4月5日

 5時過ぎに目を覚ます。昨晩飲んだ酒が残っているが、約束があるのでどうにか体を起こす。よろよろストレッチをして、6時にジョギングに出る。昨日、自転車で東崎に向かったときにも、前にレンタカーで走ったのとは違う感覚を得ることができたけれども、自分の足で走るとまた感覚が異なる。ただ今は、そんなことよりも、急な坂を走るのが苦しい。次第にあたりが明るくなり、太陽がのぼる。日の出には間に合わなかったが、もしかしたら皆は起きられなかったのかもしれない。ヨナグニウマはもう、昨日と同じように草を食んでいる。ずっと草を食んでいるみたいに見える。腰を下ろして、馬を眺める。遠くの灯台のほうをみやると、人の影が3個動いているのが見えて、あ!と立ち上がり、走る。AさんとYさん、Oさんはちゃんと起きていて、自転車で灯台までやってきていた。しばらく草原に寝転がって、引き返す。売店でおにぎりと小さなフライやハンバーグが入っているお弁当を買って平らげる。

 3人とは別の宿に泊まっているので、9時半にDiDiという交流館で待ち合わせる。棚に並んでいた『与那国の歴史』という本を手にとって、皆がくるのを待ちながら読んでみる。歴史の記述を読んでいると、あくまで伝説として語り継がれている時代から、次はもう薩摩に平定された時代に飛んでいる。そこから明治維新/琉球処分に至る記述は思いのほか少なく、こんなに名前の知られている島でも、わからないことがたくさんあるのかと驚く(後日、聞き書きをした資料が他にも存在することを知ったけれど、それでも想像していたより書き残されていることは少ないように感じる)。

 皆が展示を見終えるのを待って、外に出る。郵便局と売店に寄りたいというので、立ち寄る。今日はここからしばらく自転車を漕ぐ予定になっているので、朝ごはんは軽く食べたけれど、売店ハンバーガーを買っておく。それに、昨日は頭にも日焼け止めを塗って凌いだものの、今日は昨日より陽射しが強そうだから、手拭いを買って首に巻き、帽子も買い求める。東崎を抜け、ぐるりと島の形に沿って時計回りに走る。途中でモスラのモデルになったという巨大な蛾が生息しているあたりを通りかかり、ちょうど山の小道があったので皆で捜索してみる。YさんとOさんはずんずん進んでゆく。Aさんは少し遅れて歩いている。Oさんは木の枝を拾って、そこらを叩きながら歩いている。結局、蛾を見つけることはできず、再び自転車を走らせていると、車に轢かれたのか路上で散り散りになりかけている蛾を見つける。

 13時半にようやく比川に辿り着き、「さとや」という食事処に入る。Yさんの電動アシストがあっという間に減ってしまったので、お店の方に充電させてもらえないかと相談したところ、「なに、出川なの?」と店主が笑う。カメラはどこにいるの、と言いながらも、快く充電させていただける。Oさんは八重山そば、あとの3人はソーキそば。ラーメンのような味わい。ソーキは巨大で、火で炙ったものがドーンとのっけてある。どういうグループなの。なんか、調査隊みたいだね。あなたが隊長みたいに見えるけど、と店主に指を指される。年功序列で並べるなら、たしかに僕が最年長ではある。口数が多いというわけではないけれど、なんだか面白い。

 Oさんは共同売店好きらしく、比川の共同売店に皆で入ってお買い物。カディブックスのメモ帳が販売されていたので買い求める。集落の小学校だよりを見ていると、昨日一緒に遊んだちびっこが写っている。Oさんは30分近く商品を物色していた。比川の浜(近くにDr.コトーのロケ地がある)を眺めたあと、海沿いを走り、久部良を目指す。途中で自衛隊の施設がある。YさんとOさんはずんずん進んでいってしまっていたので、Aさんにだけ、戦後の密貿易の時代には1万人を超えていた人口が1970年ごろには3000人にまで減り、2010年には1500人にまで減ってしまったことで、住民投票を経て自衛隊誘致に踏み切り、今は1700人が暮らしている、ということを伝える。そして、昨日少し話に出ていた戦争のときのことについても話す。この島には見張の部隊が15名ほどだけ暮らしていて、空襲の被害はあったけれど米軍には上陸されなかったこと。マラリアで住民の1割近くが亡くなったこと。昨日立ち寄ったティンダバナには、戦時中に建てられた巨大な碑があり、そこには「皇国」「防壁」という言葉があったけれど、日本軍からするとほとんど戦略的な拠点と見做されていなかったわけで、そのことを考えると胸がいっぱいになる――と話すと、Aさんも自転車をこぎながら頷いていた。

 宿に荷物を置き、ダンヌ浜へ。3人が海に入っているあいだ、僕は浜辺に寝転んで音楽を聴いていた。18時過ぎにダンヌ浜を出て、皆それぞれお酒を買って、日本最西端に位置する西崎灯台に出る。昨晩3人が宿泊していた宿の女将さんは、朝のうちに荷物を預けに行ったとき、島の名所をひとしきり説明してくれた。「ここは日本最西端の島だってことで、西側ばかり注目されるけど、東にも見どころはたくさんあるんですよ」と女将さんは話していた。ただ、今日ここまでレンタカーには何度か追い抜かれたはずなのに、見どころであるはずの(それも夕暮れ時――日本でいちばん遅い夕暮れ時の)西崎灯台には、他に旅行客の姿は見当たらなかった。空の低いところが雲で覆われていて、太陽が水平線に沈むところは見れず、これは、またいつかくるしかないですねと皆と話す。

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