「東大の先生が読んでくださるとは」ということではなく、こういう本も読まれるのかと意外に思ったということ。ただ、日記を書いている今になって思うと、記者の方が加藤陽子さんの名前が出ていることに気づき、書評を依頼されたのかもしれないなとも思う)。いずれにしても、刊行から3ヶ月を過ぎてもう新しい書評は出ないかと思っていたので、嬉しかった。

 正午が近づいたところで米を炊き、中村屋レトルトカレー(スパイシービーフ)を温める。知人も起き出してキッチンにやってきたので、「もしもマヂカルラブリーが、『ビーフカレーが食べたいよ〜』というフレーズから始まる漫才を作ったら」という妄想をぽろぽろしゃべる。村上だったらこんなツッコミをするのではと妄想するのが思いのほか楽しく、しばらく続ける。食後、知人は散髪に出かけていった。テレビを消して、来月出す本のフライヤーのレイアウトを詰める。印刷してみては調整してと繰り返す。基本的には店頭に貼ってもらう用のつもりだったので、片面印刷のつもりだったけど、「誰かに配る役割も兼ねるのであれば、両面印刷でも」と言ってもらえたので、もしも両面印刷にするとしたらと考えて、Indesignをぽちぽち操作しているうちに日が暮れていた。