3月2日

 昨晩は20時半には眠ってしまったらしかった。目を覚ますと1時過ぎだ。薬は――飲んでないよなと記憶を辿りながら身体を起こす。空腹で飲むのもなんだからとクラッカーを1袋食べて、薬を飲んで二度寝する。次に目が覚めたのは5時過ぎだった。朝からS・Iのドキュメントを書く。昨年度から書き継いできたドキュメント、いよいよ最後の回を書いている。8時過ぎ、納豆ごはんとインスタント味噌汁、ししゃも3匹で朝食をとる。

 シャワーを浴びて、10時45分に家を出る。数ヶ月ぶりにコートを着ずに外に出た気がする。千代田線で町屋に出て、病院へ。順番を待ちながら昨日の取材のテープ起こしをする。今日は午前中で診察が終わる日で、僕が順番を待っているところに、入院患者の診察の時間が差し挟まれる。部屋着でやってきた入院患者同士が、「今日は午前中なんですね?」「木曜と日曜は午後の診察がないから、午前中になるみたいです」と情報を共有し合っている。自分もついこないだまで入院していたような気がするけれど、まったく知らない患者さんだ。それもそのはずで、退院して今日で10日になる。入院は基本的に8日間だから、僕が退院したあとに入院した人ももういない計算になる。入院期間なんて短ければ短いほどいいのに、こんなことでも妙な寂しさを感じるものだなと思う。

 1時間近く待って診察を受ける。退院の日の診察からずっと同じ医師が診察してくれているのだけど、今日は患部を見るなり「あれ?」と医師が言う。カルテを確認するような間があって、「橋本さん、かなり順調ですよ」と言う。僕が受けた手術は開放切開術といって、一部が切り取られていて、その部分が盛り上がってきて傷跡が塞がったところで完治になる。その回復具合が普通より早いらしかった。

 食べ物にもしっかり気を配っているからだろうか。あるいは――と、「普段から患部に負担がかからないように、ソファに寝転がってるんです」と医師に伝えると、「おしりはこういう形になっていて、バイクとか自転車に乗るのでなければ患部に直接負担はかからないので、そこまで神経質にならなくても大丈夫ですけど――でも、この調子なら、もう1回だけ今と同じ軟膏を出しますけど、それを使い終わったらこっちの薬に変えても大丈夫そうですね」と医師が言う。ふたつの薬にどういう違いがあるのかはまったく説明されていないけれど、思ったより早く完治するのかと思うと嬉しくなる。

 近くの薬局で薬を受け取り、千駄木まで帰ってくる。「往来堂書店」に寄り、奥祐介『東京名酒場問わず語り』と『BRUTUS』を買う。誰か気になる作家が「久しぶりに短編集を出した」とツイートしていて、それはKindleではなく紙の本で買おうと思った記憶があるのだが、誰の短編集だったのか、棚を見ていても思い出せなかった。14時半、鶏胸肉ときのこをソテーしてカレー粉を振り、昼食をとる。

 食後は郵便局に出かけ、レターパックプラスをたくさん買っておく。出版社から献本してもらえるぶんもあるけれど、手元に届いた数冊を誰かに献本しようと、レターパックに宛名を書いておく。献本しようと思ったひとりは、まるで面識がなく、一方的にラジオを聴いている人だ。普通なら献本しても本人に届くことすらない気がするけれど、なんとなく届くのではないかという予感があって、献本に添える手紙を書く。本がきっかけとなって、その人が水納島や市場界隈を歩いたらいいなと思う(新刊だけでなく、『水納島再訪』も献本するつもり)。