4月7日

 6時に起きて、今日出演する番組で話すことを考える。一昨日のうちに進行表は送ってもらってあって、大まかに分けると4つの質問がある。それにどんなふうに答えるか、頭を悩ませる。まずは市場界隈でお店を切り盛りする方たちが見たときに、違和感を抱くような言い回しにならないように、気を遣う。それとは別に、このオンエアを機に本を手に取ってもらえるように――那覇以外に暮らす方や、普段はマチグヮーに足を運ばない方にも興味を持ってもらうにはどうすればいいかも考える必要がある。9時にはまとめ終わり、市場界隈をぶらつく。上原パーラーでおにぎりとソーミンチャンプルーを買って、どこで食べようかと迷ったけれどいい場所が見つけられず、結局沖映通りまで出て、ちょうど立ち食いするときに机に使えそうな高さの「箱」(おそらく電線を地中化する際に必要となる変圧器)にパックを置き、そこで立ち食いした。

 むつみ橋のスターバックスコーヒーでアイスコーヒーをテイクアウトして、10時過ぎ、タクシーでNHK沖縄へ。迎え入れてくれたスタッフの方が、「今日は編集者のMさんはいらっしゃらないんですね?」と言う。なんとなく、そこに業界のギャップが垣間見えたような気がした。著者が番組に出演するというときに、沖縄まで編集者を派遣する経済的な余裕がある出版社は、かなり限られているだろう。今回の出演も、NHKから交通費が出ているわけでは当然ない。楽屋に案内されたあと、まずはドライリハがあり、それに続けて本番と同じ感じでリハーサルがおこなわれる。アナウンサーの方と一対一でやりとりする形なのだが、リハが終わるたびにサブのスタッフの方からインカムでアナウンサーの方に指示が入り、アナウンサーの方が台本に何か書き込んでいる。おそらくアナウンサーの方は僕の書いた原稿に興味を持ってくださっているのだろうけれど、それ以外のスタッフの人はどうなんだろう、興味を持って聞いてくれているのだろうかと考えると、不安になる。生放送に出演すること自体に緊張はしないけれど、時間が限られているなかで、自分の言葉が正しく届けられるかどうかは、そわそわする。

 11時40分、本番が始まる。途中でアナウンサーの方が間違って、質問の順番をリハーサルとは違う順序で尋ねてきて、一瞬動揺する。こういうときに自然に受け答えできる人はすごいなと思う。放送終了後、タクシーで美栄橋駅のあたりまで引き返す。ジュンク堂書店に立ち寄り、「放送を見て本を探しにきた人はいないだろうか?」と思ってみたけれど、放送直後に書店に駆けつける人なんてそうそういないだろう。自分の本の山をきれいに整えて、「本が売れるように、徳を積んでおこう」と、自分以外の本もきれいに整え、帯をきちんと揃えておく。

 Uさんのお店にも立ち寄る。「雨だから、開けるかどうか迷ったんです」と言うUさんに、「まあでも、そんなに大粒の雨じゃなくてよかったですね」と空を見上げながら言うと、一瞬の間が流れる。「午前中はどこにいたんですか?」と問われ、あの、NHKのスタジオにと言うと、ああ、もう出演されてきたところなんですねとUさんは言い、「今日は10時過ぎと、そのあともういちど、スコールみたいな雨が降ったんです」と教えてくれた。14時、RK新報社に行き、Tさんからインタビューを受ける。『市場界隈』のときも、『水納島再訪』のときもインタビューしてくださった方なので、とても話しやすい。やっぱり、時間をかけて話してよいのであれば、すらすら話せるし、Tさんが僕の書いたものや、街に対して興味関心がある人だとわかっているので、話しやすいというのもある。

 気づけば90分近く話してしまった。せっかくだからとリウボウブックセンターを覗くと、『そして市場は続く』をたくさん並べてくださっていた。ふと見ると、平積みにされた本のうち、裏返しに並んでいる本がたくさんある。一瞬「立ち読みしたお客さんが、向きを気にせず棚に戻したのだろうか?」と思ったのだが、よく見ると一番上の一冊だけでなく、裏表紙が見えるように並べてある面がいくつかある。お店の方にご挨拶すると、「この裏表紙の写真もすごく素敵だなと思って、この写真もお客様に見てもらいたいと思って、こうして並べてるんですけど、もしお嫌だったら直しますので」とお店の方が言う。いえいえこのまま並べてください、よろしくお願いしますとご挨拶して、市場界隈に引き返す。

 Uさんのお店に戻り、追加注文してくださった新刊20冊にサインを入れる。そのまま立ち話をしていると、「ああ、この本じゃない?」と、僕の新刊を手にとる男女がいた。「NHKを見られたのかもしれないですね」とUさんが言う。つい「買ってくれ」と手で年を送ると、Uさんが軽くぎょっとしている。そんな邪念を送ってしまったせいか、その男女は本を棚に戻し、公設市場に入っていく。「でも、橋本さんがお店に来てくださった直後に、橋本さんの本が売れることがあるんですよ」とUさんが言う。何か気配が残っているのかも、と。日が暮れるのを待って「魚友」に行き、外のテーブル席で市場の姿とそこを行き交う人たちの姿を眺めながらビールを飲んだ。