1月22日

 7時過ぎに目を覚ます。荷造りをしなければならないが、さて、野菜をどうしたものか。というのも、那覇に到着した日に「小禄青果店」の前を通りかかると、たんかんがたくさん並んでいるのが目に留まった。「小禄青果店」で取材させてもらったのもこの季節だった。去年はたんかんを箱買いして、段ボールで送ってもらったことを思い出し、今年も買おうと思ってお店に立ち寄ると、「いやいや、橋本さん、買っていただかなくともお送りしますから」と言われて、いちど引き下がっていた。ただ、去年の夏には立派なマンゴーも送ってもらってしまったし、もらいものばかりなのも恐縮してしまうから、店頭に並んでいた田芋だけでも買って帰ろうと思って、昨日の夕方にもお店に立ち寄った。そこでもまた「たんかんは今度送りますから、とりあえずこれ食べて」と言われてしまい、立派な島大根に田芋、島らっきょうの束をいただいてしまった。

 立派な島大根は、どうにかキャリーバッグに収まりそうだ。田芋はやわらかいので、リュックにいれる。島らっきょうは、鏡餅と一緒にトートバッグに入れる。LCCだと機内に持ち込む手荷物もきっちり重さを計測されるので、ぎりぎりの重さになりそうだ。ある程度荷物をまとめたところでシャワーを浴びて、9時過ぎから市場界隈を散策する。公設市場は旧正月でお休みだ。今日は日曜日でもあり、閉まっているお店も多く、街が静まり返っている。今日は11時50分発の飛行機に乗るので、搭乗前に食べるものを買っておきたいところだけど、「上原パーラー」は日曜定休だし、タコライスの「赤とんぼ」は11時からの営業だ。どうしようかとぶらついて、「KNTB食堂」へ。ちまき1個くださいと言うと、2個包んでくれる。去年のように、Mの公演が沖縄であったり、Mの皆と沖縄を巡ったりする機会があれば、大量に注文してお返しすることができるのだけれども、こんなふうにオマケしてもらったぶんのお返しをどうすればできるだろうかと一瞬考える。「取材は順調?」とお店の方に尋ねられる。「もう、今は飲み屋ばかりになっちゃって、今朝もうちの前で酔っ払って寝てるのがいたよ。前はこのあたりの宿に泊まっていくお客さんも結構いたんだけど、今はもう、遅くまで騒がしいから、皆向こう(神里原通りの向こう側)に行っちゃってね」。

 10時にホテルをチェックアウトして、キャリーバッグを引きずりながら「ジュンク堂書店」に立ち寄る。どうしようか、ちょっと迷惑になるかなと思いながらも、カウンターにいる店員さんに声をかけ、店長のMさんを呼んでもらう。春に新刊が出ますので、またよろしくお願いしますとご挨拶した上で、ちょっとご相談なんですけど、と立ち話。相談というのは、タイトルをまだ決めかねていること。ただ、僕の中では「マチグヮー」というタイトルに決まりつつあった。前著の「市場界隈」というタイトルは、「マチグヮー」を言い換えたものだ。毎月通ったとはいえ、1年しか取材していない自分が「マチグヮー」をタイトルに本は出せないだろうと、「市場界隈」という言葉を選んだ。ただ、新聞で連載を始めるときに新報社からつけてもらったタイトルにも「まちぐゎー」が含まれているし、今回は「マチグヮー」をタイトルに冠してもよいかもなと思っていたのだ。

 店長のMさんにその旨を伝えた上で、「そのタイトルだと、沖縄の方には届けやすいかもしれないけど、県外の書店だと『はて?』となるかもしれないから、どうしようか迷っているんですけど、ずっとお仕事されているなかで、こういうタイトルだとお客さんに届けやすいというのはありますか」と尋ねてみたところ、「ここで商売をしてきて、ひとつだけ確信に近い形で感じていることがあるんです」とMさんは言った。それは、県外出身の著者がうちなーぐちをタイトルにした本を出すと敬遠される、というものだった。今日、話しておいてよかったなと思いながら、もう少し立ち話をして、ゆいレール那覇空港に向かった。ゆいレールは混み合っていた。窓から景色を眺めていると、あ、コート、と思い出す。コートをホテルのハンガーにかけたままチェックアウトしてしまった。気づいた時にはもう壺川駅まで来てしまっている。ここでゆいレールを降りて、タクシーで取りに戻っても、飛行機の時間には間に合うだろう。ただ、着払いで送ってもらうのと、タクシー代とを比べると、微妙にタクシー代のほうが高くつきそうだ。だったらもう、と那覇空港までゆいレールに乗って、ホームからホテルに電話をかけ、着払いで送ってもらえるようにお願いしておく。

 往路と違って、帰りの飛行機はかなり席が埋まっていた。飛行機の中ではずっと日記を書いていた。スカイライナーで日暮里に出て、駅前でタクシーを拾って帰途につく。玄関にたどり着いたところで、はたと気づく。部屋の鍵はコートの中に入ったままだ。しばらく里帰りしていた知人が帰ってくるのは今日の夜だ。どうしたものかと途方にくれていたら、ちょうど3階のご家族が帰ってくる。出張に行かれてたんですか、ちょっと沖縄に、と言葉を交わしながら、鍵を開けてもらう。ただ、集合玄関の鍵が開いたところで、自分の部屋の鍵がしまっている。結局、大家さんにお願いして、マスターキーで鍵を開けてもらうことになった。新幹線の遅延により予定より遅れて帰ってきた知人と、出前館で注文しておいた「老酒舗」のツマミで晩酌をする。